第57回 (2007年12月)「K氏とボジョレーヌーボーと・・・」
- Nawatani Niina
- 2007年12月1日
- 読了時間: 11分
更新日:4月9日

こんにちは! 異人館通クリニックの柴田です。
急に寒くなったかと思うと、もう12月ですねえ。本当に時が経つのはあっという間です。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
私はと言えば・・・PRPの研究に明け暮れる日々でしたが、「たまには気晴らしも必要でしょう」と例のK氏からお誘いを受け、11月の第3木曜日=ボジョレー・ヌーボー解禁の日に、K氏の会社で開催された「ボジョレー・ヌーボーとすっぽんの会」に行ってきました。この会は一昨年のクリニック通信12月号でも紹介しましたが、ワイン好きのK氏の会社で毎年ボジョレー・ヌーボー解禁の日に行なわれるパーティーです。(K氏については、詳しくはクリニック通信第21・22回をご覧下さい。)K氏とお会いしてから毎年誘われていたのですが、なかなかクリニックを休みにしてまでは参加しにくかったのでお断りしていました。しかし今年からクリニックの休みが木曜になったので参加できることになったという訳です。(このパーティーのためにクリニックの休みを木曜日にしたわけではありません。念のため・・・。)

K氏は「せっかくですからパーティーの日はうちにお泊りになってくださいよ」と言ってくださっていたのですが、K氏の新居は房総半島の最南端なので、翌日どんなに朝早く起きてもクリニックの診療には間に合いません。泣く泣くそれは諦め、その代わり水曜日の夜に東京に泊まる事にしました。(水曜日の診療が終わってからではやはり新居まではたどり着けないのです・・・。どうやらK氏の新居にお邪魔するのはもう少し先になりそうです。)そして水曜日の夜は、前回台風でおじゃんになったイタリアンのリベンジを・・・ということになりました。
「事務長さんもおいでになりませんか?」というK氏のお言葉を伝えるとなぜか
「あれ・・・偶然だなぁ。別件で東京出張と重なってるわぁ・・・ 」と・・・事務長。ほんまかいな。
しかしその出発を目前にして、私は不覚にもひどい風邪をひいてしまいました。その原因は・・・ 例のごとくスタッフに採血させてもらった血液でPRPを作製していた時の事です。モニター募集もしてさあこれから・・・という時に、検査会社が血小板検査に音を上げ、「あと2-3回で終わりにして欲しい」と言い出したのです。さあ大変。別の検査会社を探しましたが、その手配ができるまでできるだけ多くの実験をして今の検査会社には2-3回で検査を済ませてしまわないといけません。またもや何十本も試験管を出す羽目になり、実験しまくったためすっかり疲れて風邪をひき、それでも実験を続けたためこじらせてしまったのです。
しかしパーティーの参加は「今年こそはぜひ」とK氏に言われていたので直前にキャンセルもしにくいし、風邪をひく前日に東京に荷物も送ってしまっていたので、結局咳と熱をおして東京へ出かけました。(そのためか風邪が長引き、スタッフや患者様には迷惑をかけてしまいました。私の風邪が移った方がいらしたら本当にすみません。スタッフの皆も咳込んでいる私を見かねてのど飴を買いに走ってくれたり、毎日のように点滴の介助をしてくれました。本当にありがたく、申し訳ない限りです。おかげで今ではすっかり良くなりましたが・・・。)

そうして皆に支えられながら東京へ行き、まずはK氏との勉強会兼食事会に参加しました。K氏の力を持ってしても人気のAフレスカやアルポルトは取れなかったらしく、「いいイタリアンが取れなかったのでベージュにしました」とのこと。ベージュというのは銀座の一等地シャネルのビルにある超高級フレンチレストランです。レストラン専用入口には案内役のホステスが大理石と金張りのエレベータへ誘導。ゴージャスな店内にエスコートの女性は皆シャネルのスーツ。サッカーのジダン選手のようなウエイターはいかにもフランス語なまりの流暢な日本語でテーブルまで案内してくれます。叶姉妹がメンズ達と食事するのにぴったりな、なんともバブリーなお店です。
いつも私たちは遅刻していくので(大抵事務長の仕事が時間どおりに済まないからなのですが・・・)K氏は予期して「遅れても構いません。飲みながら待ってますので」とおおらかです。お言葉に甘えて(わざとではないのですが)例のごとく遅れて行くと、今回はボトルのシャンパーニュこそはあいていませんでしたが、すでに白・赤共に抜栓されているようでした。
「お久しぶりでございます! あら先生、風邪ですか? かわいそうに。美味しいワインを飲んで治してくださいね」(ワインで風邪を治す人も少ないと思うのだが・・・。)
K氏と久しぶりの再会を喜び、メニューを決めたりしている間に1本目のシャンパーニュはほとんどあいてしまい、例によってK氏とソムリエ君との意味不明の会話が・・・。

K氏: 「例の白はもう開いているかしら?」
ソムリエ君:「ええ、もういい開き具合かと存じます」
K氏: 「トレバロンは少し開きが遅いからねえ」
ソムリエ君:「ええ、おっしゃる通りでございます。でも、デキャンタージュを早く仰せつかりましたので、白はもうバッチリ開いて良い頃合でございます」
K氏: 「私はフランスに行った時に、この作り手のところまでこの白を買いに行ったんですけど、白はなかったんですよねぇ・・・赤だったらあるのに」
ソムリエ君:「おっしゃるとおり・・・白は非常に貴重な逸品でございます」
K氏: 「この白を置いているのは東京ではここだけではないかしら?」
ソムリエ君:(咳払い一つ)「 ・・・おっしゃるとおり・・・それは我々の誇りでございます・・・ 」

うーん、私たちには良くわからん会話であるが・・・。どうやら高級なワインをデキャンタージュ(抜栓してデキャンタに移す事)して香りが立ちのぼることを「開く」と言うらしい。感心したのは、ベージュのソムリエ君は決してK氏に逆らわないこと。私なんかがたまに行く(たまにだからよけいダメなんでしょうけど)神戸のコスパのいいフレンチレストランなんかでは、「冷えたシャンパンが好きだからもっと冷やして!」って毎回言うにもかかわらず、ソムリエ君は「これ以上冷やしたら香りがわからなくなりますよ~」と言って冷やしてくれません。しかしここはさすがに超高級店らしく、ソムリエはお客様の言う事は絶対に否定しないようです。ただ、否定はしないが、言いなりではない・・・この微妙なバランス・・・しかしその従順さには事務長もびっくり。
「いやあ、さすがベージュ。行き届いてますなぁ。おっしゃるとおり・・・ 」
もうソムリエ君の真似をしてニタニタしています。
お勧めメニューには「白トリュフのコース」なんていう魅力的なコースもあったのですが、コースの料理すべてに白トリュフ入り。何も全部に入れんでもええのに、と思うのだが・・・。(ゲストのメニューには値段は書いてないけど、めちゃ高そう。)K氏が例のジダン君にそれを勧められ、「それじゃあ一つはこの白トリュフコースにしましょう。先生、そのコースにされませんか?」そうして違ったコースを3つ頼み、この超高級店でもお皿を回しあいっこしちゃう仲良しの3人でした。そこに運ばれて来た「バッチリ開いた」白ワインの味わいの奥深いこと・・・。さっきのK氏とソムリエ君の会話は本当でした。

・・・とグルメとワインに走っている(事実そうですが)3人のように見えますが、実はこの会は勉強会も兼ねているので、酔っ払う前に、と矢継ぎ早にK氏に質問を浴びせる私にK氏と事務長は「先生は真面目ですねえ」・・・ 。2人はもう勉強の話は後にしようよ、という雰囲気ですが、私はせっかくK氏が目の前にいるのだから、聞ける事は聞いてしまおうと思ってしまいます。(K氏が実は学術担当であるという事をお忘れの方も多いと思いますが・・・。)
正直今回のPRPの研究でも、青タンができない高濃度のPRPを開発できたのはK氏の助言も大きかったのです。今回の研究は今までの研究の中でも最難関で、ネットや本で情報収集する以外にも、試験管のメーカーや輸血部門から臍帯血バンクや幹細胞研究所まで、あらゆる分野の研究者の方のお話を聞きました。すごく勉強になることも多くて感激しましたが、中にはメーカーの営業の人なんかで私の話についてこられない人もいました。そんな中、行き詰まった時にいつも参考になったのはK氏の助言で、「専門外だから解りません」と言いつつも、的確な考え方のヒントなどを与えてくれるのでとても助かったのです。私の考えつかないようなことをアドバイスしてくれるところなど、やっぱりK氏は違う!という感じ。事務長も、「K氏って遊んでるように見えて実はすごく勉強してるよね。やっぱりそういう人でないと面白くないんだよなあ。僕と同じで・・・ 。」
(??)・・・と一目置いているようです。
そうして大事な質疑応答が終わった後は、グルメと奥深いワインに酔いしれる3人でした・・・ 。 酔っ払ううちにボジョレー・ヌーボーの会に話が及び、
事務長:「明日は、あれでしょ・・・ 。でも、ボジョレー・ヌーボーってまずくないですか?」
うわぁ・・・酔っ払っているとはいえ、招待されておきながらなんて失礼な奴!
K氏:(しばらく沈黙・・・ )「はぁ? 美味しい訳ないじゃないですかぁ・・・誰が美味しいなんて言ったんですかぁ?」
え・・・え!?
K氏:「フランス人にも良く言われるんですよ、『ヌーボーなんて飲むの??』って。でも、なんか理由をつけないと騒げないじゃないですか! 口実ですよコージツ。」
ありゃ・・・そうなんだ。

翌日は夕方からK氏の会社へ。パーティーには関連会社の人たちがたくさん集まるそうで、会場はとてもにぎわっています。外人さんも多く、国際的な雰囲気。2年前にメソセラピーとメソリフトの研究に韓国に行った時にお世話になったK氏の会社の韓国支店のIさんとも再会する事ができました。 K氏の会社の内装はまるでアルタミラの洞窟のような漆喰作りで、壁はなんとピンク色なのです。全くK氏の好みらしい造りなのですが、最初にお邪魔した時は私もびっくりしました。
「パーティーではお客さんが多くてあまりお相手できないかもしれませんので、友達をたくさん連れて来てください」とK氏に言われていたので、勤務医時代に仲良しだった元プロパーさんで東京に転勤になったワイン好きのUさんを誘って行ったら、大手製薬会社の管理職にある彼は、その個性的な会社にびっくり!「こんな会社もあるんですねえ」と目を白黒。しかし何種類も揃ったボジョレー・ヌーボーにワイン好きの彼の目は輝き、次々とグラスをあけていきます。私もボジョレー・ヌーボーは美味しくないと思ってたんですが、意外といける。
社内中央にはキッチンがあり(良く考えるとそういう会社も珍しい・・・いや、極めて変な会社だ。)大鍋ですっぽんが煮込まれています。勧められるままプラ容器によそわれたすっぽん鍋を一口食べると・・・。学園祭の模擬店のようなプラスチックのどんぶりなので味は期待していなかったのですが、そのすっぽん鍋の美味しい事!! グルメのUさんもびっくり。「京都で大市っていうすっぽんの有名な高級店があるんですけどね。限りなくそこのすっぽんに近い!!」と絶賛。周りはほとんどが初めて会う人なのですが、ボジョレーとすっぽんを介して皆なんとなく仲良くなっていきます。事務長も遅れて来て、来るなり数人のK氏の関連会社の若い男の子に囲まれていました(彼はどうやら男にもてるらしい)。そうしているうちに、お鮨屋さんの出張板前までが登場!カウンターを社内に設置して、板前さんがお鮨を握ってくれるのです。こんな会社もあるんですね~。またもやUさんは「東京で今まで食べたお鮨の中で一番旨い!!」と感激。確かに、かなりの水準でした。クリニック通信第43回でKとの「鮨対決」に登場した「N」と「さわだ」にはちょっとかなわずでしたが・・・。そうしてボジョレーとすっぽんの夜は更けていくのでした・・・。

そう言えば、11月22日に「ミシュランガイド東京」が発売されましたね。K氏から早速電話があり、「『さわだ』は星もらってましたねえ。」
連日テレビでも「ミシュランガイド東京」の事は報道されています。その中でも興味深かったのは、普通は星を取ったことをお祝いするような話ばかりなのですが、本場フランスで3つ星を返上してカジュアルレストランに改装したシェフが紹介されていました。「どうして名誉ある3つ星を返上したのですか?」というインタビューアーに対して
「3つ星レストランを維持するのは大変な事なんです。テーブルクロスのクリーニング代だけでもすごい金額になります。自然と料理の単価は上がり、一人当たりの平均は5万円以上になってしまいます。私は残りの人生を考えた時に、もっと多くの人に自分の料理を気軽に味わって欲しいと考えたのです・・・私の料理のあり方を知って欲しいと思ったのです。その為には星を返上する必要があると思いました。」
うむ。・・・カッコいい!! やはり本場フランスの料理人は成熟しています。星の数ではパリを抜いたと大喜びしている日本とはかなり違いますね。なんか哲学を語るような老シェフの言葉はずっしりと重く、何百年と続く料理の歴史を感じてしまいました。

私のいる美容医療界は歴史が浅く、ともすればミーハーな宣伝主義のクリニックが多い中にあるので、やはり「本物を追求する人」は違うものだ・・・と関心してしまいます。大体年をとっていくと勲章とか星とか名誉を欲しがるようになる中で、自分らしさを追求するためにそれを返上する・・・ってなかなかできないですよね。来月、異人館通クリニックが「Hanako」に掲載されるってハシャイでいた自分を少し反省。私もいつか本物を追及した人だけが語れるオーラを持てるようにならないと・・・と。当面は本物を追求して研究を重ねるしかないか・・・と思いつつ、今回は思いっきりグルメネタに終始しているようで・・・ 。こうなれば徹底して最後までグルメで押し切ろう!
今年はボジョレーとすっぽんの会にちなんでクリニック恒例の12月のサービスにボジョレーヌーボーを出そうと思い、K氏のパーティーに出てきたボジョレーヌーボーをネットで探してみました。しかし、結構高いのにびっくり。これだったら去年オーベルジュで見つけたロゼ・シャンパーニュの方が安くて美味しいやん・・・と、コスパ重視の私たちはそちらを選ぶ事に。12月中はこのロゼ・シャンパーニュをサービスしちゃいますね。合言葉は「PRPの未来に乾杯!」です。PRPの最新結果はブログで更新しますので、そちらも興味ある人はチェックしてくださいね。来年も宜しくお願い致します。