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第52回 (2007年07月)「学会と人情と・・・ 」



こんにちは、異人館通クリニックの柴田です。 梅雨空の続く毎日ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 私は最近、近くの異人館にテラスの気持いいレストランを見つけてしまい、雨の合間をぬって通っています。しばらくはオーベルジュにはまっていて、次はトマトのムースの美味しいオーベルジュへ・・・とたくらんでいたのですが、そのテラスのレストランのムースが美味しいので、遠くまで行く必要がなくなってしまいました。その代わり・・・という訳ではありませんが、最近は学会出張で遠くに行く事が増えました。学会はこちらの都合に日程を合わせてくれる訳ではないので、休診にする事が多く皆様にはご迷惑をおかけしておりますが、そこで得た知識や情報を診療に役立てていきたいと思っていますのでご容赦くださいね。



さっそくですが、先日は日本美容外科学会と世界アンチエイジング学会に行ってきました。

日本美容外科学会が開催されたのは夏目漱石の「坊ちゃん」の舞台でもある四国は松山です。(今でも小学校の教科書は「坊ちゃん」が載っているのでしょうか? そういえば「赤シャツ」はいやな奴だったなぁ・・・でも、私の学友の同じくらい性格の悪い奴も「赤シャツは嫌い!」って言ってのが妙に心に残っています。「え?赤シャツってあんたそのまんまやん!」って言いたいのを堪えて・・・ 。読む人によって違う人をイメージさせてくれるところが名著なのかもしれない。)それはさておき・・・松山で学会があるのは珍しく、私も松山に行くのはなんと20年ぶりです。

美容外科学会では、糸でリフトアップを図るスレッドリフトの発表が興味深く、取り入れてもいいかも・・・と思いました。また、ヒアルロン酸の安全な注入方法などを数人の先生とディスカッションでき、実になったと思います。高須クリニックの高須先生が自分のフェイスリフトの手術をビデオ発表されていました。彼のやり方には賛否両論ありますが、「何でも自分で試してみる」という姿勢には共感しました。(高須先生の肌の若さは異常ですね・・ホントに30歳代の肌です。)



学会での収穫もさることながら、今回の学会で感動したのは、松山の人の人情でした。美容外科学会では発表の後に結構派手なレセプションがあり、ゲストなども登場します。レセプションの後、私が以前勤務していた病院の婦長さんが引退して松山におられるので、15年ぶりに会う約束をしていました。(私が勤務医時代、当直の時に大事にしていた象のぬいぐるみの修理をしようとていたら「あら、かわいい! 私がしてあげますよ」と完璧に修理してぬいぐるみ用の服まで作ってくれた優しい婦長さんです。)ところが学会が少し長引いたので、レセプションの始まる前に婦長さんが学会会場まで来られてしまい、会場の警備員さんに呼ばれたのです。

「柴田先生ですか? お知り合いの方がお待ちですけど・・・」

私と婦長さんは15年ぶりの再会を喜びましたが、普通は学会費を払っていないとレセプションには出られません。しかし婦長さんが「レセプションの間外で待ってます」と言われるのを聞いていた警備の人は、なんと「混じって入ったらわからん、わからん」と、婦長さんも一緒に会場に入れてくれたのです! 東京の学会などではありえない事です。 「松山の人って、ええ人やなあ・・・」

(でも警備の事を考えるとそんな事してもええの?・・とは思うのだが。)


その後婦長さんと一緒に道後温泉に泊まって昔話に花が咲き、翌日私はタクシーで学会会場へ、婦長さんは一度松山のはずれにある自宅に戻られて学会後にまた会う事になりました。「駅がすぐそこですから」とタクシーに乗ろうとしない婦長さんに、タクシーの運転手さんは「お母さんどこまで帰るの? 近くでもええから駅まで送ったげるよ」う~ん、神戸ではありえん光景・・・。(ああ、神戸のタクシーは最悪。MKさん以外は・・・ )



学会後にもう一度会って松山城などに行き、ゆっくり話を楽しんだ後、私はタクシーで空港へ。するとまたもや運転手さんが「お母さんはどこまで帰るの? 北条? ああ、それやったら○○のバス停がええわ。そこ回って行っちゃるから、乗っていき」思わず「松山の人って親切ですねえ」と言うと、婦長さんと運転手さんは「そうやねえ、人情はあるかなあ」「隣の畑の野菜でもちょっと褒めたら喜んで次の日には山盛りくれるけん、下手に褒められんのよ」「松山で子供が迷子になってたら、見つけた人が家まで送ってくれるけんね」・・・都会では考えられない人情に、妙に感動してしまいました。婦長さんが持たせてくれたお土産の中には、田舎風のお饅頭と一緒に手造りの野菜が・・・お礼の電話をすると、「また野菜育ったら送りますね」と、1ヵ月後にはズッキーニや甘夏、さやえんどうや「坊ちゃんかぼちゃ」というかわいいかぼちゃなどをどっさり送ってくださいました。美味しい野菜をいただきながら、優しい婦長さんの顔と共に親切な警備員さんや運転手さんの事を思い出す今日この頃です。



話は変わって・・・世界アンチエイジング学会はおなじみの東京で開催されました。

東京と言えばやはりこの人、K氏の登場です。学会前の夜、K氏と久しぶりに再会する事に。K氏には白髪の研究に関する情報収集も頼んでいたので、勉強会を兼ねて青山のイタリアンレストランに行く事になりました。K氏と会う時はなぜか事務長も「東京出張のついでに・・・」と参加するのです。(ほんとに出張のついでかな。)

仕事で遅れた事務長と落ち合って青山のレストランに着くと、K氏はすでにシャンパーニュ(イタリアンレストランなので正確にはスプマンテ)をあけています。

K氏:「もう、遅いんだから。ほとんど飲んじゃったじゃありませんか」

そこには、半分は飲んだであろうスプマンテと3つのコルクが・・・。

K氏:「赤と白も抜栓しちゃいましたよ」

うーん、さすが。白までまたデキャンタージュ、ですか・・・。 勉強会もそこそこに、K氏お勧めのロゼ・スプマンテをいただきます。「う~ん、いい香りだ・・・」

お料理は、プリフィックスコースでそれぞれが違うものを選び、分けたり交換したり・・・。こんな時はすごく仲良しのようになってしまう3人でした。

事務長:「こんなんして楽しめる友達って少ないでしょ?」

K氏: 「え?友達ですか? そんなのはいません!」(きっぱり)



次々運ばれてくるお店の名物「フルーツトマトの冷製カッペリーニ」や「塩水うにの冷製カッペリーニ」の美味しい事!「縞アジのカルパッチョ サラダ仕立て」も最高、子羊に添えられた大きな人参の美味しいのにはびっくり・・・。美味しいお料理をいただきながら、話は勉強からK氏の新居に移ります。K氏が初めてクリニック通信に登場した2004年の12月に建築中だったK氏の新居が、2年半の歳月をかけてやっと完成したらしいのです。そうそう、水平線に沈む夕陽を見ながらワイングラスを傾け、詩を詠める例のプール付の豪邸です。場所は房総半島の最南端だとか。

事務長:「なんでそんな不便なとこに家建てたんですか??」

K氏:  「いいじゃないですか、海に沈む夕陽を見ながらワインが飲めるだけで・・・。ぜひ遊びにいらしてくださいね。ゲストルームもたくさんありますので、泊まっていってください」

事務長:「いきなり泊まるのはご迷惑でしょうから、お昼にお邪魔してもいいですか?」

K氏: 「やですよ、それじゃ飲めないじゃないですか。車しか交通手段がないんですから」


どうやら日帰りではとても行けそうにない場所らしい。K氏邸の訪問も一仕事です。そしてK氏は金曜日に千葉の新居に帰ると、火曜日まで東京の会社には来ないそうです。(早くそういう身分になりたいものだ・・・。)お料理が進んでチーズになる頃には、追加のグラスワインが登場。明日の学会は大丈夫かな、というほど楽しんでしまいました。松山のほのぼのした雰囲気とはまた違った都会の楽しさです。



翌日は思ったより早く目が覚め、ちゃんと最初の演題から聴くことができました。アンチエイジング学会と言うだけあって、抗酸化物質の話題が豊富です。中でも興味を引いたのは、雑誌「Nature」に載ったという研究の発表で、水素が効果的な抗酸化物質であるというものでした。活性酸素にも有害なものと無害なものがあり、水素は有害な活性酸素を選択的に還元するので細胞を有効に保護するのだそうです。他には内科的なアンチエイジングの講演が多かったのですが、「顔面のアンチエイジング」と題した美容的なアンチエイジングの講演もあり、レーザーや高周波を使った美容医療が良いかどうかは20-30年経って比較しないと判らないと言われていました。先日も、フラクセル(レーザーを極小スポットで照射して角質以外の皮膚を点状に焼き、その部分が新しく再生する力を利用して皮膚の再生を促す器械)のメーカーに説明を聞いてみましたが、レーザーで一旦皮膚にダメージを与えるので、やはり日本人は色素沈着を起こしやすく、海外では2週に1度のペースで施術しますが日本では1月に1度のペースを勧めているそうです。



東洋人の肌は西洋人と違って、ダメージを受けた場合、治る過程で傷跡が残りやすく、色素沈着などのトラブルを起こしやすいのです。アメリカで大流行した深いピーリング(酸で皮膚を溶かし、新しい皮膚を再生する治療)が東洋人にはトラブルが多く、浅いピーリング(表面の角質のみを溶し、新陳代謝を促す治療)しか勧められず、効果を出すのに時間がかかってしまうのもそのためです。ですからレーザーでダメージを与えて皮膚を再生する方法は、本来は東洋人向けではありません。フラクセルも出てまだ3年ですし、5年後・10年後のトラブルは保証されていないのです。その点メソリフトは、針で皮膚に穴をあけ、その傷が治る力を利用して皮膚の生成を促す方法で、フラクセルと原理は似ていますが皮膚にダメージが少ないので、東洋人向けと言えるでしょう。レーザーとの違いは、やけどより鋭利なガラスで切った傷の方が綺麗に治ることを考えられるとわかりやすいと思いますが、鋭利な針で開けた穴は切り傷よりもずっと早く綺麗に治りますし、針の刺激は線維芽細胞(コラーゲンやヒアルロン酸を作る細胞)を活性化させ、皮膚本来の若返りを可能にします。この講演でも、メソリフトの利点を再確認することができました。また参考になったのは、レーザー照射の深さや面積と痛みの関係です。レーザー照射を深くするよりも、単位面積当たりの照射数を多くする方が痛みは強くなるそうで、照射の間隔をあけて照射回数を増やした方が痛みは少ないそうです。メソリフトの場合も針の太さ・長さと痛みの関係をずっと研究してきましたが、それから考えると、ローラーの方が針は細いのに今使っているスタンプの方が痛みが少ないのは、針の密度のせいかもしれません。現在、針跡が少なく、効果はあって痛みの少ない器械の開発途中なので、今後の研究にこれは役に立ちそうです。



学会はもう一日あったのですが、あまり長く休診にするのも・・・と思って切り上げて帰りました。しかし考えるとせっかくの情報収集の機会だったのにもったいない事をしたと思いました。今後は学会は途中で帰らず全日出席しようと思うので、皆様にはご不便をおかけしますがお許しくださいね。

さて・・・例の婦長さんからの家庭菜園野菜が届き、再び我が家では野菜を中心とした料理の研究に取り組むことに。 スーパーで売られている野菜とは違って、土の香りがしっかりとついてごつごつしいて、いかにもしっかりと日差しを浴びた・・・という野菜なので、包丁でカットするのも一苦労です。 繊細な味付けをすると言うよりは、大きなおなべにどんどん放り込んで適当にぐつぐつ煮込む・・・と言う調理方法が一番よく合うみたいです。隣のトトロにでてくるようなのどかな田園風景が広がる自然の中で、アンチエイジングとかUVケアなんかには無縁の、皺だらけの笑顔が素敵な皆さんが育ててくれた野菜を食べながら、小さな皺をどうやったら薄くできるのか・・・という課題にひたすら取り組んでいる自分がなんだか不思議に思えてきます。ごつごつとしっかりとした野菜はこれはこれでおいしいし、高級イタリアンのサラダはやはり美味しいと思うのですから、人間は本当にいろいろなものを取り込む奥深さがあるのだと思います。 松山の「坊ちゃん」と東京のK氏も案外いいお友達になれるのかもしれません。



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