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第91回 (2010年10月)「貴船の不思議」



こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。今年は9月になっても暑い日が続いて参りましたね。その後急に涼しくなりましたが、皆様体調など崩されていませんか? 私は9月は1日だけ涼しい場所に行ってきました。川床料理で有名な、京都の貴船です。クリニックによく点滴に来てくださる実業家のOさんが、貴船で料理旅館をしている会社の社長Tさんを紹介してくださって、Tさんが川床に招待してくださったのです。貴船というのは京都の北部にあり、加茂川の上流である貴船川を隔てて、東の鞍馬山と相対する貴船山の山麓一帯を指します。貴船川の渓谷は夏は驚くほど涼しく、川床料理で有名です。川床というのは清流の数十センチ上に木組みをして畳を敷いた野外のお座敷で、清流の上で涼みながら懐石料理をいただける・・・というもの。私は大学が京都だったので、街中の暑さが嘘のように涼しい・・・という川床の噂は学生時代から聞いていて、一度行ってみたいなあと思いながら京都にいる間は実現しなかったのですが、京都を離れて何十年も経ってから川床を体験できるなんて夢にも思っていませんでした。おまけにその後少し不思議な体験をする事に・・・。



きっかけはTさんが作られた化粧品事業部の「KIFUNE」化粧品を中国で売る事になり、中国でも事業を展開されているOさんがマネージメントを頼まれた事です。クリニックに来られたOさんが「先生、今度化粧品を中国で売る事になったので、また化粧品の事を教えてください」と言われたので、話を聞いてみると、その「KIFUNE」化粧品を共同で作っているのは先月号で登場した、PRPの研究を手伝ってくださっている人の良いOさんの製薬会社だったのです。そしてその化粧品のアドバイザーはOさんの元同僚だという事も判りました。

Oさん:「不思議なご縁ですねー。今度T社長もクリニックに連れて来ますよ。プラセンタ点滴の事を話したらすごく興味を持っておられたので・・・」

ということでTさんもクリニックに来られました。Oさんが「素敵な方ですよ。私より年上やのに若く見えるし、いつまでも少年みたいで可愛いとこがあるから大好きなんです」と言われるTさんは、確かにどこか少年のような雰囲気を持った方でした。プラセンタ点滴も最初は迷って「ビタミン点滴にしようかな・・・」と言っておられたのに「やっぱりプラセンタ点滴にする! 先生と話してたらする気になってきた」といきなり5本入りを希望。

柴田:「初めての方はいきなり5本だと効きすぎてドキドキすることがたまにあるので、3本入りからお勧めしてるんですが・・・」

Tさん:「いや、大丈夫です。せっかくやし5本にします! いっつもこんなノリなんですよ」

点滴後も、Tさん:「なんか元気になってきた気がする!」

Oさん:「そうでしょう? すっごく効きますよ!!」と盛り上がりまくり。

私が貴船にまだ行った事がないと言うと、Tさんは「ぜひ来てください!招待しますよ!」

と言ってくださって、即日程調整となり、貴船訪問の話が決まったのです。



さて、9月というのにまだ暑い日が続いていた中旬、Oさんの車に乗せていただいて、いざ貴船へ。懐かしい京都の街中から北へ向かい、車は細い道を山奥へ・・・。杉林の中を流れる渓谷が見えて来ると左手に貴船神社の鳥居が見え、そこからさらに奥へと進みます。貴船神社は水の神様として有名で、全国の調理業や水を取扱う商売の人々から信仰を集めているそうです。縁結びや雨乞いの神様でもあり、古来より晴れを願う時には白馬が、雨を願う時には黒馬が奉納されたそうですが、実際の馬に代わって木の板に描いた馬が奉納されたこともあり、このことから絵馬が発祥したとも言われています。貴船神社は約1600年前、神武天皇の母である玉依姫命が、黄色い船に乗って淀川・鴨川・貴船川を遡って当地に上陸し、水神を祭ったと伝えられ、社名の由来は「黄船」によるものと言われていますが、「気の生まれる根源」が転じて「気生根」になったとも言われているそうです。そんな話を聞いているうちに、Tさんの旅館「右源太」に着きました。Tさんの家系は代々貴船神社の社家だったらしく、「右源太」という名前は11代続いているそうな。料理旅館としては2代目だそうですが、若き2代目はいろいろなことにチャレンジされているようで、「貴船倶楽部」というカフェやお洒落な「貴船ギャラリー」もTさんが作られたそうです。付近は古い料理旅館ばかりで、お洒落なカフェやギャラリーはそこだけだとか。



そんな話を聞きながら川床へ案内されると、渓谷の水のすぐ上に床があり、ひんやりと天然のクーラーのような清々しさで寒いくらいです。料理旅館「右源太」の川床は「左源太」と呼ばれ、川床の中でも上流の方にあり、渓谷と杉林に囲まれた凛とした雰囲気は暑い街中とは別世界です。その中でも一番上流の席に案内され、渓谷の音を聞きながら美味しい懐石料理を味わう・・・という贅沢を満喫する事ができました。あまごやごり、鮎といった川魚や湯葉、大好きな鱧を使った京料理はどれも美味しく、次々といくつものお料理が出て来たのでお腹いっぱいになってしまいました。


川床の後は「貴船倶楽部」や「貴船ギャラリー」に案内していただき、「パワースポット貴船」や「KIFUNE化粧品」の話を聞きました。パワースポットとは、オカルト的なエネルギーが集中しているとされる場所のことです。(しかしパワースポットの「効能」には科学的根拠は全くないようです。)最近はパワースポットが空前のブームだとかで、貴船もテレビや雑誌でよく紹介されるそうです。貴船=気生根(きふね)は、’気’の生ずる地=パワースポットとして信仰を集め、貴船神社の奥宮拝殿の下には、地球で生成されるエネルギー(地の気)が噴出する龍穴があるそうな。貴船の東側には鞍馬山があり、850年程前、牛若丸(幼少時代の源義経)が天狗(鞍馬天狗・・・って、皆さん覚えてます?)に剣術を習った場所として知られていますが、鞍馬にある鞍馬寺本堂前の六芒星には宇宙に満たされているエネルギー「天の気」が降臨しているらしい。そのような事から、貴船と鞍馬は日本有数のパワースポットとして近年注目を浴びているという事です。



貴船や鞍馬では、不思議な事が時々起こるそうです。鞍馬寺の本堂の前で参拝者が急に倒れたかと思ったら、倒れたまま意味不明の事を言いながら暴れたりして、仕方なく救急車を呼んだなんて事が年に1-2回はあるらしい。そういう風になるのは決まって女性で、殆どの場合は暫くすると落ち着いて何事も無かったかのように収まるそうです。Tさんも知り合いの写真家と同行したとき、雨模様だったのにレンズを向けたとたん光が差し込んだり、風がぐわ〜んと吹いて樹々の枝葉が揺れたりして、とても幻想的な作品が撮れたらしいのですが、そんな状態が2時間も続き、その画像を納めた写真家のマックは何故か壊れてしまったのだとか。そんな事って本当に起こるんですかね?? Tさん曰くは、パワースポットには地球の磁力の源が集中している場所もあり、そういう場所では植物が磁力の影響を受けて、変わった成育をする事が多いらしいのですが、貴船・鞍馬にも変わった樹木がたくさんあるそうです。ねじれたまま成長して龍のように見える木があったり、違う種の木が絡み合って成長してたり、木の根が地表を四方八方に這っていたり・・・。そんな神秘的な光景に出くわす事も、パワースポットと言われる所以なのだとか。



ところで、パワースポットってどうして流行るんでしょうねえ? それは、人間はそうあって欲しいと思うものを信じる癖があるからだと思います。超能力や奇跡なども、パワースポットと同様に科学的根拠は全くありませんが、一般的にはかなりの割合で信じる人が多く、真剣に研究している人もいます。(かの有名な米国スタンフォード研究所にも超能力を研究している博士がいるらしい。)「奇跡」というのは人間の力や自然現象を超えた出来事を指し、神の力などとされますが、統計学的に極めて低い確率でしか起こらない(望ましい)事が実現した場合にも用いられます。奇跡や超能力を信じるというのは、人間の「そうなったらいいな」という願望の現われなんでしょうね。欧州でかなり広まっている「ホメオパシー」という治療法(症状をひき起こす物質を極度に稀釈して患者に投与することによって自然治癒力を引き出し、症状を軽減するという治療法)がありますが、これなども臨床試験で科学的根拠は全くないと証明されたにもかかわらず、まだ欧州の多くの国で行われているのは、それを信じていて希望する人が多いからだという事です。これなどは医学的には危険な場合もあるようですから気をつけなくてはいけませんが、希望する人が多いというのは「効く」と信じれば効くような気がするからなんでしょうね。「病は気から」と言いますから、気の持ち様かもしれません。



日本でも、そこにお参りすれば子供が授かるという「子宝神社」なるものがあります。子宝神社は各地にあるようですが、聞くところによると、とある離島にある子宝神社は良く効くという噂で、かなり辺境の地なのでそこに行くのは大変なんですが、頑張って行くとすごく効くらしく、そこの神社には「お陰様で子供が授かりました」という感謝の言葉がたくさん記されているのだとか。もちろん科学的には神社にお参りしたからといって子供が生まれる根拠は全くないのですが、そこで感謝の言葉を見ると勇気が出るのか、もしくはそんな辺境の地まで行ける人というのは元々体力があるので、そこまで行けない人よりは妊娠しやすいのかもしれませんね。私は個人的には宗教やオカルト的な事はほとんど信じないタイプで、感覚より論理重視です。何にでも理論的裏付けがないと気が済まないたちで・・・まあ、医学というものはもちろん科学的根拠がないとダメなので、一種の職業病ですかね。



貴船から帰った翌日は珍しく朝早く目が覚めました。私は大体朝が弱いタイプでして、朝にすがすがしく目が覚めるという事は希なのですが、たまにはこういう日もあるもんですね。朝はさすがにそれほど暑くないので、ベランダにでて朝の新鮮な空気を吸いました。「あ~気持ちいい」 そこで上新電機に新たな看板が作られているのに気づきました。(私の自宅のベランダからは上新電機がよく見えます・・・)その時は特に意識する事もなくそのままシャワーを浴び、自宅でメールの返信などを行って久しぶりにゆったりとした朝を過ごして仕事に出かけました。翌日はクリニックが休みだったので、自宅で雑務をやっていたのですがふと外に目をやりますとなんだか風景がちょっと違うのです。「あれ? 何となく変だなぁ」と思ったのでベランダに出ました。そうすると昨日確かに見えていた上新電機の看板の文字が読めないのです。ちょっと頭が混乱してきましたが、よくよく整理してみると何も風景は変わっていません。ただ、私の通常の視力ではいつもは看板の細かい文字までは読めないのですが、昨日はなぜか文字が読めたのです。おそらく一時的に視力が回復し、文字が読めた事で新しい看板が出たと勘違いしたようです。今改めて見ると、やはりいつもの赤と白のボーっとした印象の看板が路地に面して立てかけられています。「あれ? 確かに昨日は看板に書いていた文字が読めたよなぁ・・・」しばらく考えたのですが、「もしかして、貴船から帰った次の日だったから??」ということしか思いつきません。もちろん視力が一時的に回復するという事はあり得る話ですし、非科学的な話ではないのですが、そのきっかけとなる出来事と言うのがそれしか思いつかないのです。そういえば何となく昨日の朝は早くに目が覚めて体調が非常に良かったですし、前日に長い時間移動しており、慣れない体験をしているので普通であればぐったり疲れて朝起きられなくても不思議ではないのですが、そんな事はないどころか体調はむしろ最近で一番良かったように思うのです。 「なんでかわかれへんけど、貴船に来たらなんか元気出るって言われる方多いですよ」・・・というTさんの言葉を思い出しました。なるほど、パワースポットっていうのは科学的に何がどうだ・・・って事はないかもしれないけれど、体全体に何らかのよい影響を与えるという事があるのかもしれません。何となくいい・・・という事はどうしてもうまく説明できないのですが、やはり「何となく体調がいい」のです。(2日後には元に戻ってしまったのはなんだか寂しいのですが・・・笑)



考えてみると私はいつも理論や数字を追いかけてしまい、「マニアックだ」と言われるのですが、ちょっと理論に走り過ぎかもしれません。整形外科時代も患者さんの顔を見ずに、治療する手や足ばかり見ていましたから・・・。今はさすがに顔を診る科なので患者さんの顔はじっくり見ますが、局部的に見過ぎかも・・・と思ってきたのです。へこんだところを数ミリ盛り上げたり、下がったところを数ミリ上げたり・・・という細かく正確な治療も必要だとは思うのですが、全体的な雰囲気や、患者様がよく言われる「なんとなくいい」という印象も、もっと重視した方がいいのかな、と思い始めました。

貴船の不思議のお陰で、美容医療も理論的裏付けはもちろん大事ですが、部分的な改善にとらわれるより、全体が綺麗に見えて第一印象が良くなるような治療も大切なのではないかと、目が覚めたような秋の日でした。


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