
こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。急に暑くなって大変な毎日ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 熱中症にならないようにお気を付けくださいね。 私はと言えば・・・7月はPRPのモニター試験のため目の回るような忙しさで、知らない間に梅雨も明けていました。そんな最中に私の右腕となるはずだった「おっさん度満点」のNさんが遠くに引越すことになり、惜しまれながら退職してしまったのでますます大変に・・・。Nさんがいる間は、クリニック内は女子の方が人数が多いのにおっさん度は女子の方が高い・・・という、たくましい状態が続いていたのですが(私がかなりの割合でそれを加担しているからではあるが)今は草食系男子中心のおとなしい雰囲気になってしまいました。Nさんの穴を埋められるような人はなかなか来ないのは分かっていたので、点滴マッサージサービスをアンプル追加サービスに変えたり(マッサージを楽しみにしていらした方には申し訳ありません)、体制を変えるのにもバタバタしているうち、一気に夏が来てしまった感じです。

最後まで息つく暇もなく(「息つく暇がないくらい働いてみたいんです」というのはNさんの面接時の名言です)働いてくれたNさんに、何か餞別を渡そうかと考えていて、ふと目についたのが「食べても痩せる」というクロワッサンの「伊達友美式」ダイエット特集。Nさんはかなりぽっちゃり(というよりがっしり)してたので、ダイエットするように言っていたのですが、メロンパンやパスタが大好きでなかなか進みませんでした。しかし彼女のメリットを考えると、ダイエットした方がいいのは言うまでもありません。そのダイエット特集を見ると、「カロリーは気にしなくていい」「肉や魚を食べないと痩せられない」「ご飯とおかずの定食をしっかり食べる」「おやつとお酒は我慢しなくていい」「運動なんてしなくていい」・・・ほんとに?? こんなんで痩せられたら万々歳やけど・・・という感じです。良く読むと、肉と言っても脂身の少ない赤身を摂って筋肉をつけ、代謝の良い体を作る。おやつとお酒は「無理に」我慢しなくていいけど、ケーキは避けて和菓子にする、ジムなどに行って無理に運動する必要はないけど、姿勢を良くして早歩きを20分・・・というような事でした。でもカロリー計算が面倒くさいNさんにはざっくりしててストレスも少なそうだしいいかも、と思ってその本を餞別にすることにしました。 Nさんは「ありがとうございます! 頑張ります!」「・・・ここに来てプラスになった事、いっぱいありましたよ。ここで『なんでこんないい人ばっかり集まってんねんやろー』って思うぐらい、いい人と出会えたし・・・」「ほんとに息つく暇もなく働けて良かったです」と喜んでくれたので嬉しかったです。今頃は遠くでダイエット頑張ってるかな?

ところで、最近私もちょっと痩せました。少し前までは「最近ちょっと太ると痩せにくくなったな~。年かも・・・」と思ってたんですが、7月に入って2週間ほどであっという間に痩せてしまったのです。残念ながら「伊達式ダイエット」が功を奏した訳ではなく、PRPモニター試験が原因でしたが・・・。今回のモニター試験の目的は、より効果的なPRP注入療法の開発のため、まずPRPの効果を左右する要因は何かを突き詰めることと、シワやたるみの変化を機器で測定して客観的評価を試みることです。現在PRPはいろいろなクリニックで行われていますが、他のクリニックでPRPを注入して「全く変わらなかった」という人もいるようにその効果にはばらつきがあり、きちんとした治療方法が確立されていないのが現状です。10月にパネリストをする美容外科学会のパネルディスカッションのテーマは「PRP療法は効果があるのか」ですし、会長のK先生も「PRPは自分でやるとどうもうまくいかなくて・・・」と言われるように、PRPで確実に効果が出せる施設は少ないようです。

PRPだけでは効果が出にくいので、FGF(線維芽細胞増殖因子)をPRPに混ぜるという方法まで出て来て、そのために注入部が膨らみすぎるという副作用も出ているようなので、それを防ぐためにも「こうすれば確実に効果が出る」という方法を追求しなくてはいけません。当院ではPRPの血小板濃度を220万/μL前後にまで上げ、少量ずつ細かく注入する方法で効果を上げてはいますが、濃度以外にPRPの効果を左右する要因はないのかを調べたり、シワやたるみがどの程度改善されるのかを数値で出す事も必要だと考えて再度モニター試験をする事にしました。しかしモニター試験をすると言うのは簡単ですが、実際に行うのは結構大変だったのです。 シワやたるみの変化を測定する機器は、前回のクリニック通信にも登場したT薬品工業の研究員Oさんがメーカーを紹介してくださったのですが、機器を借りる日にちなどの都合が合わなかったので、結局Oさんの研究所にある機器を貸していただく事になりました。しかし機器はそう頻繁には借りられないので、機器を借りられる日に合わせてPRPの注入を一気にすることにしました。おかげで2週間ほどは毎日午前も午後もPRP三昧! 顔の右と左で条件を変えて比較することにしたので、時間はかかるし計算はややこしいし、その間に通常の診察もしないといけないし(そんな時に限って診察が立て込んだりするんですよね・・・)もうバタバタで、久しぶりにクリニックの中を走りました。

PRPのしすぎで腕は上がらんようになるわ、毎日遅くなるのでコンビニ弁当やわ、おかげであっという間に痩せてしまったのです。まさしく「PRPダイエット」。まあ人間、食べる暇もないくらい忙しかったらすぐに痩せるって事ですかね。仕事が忙しければダイエット本なんていらないってことでしょうか? いや、毎日コンビニの定食(?)で「伊達式」ダイエットに近かったのが良かったのかな。 それにしても毎日コンビニ弁当でも平気だったのはモニター試験に気を取られていたからで、研究所という所には時々「三度の飯より実験が好き」なんて人がいるようですが、私もその部類かも?とも思いました。同時に毎日昼休みもほとんど取らず、夜も遅くまで文句も言わずに頑張ってくれたスタッフや、自分の研究のように親身になって協力してくださったOさんには感謝! スタッフに関しては、クリニックに付属研究所を作って研究員を募集して良かった、としみじみ思いました。昔なら誰も毎日こんなに付き合ってくれなかったでしょう。

しかし、モニター試験でバタバタして院内を走り回っていた時、青島K君が頑張りすぎて違うPRPの器具を用意してしまい、怒られる羽目に。モニター試験はその都度PRPの作製方法が違うので、使う器具もややこしいのですが・・・「今日はいつものPRPとちゃうねんから、この器具とちゃうねん! なんでこんなん作ってんねん!」せっかく気を利かして用意したのにかわいそうだったんですが・・・。頑張るという気負いは嬉しいんですけどね。 そう言えば、頑張っても度が過ぎたりするとせっかくの努力が報われない 事がありますね。かく言う私も日常はそんな事のオンパレードです。思い込みが先走ってしまったり、単にオッチョコチョイであるだけの事も多いのですが、「なんとか問題を解決したい」という気負いが先に出てしまうのだと思います。もちろん、「なんとかしたい」という気持ちがなければ世の中のどんな問題も放置されたままなのでしょうから、これって社会生活をする上では絶対必要なモチベーションの一つなんでしょうけど、何事もバランスってのが必要なんですね。こんな失敗の度に昔の偉い人の言葉を思い出します。「過ぎたるは及ばざるが如し」・・・と。

「過ぎたるは及ばざるが如し」というのは論語に載っている孔子の言葉ですが、「物事には程度というものがあり、いき過ぎると、どんな良い事でも不足の状態と変わらない。過度になってしまうようなら、むしろ控えめにしている方が良い」という意味です。 調べてみると、孔子の弟子、子貢に孔子が言った言葉だそうです。子貢が同門の2人を比較して「どちらが賢明ですか」と孔子に尋ねたところ、孔子は「A氏の方は度が過ぎているし、B氏の方はやや不足ぎみだ」と答え、子貢が「するとA氏の方が優れているのですね」とさらに尋ねると、孔子は「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」と言ったそうです。子貢は頭の鋭いA氏の方がB氏より優れているという返事を期待していたのに対し、孔子は「同じようなものだよ」と答えたという事で、物事は何でも行き過ぎの状態よりも慎んだ方が良いという暗示がこめられているそうな。 ・・・なるほど。確かに物事には何でも程度というものがあります。考えるのは良い事ですが考え過ぎるのは良くないし、食べるのは良い事ですが食べ過ぎは体に良くない。慎重なのは良い事ですが慎重すぎると臆病になる。・・・昔の人はやっぱりいい事言いますよね。

そういえばPRPも最近、非常に興味深い事が判明しました。当院ではPRPの濃度をかなり高くしていますが、濃度は高ければ高いほどいいのかというと、そうではないようなのです。2007年のモニター試験では、PRPの血小板濃度が40万/μL以下だとシワ・クマ・たるみにはほとんど効果が見られず、血小板濃度が150万/μL以上、特に200万/μL前後で著明な効果が認められたので、その後200万/μLを目標にPRPを作製していました。しかし以前行っていたPRPの作製方法では濃度が上がりすぎる事があり、濃度が高すぎると稀に注入部位が1~2カ月の間若干膨らむことがあったのです。(そのためPRPの作製方法を改良し、濃度を正確に調節できる方法に変更しました。)さらに、今までのPRPの成績の統計を取ってみると、濃度が高いほど効果が上がる訳ではなく、著明な改善が見られたのが一番多かったのは、血小板濃度が200~250万/μLの間だったのです。「過ぎたるは及ばざるが如し」ですね。 薬でも効果を出すのには「適正濃度」というものがあります。どんな薬でもある程度濃度が上がらないと効果が出ない事が多いのですが、高すぎると副作用が出てしまう。ボトックスなんかでも似たような事が言えますよね。少ないと効きが悪いけど、効き過ぎると怖い顔になったり、瞼が重くなったりの副作用が出ます。何でもほどほどに・・・という事ですね。

PRPの濃度も高すぎても良くないという事が判ったので、PRPだけでも濃度が上がりすぎるのは良くないのに、FGFを添加するなんてとんでもない・・・と私は思います。当院に来られた患者様の知り合いがFGF入りのPRPを注入して膨らみすぎて困っているという話も聞きましたし、ACR研究会を開いておられるK先生のところには実際に他院でFGF入りのPRPで注入部が膨らみすぎた患者様が何人も「何とかしてほしい」と来られて困っているそうです。クマなどのへこんだところが膨らんで平らになるのは良いのですが、膨らみすぎるのは困りますよね。まさしく「過ぎたるは及ばざるが如し」です。
PRPのモニター試験が続いたある日、スタッフのYちゃんに「先生、最近毎日コンビニ弁当って言われてましたけど、1か月も続けるのはやめてくださいね。体壊しますよ・・・」と心配されてしまいました。私が何でも熱中するとやり過ぎてしまうのを彼女は察知しているようです。確かにこれ以上夜遅くなる日が続いてスタッフが倒れても困るし、PRPに熱中するのもほどほどにしないといけないな・・・と思いました。食べ過ぎはもちろんいけないけれど、ダイエットもやり過ぎはいけません。 (ダイエットするためにPRPをしている訳ではないのですが・・・。) 「過ぎたるはなお及ばざるが如し」。物事何でもほどほどに頑張りましょう。