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第86回 (2010年05月)「新たな試み」



こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。4月は春だというのに寒い日もありましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。4月と言えば入学・入社など、新しい事を始める時期ですよね。皆様は何か新しい事を始められましたか? また、4月と言えば桜の季節ですが、皆様はお花見に行かれたでしょうか。 私はと言えば・・・今年はゆっくりお花見をする暇もなく、超慌ただしい4月でした。毎年4月には形成外科学会という大きな学会があるのですが、今年はその形成外科学会と同時に開催されるACR研究会というPRPの研究会で、講演をして欲しいと頼まれてしまったのです。ACR研究会というのは、今や私のPRP友達と呼んでいるM先生が副院長をされているKクリニックの院長、K先生が発足されたアンチエイジング医療協会の中に設立された、美容医療としてのPRPの元祖と言える研究会です。PRPは10年ほど前から歯科領域で組織の再生治療に使われていましたが、それを美容治療に使えないか・・・という提案を受けられたのがK先生だそうで、K先生の元で臨床研究をされているのがM先生です。2007年の美容皮膚科学会でM先生がPRPのポスター発表をされた際に1時間にわたって質問し続けたのがきっかけで、M先生とは学会の度にPRPを初めとして研究に関するいろいろな情報交換をするようになり、すっかり仲良しになってしまいました。M先生は以前のクリニック通信にも度々登場していますが、美容医療の世界で初めて出会った研究熱心な先生で、そのマニアックさには感動した覚えがあります。(今ではお互いに相手の方がかなりマニアックだと思っているようだが。)



K先生とM先生は、最初はリジェンという会社のPRP作製用キット(試験管などのセット)を使っておられましたが、精度が悪いなど問題があったらしく、今は「My cells(マイセルズ)」というキットを使われています。(リジェン社のキットというのは、私が以前PRPを作製して血小板濃度を測ったところ、元の血液の血小板濃度の2倍ほどにしかならなかったというキットです。)その「マイセルズ」を輸入販売している(実際には海外に発注して製造させている)ベリタスという会社がACR研究会の後援をしているらしく、最初はその会社のSさんから講演の依頼がありました。私がM先生にPRPは血小板濃度が高い方が効果があるという話をしていたのでM先生やベリタスの社長Yさんがそれに興味を持ち、その研究成果を発表して欲しいと言われているとのこと。しかし私は、リジェンやマイセルズといった市販のキットは使わず、独自の方法でPRP注入療法を行っています。リジェンのキットで作ったPRPを自分でも試しに注入したのですがほとんど効果が出なかったので、「こんな高い試験管を使わなくても、自分で考えたらもっと効果を出せるのでは」と考え、試験管何百本ものPRPを作って独自の方法を開発したのです。なので研究会の趣旨と合うのだろうか?と思って聞いてみました。


柴田: 「私はマイセルズを使ってませんけど・・・。違う方法でもいいんですか?」

Sさん:「どのキットを使っておられるかは問題ではありません。PRPは血小板濃度が高い方が効果があるということを発表していただきたいんです」

柴田: 「ふーん・・・。どうしてですか?」

Sさん:「実はアジアの方で、PRPの血小板濃度を上げられるキットを作れないために、PRPは血小板濃度が低くても効果があるんだと言い出した連中がいましてね。我々は先生が言われているように、血小板濃度が低くてはPRPの効果は出ないと思っていますが、それを証明した人がいないものですから、先生にぜひデータを発表していただきたいと思いまして…。PRPの血小板濃度が低くてもいいなんて風潮が広まってしまって、せっかくPRPを注入したのに効果が出なかったという不幸な人が増えるのを防ぎたいんです」



うーむ・・・その傾向は防ぐべきだし、意図は良く解ります。とは思うものの、その話があったのは3月に入ってからです。もうあんまり日にちがありません。それに月末まではルミガンのモニター試験のデータ整理や、クリニック通信の執筆でまたバタバタするし、それが終わってからPRPのデータ整理をしてスライドを作るとなると、超ドタバタになるのは目に見えていました。しかしM先生からも「先生、ぜひ発表してくださいよ。僕も最近先生に影響されて血小板濃度を高くしてるんですが、やっぱりその方が効果あるみたいなんですよね。でも濃度を測ったデータはあまりたくさんないので・・・。僕も発表しますし、濃度に関しては柴田先生が詳しく研究されてるので・・・と前振りしますから」と熱心に言われ、引き受ける事にしてしまいました。それからは、予想通りのドタバタです。

大体私は一度にたくさんの事ができないたちで、一つの事をしだすとそれに集中してしまって他の事に気が行かなくなってしまいます。(聖徳太子みたいになれればどんなに仕事がはかどるか・・・とは思うのですが。)今回のようにいくつも仕事が重なっている時は、同時進行しようと努力はするのですが、なかなかうまくいきません。早く学会の準備をしなくては・・・とあせりつつも、ルミガンのデータ整理や発売準備、クリニック通信の合間に求人や面接、採用に新人教育・・・とバタバタと日が過ぎて行き、結局学会の直前にめちゃくちゃ頑張らないといけない羽目になってしまいました。今までまとめたデータは患者様向けに年齢順にしていたので、それをPRPの血小板濃度順に整理して、どれくらいの濃度でどのくらいの効果が何%出るかきちんと法則を見出して、しかも解り易く表にまとめなくてはいけません。気が遠くなるようなデータ整理はそういう作業が得意なパスツールK君の助けを借り、スライドの表や写真のデザインはパソコン大得意の韓流B君に手伝ってもらってなんとかぎりぎり間に合いましたが、夜中までクリニックで作業をしていてビルの警備員さんに注意された事も・・・。学会の直前までスライドと原稿を作っているという状態でした。



しかも今回、学会出発の前に韓流B君のお母さんが韓国から来られる事に。なんでこのタイミング?と思いましたが、B君の大学の入学式がその頃だったので仕方ありません。B君のお母さんには去年韓国の学会に行った際にお家に招待していただいて大変ご馳走になり、手作りワインやいろいろなお土産をたくさんいただいたし、B君が大学に合格したらぜひ神戸に来てくださいと言っていたので、誠心誠意接待しなくてはなりません。どこに招待しようかな・・・とお店を考えたり、お土産を考えて昼休みに走って買いに行ったり・・・。私の手料理はほとんど洋食(というかワインのあて)で和食は得意ではないので、日本らしいお店に招待しようと考えました。日本らしいお店と言えばやはり鮨屋…いつも絶賛しているN屋でしょう。聞いてみるとB君があまり魚が得意でないようなので、どうしようかな・・・と悩んでいると、B君は「僕の事は気になさらないでください。母はお鮨は大好きなので・・・」さすが優しいB君です。お店はN屋にし、食後はうちに来てもらって和菓子と洋菓子・・・ショコラ・リパブリックのプリンと高杉のケーキを用意して、夜景を見てもらってお土産は私のお気に入りのワインとアンリ・シャルパンティエのマドレーヌだ!(・・・と、こういう事は超忙しい時期でも次々と思いつくのが不思議です。学会やクリニック通信のネタもこれくらいすぐに浮かべばなあ・・・。)


さて、学会の前日。やっとスライドと原稿ができた・・・と思っていたら、またもや複雑な表の修正箇所が。クリニックを訪ねて来られたB君のお母さんには血行促進マッサージを受けていただいて、その間にB君にスライドの表を修正してもらい、やっと完成。やれやれ。さあ、いざN屋へ! さすがにN屋はB君のお母さんにも喜んでいただけたようです。そしてお鮨、特にうにが苦手だったB君も「ここのうには美味しいです!」と感動してくれました。その後うちでわらび餅や桜餅、ヨモギ餅などの和菓子と洋菓子でデザートタイム。神戸の夜景も見ていただいて、忙しい中にも楽しいひと時を過ごす事ができ、お母さんには珍しい和菓子とプリンにも感動した、と言っていただけました。あー、よかった、よかった。





あまりの忙しさにホテルを取るのを忘れていてどこもいっぱいになり、知り合いのコネでやっと取ってもらったり、出発の朝に名刺を忘れて取りに走り、新幹線に駆け込み乗車したり、出発までは「しもた!!」続きで本当にドタバタだったのですが、お陰様で講演は大盛況でした。ちょっと専門的になってしまいますが少しだけ内容を書きますと・・・。


私の講演は簡単に言うと、PRPの効果は血小板濃度に左右され、血小板濃度が200~250万/μLの時が最も効果が良かったというものです。(これをまとめたものはまた皆様にもご報告しますね。) PRPの効果は血小板の総量によるのか、濃度によるのかという事はよく話題になるのですが、私は濃度によると考えています。PRPの細胞増殖作用は血小板濃度が60万/μL以上で始まり、200万/μL以上で著明になるという実験結果はすでに出ていますし、薬というものは通常ある濃度を超えないと効果が出ないので、血小板が止血の際に放出する成長因子も、ある濃度を超えないと効果が出ないと考えられるからです。他のクリニックでPRPを注入した患者様で、効果がすごく出た人と全く出なかった人がいる、という話はよく聞きますが、それは市販のキットでは誰にでも同じ作り方をするので、元々血小板が多い人はPRPの血小板濃度も高くなるけれど、元々血小板が少ない人はPRPの血小板濃度も低くなるからだと思います。当院のモニター試験で血小板濃度の高いPRPと濃度の低いPRPを顔の半々に注入すると、PRPの血小板濃度が40万/μL以下の場合はほとんど効果が見られなかったのに対して、PRPの血小板濃度が150万/μL以上、特に200万/μL前後では著明な効果が認められました。そこで血小板濃度200万/μL以上を目指してPRPを作製して注入を行ってきましたが、現在までで目の周囲・頬・口元のシワ・たるみに対してPRP注入療法を行った90例のうち、PRPの血小板濃度が100万/μL以下では著明な効果は認められず、血小板濃度が200~250万/μLで著明な効果が81%と最も多く認められました。それらのデータをまとめ、効果の現れた写真を示すと、かなり反響を呼んだようでした。(治療前後の写真掲載にご協力いただいた方には大変感謝しております。ありがとうございました!!)



たくさんの先生に質問され、名刺交換もして、いろいろお話もしました。(走って名刺取りに行って良かった・・・。)そしてベリタスの方には高濃度PRP注入療法の効果を絶賛され、その普及のために新しいキットの共同開発を依頼されてしまいました。しかも私の研究を海外でも発表して欲しいと・・・。しかし新しいキットを開発するとなると、また一から条件設定をしてPRPの濃度を測り倒さないといけません。それに海外で発表するとなるとまた準備が大変です。ますます大変になるけど、どうしよう・・・と経営者仲間の友人Mに相談すると、「共同開発者として名前を入れてもらったり、ホームページにリンクを張ってもらったらメリットもあるし、いいんじゃない?」と言われ、それもそうかな、と思ってその条件で共同開発を引き受ける事にしました。ところが・・・マイセルズのキットは医師による直接輸入の形をとっているため通常の宣伝ができず、ホームページにも掲載してないんだとか。それだと共同開発者の名前も出ないし、リンクも張れません。ありゃりゃ。大変なだけでメリット何もないやんかー・・・! 講演に引き続き、えらいことを引き受けてしまいました。この春はほんまにお花見どころじゃありません・・・。あーあ・・・(ため息)。



ところで話は全然変わりますが、このドタバタの中で偶然にも一つ知識を増やす事ができました。学会前に韓流B君にあまりにも色々な事を頼んで仕事が終わらなかったため、自宅に持ち帰って仕上げてもらう事になりました。そこにいたパスツールK君が・・・

K君:「先生、B君結構大変そうですよ・・・」

柴田:「ちょっと可愛そうやけど、日本語の勉強にもなってええんちゃう。若い時はこれ以上無理ってくらいプレッシャーを与えた方がいい時もあるねん。情けは人のためならず・・・って言うやん。」

それを聞いたパスツールK君はニタニタ・・・としています。

柴田:「どうしたん?」

K君:「先生・・・それって意味が違うと思うんですが・・・」

柴田:「なんで? このことわざ知らん?」

K君:「いえ・・・知ってますけど・・・。そのことわざって、情けは人のためにかけるのではなく、自分のためにかけるのだ・・・という事でしょ?」

柴田:「またぁ・・・そんな訳ないやん。K君まで日本語怪しいね。」

K君:「そんな事ないですってば・・・あ・・・先生、賭けますぅ?」



普段にはなく、えらく強気なK君に私はたじたじ・・・。K君曰く、その話題をちょうど何かのTVでやってたらしい。さっそくWIKIペディアで調べてみると・・・本来の意味は、「人に情けをかけておくと、巡り巡って結局は自分のためになる」と書いてあるではないか! (ええっ!! 皆さん、知ってました?) しかもご丁寧に「人に情けをかけて助けると、その人を甘やかす事になり、自力で頑張らなくなるので結局その人のためにならない」と誤解している人が非常に多い・・・と解説してくれています。1960年代後半、若者を中心にこの言葉を「情けは人のためにならない」と思っている人が多いとマスコミで報じられた事が話題となったらしいのですが、2000年頃より再びそのように解釈する人が増えていると報じられ、2001年の文化庁による世論調査では、この語を前述のように誤用している人は48.2%と、正しく理解している人の47.2%を上回ったそうです。60歳以上の回答者の正解率は65.2%で、年齢が下がるにつれて正解率は下がる傾向にあったのだとか。この誤解の根本は、「人のためならず」の解釈を、「人のため(に)成る+ず(打消)」(他人のために成ることはない)としてしまう所にあるようで、本来は「人のためなり(古語:「だ・である」という「断定」の意)+ず(打消)」、すなわち「他人のためではない(→ 自分のためだ)」となるという事です。言葉の誤解が広まった背景には、現代語が普及して古語の意味が国民の意識から次第に薄れつつあり、その上に現代語での解釈と、現代的な価値観を合わせてしまった事があるらしい。ほぉー・・・。 さらに調べると、「情けは人のためならず」ということわざの意味の解釈が、日本人の間で変化しつつあると言っている人もいます。これは、福祉国家の理念が破綻し、新自由主義が台頭するという時代の流れを反映したもので、若い世代の日本人は、自助自立・自己責任・受益者負担といった新自由主義的原則を当然視しているからだそうな。現在の先進国の経済は、社会主義的でも福祉国家的再配分経済でもなく市場経済であり、市場経済のルールは自助自立である。だから、「人に情けをかけて助けてやることは、結局はその人のためにならないから、情けをかけてはいけない」という新自由主義的解釈が支持されるのだ、との事。なるほど。・・・でも私個人としては、本来の意味の方がことわざらしいという気がします。やっぱり昔の人はいい事言うなあ・・・的な感じ。(自分の解釈は間違っていたのにこんな事言うのもなんですが。なんか一つ賢くなった気分です・・・(^.^))



そんな事もありながら・・・また話はPRPの新しいキットの共同開発の件に戻りますが、ベリタスのYさんは「誰でも簡単に血小板濃度の高いPRPを作れるキット」を開発したいのだそうです。現在私が行っている方法では正確に血小板濃度の高いPRPを作製できますが、2回遠心分離をしないといけないし、手間がかかるので多くの美容クリニックのドクターは敬遠するだろうとのこと。「私がこんな事を言うのもなんですが、美容をされる先生方のほとんどは面倒な事がお嫌いなんですよ・・・」とYさんは言われてました。そう言えば研究会でも、ベリタスの顧問もされてるM先生に、「血小板濃度を高くするために、どれくらい血漿を残したらいいかは教えてもらえるんですか?」とか、「そのためのスケール(物差し)は作ってもらえるんですか?」とか聞いてる先生もいました。「そんなん、自分で考えたら? あんた、医者やろ?」「自分が治療するのに、そんな他力本願じゃあかんわ」って言いそうになりましたが・・・。それこそ誤解釈の方の「情けは人のためならず」だと思い、そんな人達のために苦労して「簡単に血小板濃度の高いPRPが作れるキット」の開発をせなあかんのかなあ・・・とも思いました。しかしよく考えてみると、そういうキットを開発した方が、より多くの患者様が幸せになれそうです。注射はやはり来院していただかないとできないので遠くの方は難しいですし(先日は九州からの患者様もおられましたが)、うちのクリニックに来られた方だけではなくて私が開発のお手伝いをしたキットでたくさんの患者様が綺麗になれたら、本来の意味の「情けは人のためならず」・・・で、いい事をしていたらいつかは自分にもいい事が廻ってくるんじゃないかな、と思ったのです。そんなこんなで、新しい事を始める春に、私も新たな試みにチャレンジしようかな、と思っています。ますます忙しくなるかもしれませんが、皆様にもいい報告ができるように頑張りますので、応援してくださいね!


そう言えば、例のことわざですが、B君のお母さんが、韓国にも同じようなものがある、と言われてました。「行く言葉が美しければ、来る言葉も美しい」ということわざで、優しい言葉や思いやりのある言葉、感謝の気持ちから出た言葉、相手を尊重したり相手の幸せを願う言葉・・・そういう「美しい言葉」をかければ、自分にも返って来る・・・という意味だそうです。「人に親切をしておけば、必ずよい報いがある」という教えは、世界共通のもののようです。私もこの教えを胸に、また研究に励もうと改めて思った次第です。


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