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第56回 (2007年11月)「北の国から・・・」



こんにちは! 異人館通クリニックの柴田です。

急に寒くなりましたね。今年は秋がなかった気がしますが・・・ 

  皆様はいかがお過ごしでしょうか?

私は寒くなる少し前に、札幌で開催された美容外科学会に行ってきました。(札幌はその時すでに寒かったですが。)北海道と言えばいつも取り寄せている生ハムメロンの産地。やはりグルメ計画を立てない訳にはいきません。しかし札幌にはK氏はいないし・・・ 。札幌に住んでいてグルメに付き合ってくれそうな人はいないかな、と考えて思いついたのは学会友達のI先生・Y先生と、高校・大学共に同級生だったK君。K君とは卒後1年で彼が札幌へ逃亡(?)してから一度も会っていません。超久しぶりに電話をして学会の日に会うことになりました。



学会では例によって朝から晩まで缶詰で、レーザーや手術の発表もたくさん聞きました。私は美容外科手術やレーザーはしていませんが、勉強はやはりしておかなくてはと思うので・・・ 。発表のスライド写真やビデオを見て感じたことは、目の周りの手術は結構変化がわかりますが、フェイスリフトはあれだけ大掛かりな手術の割には少ししか良くなってないなあ、ということです。やはり手術をしなくてはいけなくなる前に、メソリフトやプラセンタ点滴でたるみはくいとめておくべきだと切実に思いました。ピーリングやイオン導入・化粧品・内服薬などで日頃からアンチエイジングしておくことも大切だと思います。


レーザーではIPL(フォトフェイシャル)の発表が多かったのですが、これもほんの少ししか良くなっていない・・・という印象。発表している先生も「小ジワがが少しは改善しているかな、と思っていただければありがたいです」と控えめです。従来のシミ取り用のレーザーなどと違ってかさぶたができにくく、ダウンタイムが少ないというのが売りですが効果も少ないようで、その欠点をカバーしようとする新しいレーザーの紹介もありました。IPLと従来のレーザーの中間タイプで、表皮を剥離すると共にコラーゲンに熱変性を与え再構築させるというものらしい。しかしこれは照射直後はかなり赤くヒリヒリし、1週間くらいは広い範囲にかさぶたができ、お化粧も3-4日できないのだとか。それじゃメソリフトよりダウンタイムが長いやん。それに写真をみるとIPLよりは効果は出てるけど、これならメソリフトの方が効果は出てるなあ、と思いました。それにコラーゲンを熱変性させるというのが気に食わない。熱によって一旦ダメージを与えるので、日本人は白人に比べて色素沈着や瘢痕(傷跡が盛り上がること)を起こしやすいのです。レーザーもダメージが少なくて効果が大きいものがあれば導入を検討しようかなと思っていたのですが、今のところメソリフトを超えるものはないのでおあずけとなりました。



さて、学会1日目が終わって20年ぶりにK君との再会です。K君は学生時代はキムタクかタッキーか(その頃はどちらもいなかったけど)というほどのハンサムで、同級生以外にはモテモテでした。カフェ(当時はサ店)でバイトをしていた時など、もてない男子学生の多い我校で唯一、バレンタインにお客さんの女子大生多数から山のようにチョコレートを贈られたという伝説の持ち主です。それなのに彼にはあまり幸せなエピソードはありません。なぜもてたのが「同級生以外」かというと、彼は見た目は派手なジャニーズ系ですが、性格は正反対で、暗くて地味だったのです。おまけに結構愚痴っぽく、ちょっとあまのじゃくで思ってもいないのに憎まれ口をたたいたり、見た目と逆でかわいくなかったんですよね。そのせいか高校時代、同級生では彼女はできず、下級生で資産家のお嬢さんと付き合っていました。

高校卒業後、K君は名門K大学の工学部に入りましたが、彼女が「医者以外とは結婚しない」と言ったため、彼はK大学を辞めて私の大学に入り直したのです。が、その直後・・・K君はその彼女に振られ、彼女は青年実業家とさっさと結婚してしまいました。(藤原紀香が陣内君を選んだように、やっぱり面白い人がいいってことでしょうか。)


ドラマのような話ですが、彼は落ち込んで女性不信に陥り、ますます暗くなってしまったのです。私はなぜか彼とは高校の塾から大学のクラブ、下宿まで一緒だったので、世捨て人のようになった彼の愚痴を事あるごとに聞く羽目に・・・ 。彼は何かとつかん人生で、大学卒業後も入った科がめちゃ忙しく、夜中に大学病院の廊下で会うたびに愚痴を聞いていました。でも根は悪い子ではなかったので、彼が札幌に逃亡してからも「どうしてるかなあ・・・ 」と心配していたのですが、数年前に女性不信から立ち直って結婚したようで、奥様の名前入りの年賀状が来るようになったのです。



前置きが長くなってしまいましたが、そのK君が取ってくれたお店は京風懐石の店。 え? なんで札幌まで来て京風懐石? 相変わらずあまのじゃくやなあ。しかも奥様同伴で来るとのこと・・・。(これはきっと女性不信から立ち直ったことを報告したかったのでしょう。)そして20年ぶりに会ったK君は、昔よりはちょっとふけてたけど(あたりまえか、)クラス会で会う同級生の中ではダントツに若く見えてハンサムでした。(みんなびっくりするくらいふけてるんですよねー。やはり男性にもアンチエイジングは必要だ!と思う今日この頃です。そうそう、男性向けアンチエイジングも実はこっそり研究しています。時期が来れば研究発表しますのでご期待くださいね。 )ほっとしたのは昔よりだいぶ明るくなっていたこと。これは奥様のおかげですね。でも馴れ初めを聞くと奥様が、

「それが初めて会った時って、めっちゃ感じ悪かったんですよねー」

なんかわかる気がして笑ってしまいました。


しかしK君の話は相変わらず地味でほとんど大学のことばかり。札幌に来てからも、留学した時以外はほとんど大学病院にいて、夜遅くまで働いているそうです。でも昔に比べるとずいぶん愚痴は減っていました。「そろそろ関西方面に帰りたいねんけど、どこかない?」と就職先を聞かれましたが、科が違うので紹介はできず・・・。K氏とのグルメ大会に比べるとちょっと盛り上がりに欠ける会でしたが、関西方面に帰って来たら今度は神戸で会おう、ということになって別れました。



学会2日目の目玉はやはりPRP療法です。今回KクリニックのM先生は50例の報告をされました。それによると肌の柔らかさやキメの改善は術後2週間でもかなりの割合で見られるが、小じわの改善が見られるのは1ヶ月で約60%、3ヶ月で約90%、たるみに関しては1ヶ月で効果が見られるのは半数以下、3ヶ月で約80%らしく、効果が出るのにかなり時間がかかっています。

PRPを注入した私の顔半分も2ヶ月近く経ちましたが、残念ながらあまりはっきりした効果はわかりません。肌が少し柔らかい感じがするのと、頬のこけ方や目の下の小じわが若干ましかなあ、という程度で症例写真とは程遠い。まあ、症例写真なんていうのは一番効果が出た人を出すので、差はあってあたりまえですが・・・でも、もうちょっと効果出て欲しいなあ。M先生も私の顔を見て「あれ? あんまり変わりませんねえ。もうちょっと効果出るはずなんだけど・・・」そこへPRPの高いキットを販売している会社の部長さんが来られて検討しているうち、私がいろいろなPRPの作り方を試して血小板濃度を測っているという話を聞いて研究に協力して欲しいと言われ、とりあえず測定用に試験管を何本か分けてもらうことになりました。



学会から帰って早速実験です。PRPによる細胞の増殖は血小板濃度が通常の3倍以上から始まり、4-5倍で顕著になるという実験結果があり、濃度が3倍以上でないと細胞の増殖効果があまりないようです。そこで血液の遠心分離の条件をいろいろ変えて血小板濃度を測り、できるだけ濃度の高いPRPの作製方法を研究していたので、分けてもらった試験管でその会社のマニュアルどおりPRPを作製して血小板濃度を測ってみました。

すると、あれ? 血小板濃度がえらい低いやん。その会社のデータでは通常の約5倍の血小板濃度のPRPが作れるというふれこみだったのですが、実際に何本か作って測ると、どれも2倍くらいしかなかったのです。私がN先生に注入してもらったのもこの試験管で作ったPRPだったので、効果があまり出ないのは血小板濃度のせいかも? 会社に問い合わせてみると、作り方も間違っていないし、試験管の精度の問題かもしれないということでした。それじゃあ高い試験管の意味ないなあ。やっぱり手間はかかっても、自分の作り方で血小板濃度の高いPRPを作らなくては・・・。


それからまた実験三昧。スタッフに頼んでは採血させてもらい、いろいろな作製方法でPRPを作り、血小板濃度を測りました。採血した試験管を1回軽い遠心力で遠心分離機にかけると、血液は赤い血球の層と上澄みの黄色い血漿に分かれます。上澄みの血漿と境目の血球(ここに血小板が多く含まれているのです)を少し注射器で吸い、別の試験管に移して今度は強い遠心力で遠心分離すると、底に少量の血球が溜まって上澄みが血小板を含んだ血漿になります。血漿の底の方に血小板が多く、上の方は血小板が少ないので、底の方を残して上澄みを捨てるとPRPができるというわけです。2回遠心分離するのが手間ですが、1回で強く遠心分離すると、血小板が赤血球にくっついて沈んでしまい、血漿の血小板濃度が上がらないのです。



高い試験管はそれを1回で済ませるために分離剤というプラスチックのゲルが入っていて、赤血球と血小板が混じりにくくなっていますが、ゲルは吸わないように・・・と言われるので、本当は分離剤はない方がいいようです。

血漿中の血小板は目には見えないので、底の血漿を何cc残せば適した濃度のPRPになるかは調べてみないと判りません。残す血漿の量を少なくすると血小板濃度は上がりますが、実際に注入するのにはある程度量がいるので兼ね合いが難しく、何パターンも調べました。また、赤血球は成長因子を消費し、白血球は血小板を壊すのでなるべく入らない方がいいという情報があったので、それなら底に溜まった血球を吸わないようにしてPRPを別に移せばいいのでは、と思って血球を除いたPRPを作って血小板濃度を測ると、濃度が下がってしまいました。実は底に溜まった血球の間に多くの血小板が含まれていたのです。


そうやって失敗を繰り返しながら、やっと通常の約6倍の血小板濃度のPRPを作ることができました。その間検査に出した試験管は100本近く、使った試験管はその倍以上。一度に何十本も検査に出して検査会社の人がひっくり返りそうになったり、血漿を注射器で吸ったり移したりの操作のし過ぎで腕が上がらなくなった事も・・・。



そうしていよいよ注入です。目の下のクマと小じわが気になるというスタッフのMちゃんにやっとできた高い血小板濃度のPRPを注入してみました。ところが、赤血球が多すぎて目の下は青くなり、殴られたみたいに・・・。こらあかん。おまけに何をしても腫れる体質の子だったこともあり、翌日すごく腫れて、青タンと腫れが引くのに5日ほどかかってしまいました。ありゃあ・・・これは厳しいなあ。 そう言えば、離婚訴訟真っ最中の友達がいるのですが、「なんか、私が有利になるようにでけへんかなぁ・・・ 。ねぇ、旦那の家庭内暴力の形跡があったとか、診断書に書いてくれへん?」 と相談された事があります。 さすがにそれは断ったのですが、彼女にはちょうどいいかも・・・ 。 (かなり医者としては不謹慎な考えがよぎる・・・でも実はそのくらい大変でした。) 赤血球を減らして血小板濃度を高くするには? また実験の繰り返しです。 実はその後、これらをクリアする方法を見つける事ができました。ただ、その内容は専門的になってしまい、解説すると紙面が足りなくなりますので、ここでは割愛させて頂きます。そんなこんなで、一体この研究にどのくらい時間を費やしたかわからないけど、なんとかモニター募集できるまでにこぎつけたところです。皆様もご期待くださいね。



そうして研究に明け暮れる毎日を送っていると、札幌のK君から一通のメールが。

・・・なんと、信州にあるS大学の教授になったそうで、来月から赴任するんだとか。私と会っている時は教授選の結果待ちだったそうで、彼の事だから落ちたらカッコ悪いと思って黙ってたんでしょうねぇ・・・ 。皆様も「白い巨塔」とかでご存知かもしれないですが、医学部の教授と言えば、絶大な権力をもつ、学内では神に近い存在なのです。(実際の人格は神より紙に近い人が多いが・・・何とかと紙一重・・・ってのも結構多い・・・(^^♪) 一発逆転ホームランのような大躍進な訳で、彼の愚痴人生にもこれである程度終止符が打たれる事を期待しています。ひたすら地味に努力して、ようやく新たな一歩を踏み出した・・・ってところでしょうか。もしかするとこれからが彼の本当の新たな人生の始まりなのかもしれないなぁ。


私の場合は逆で、大学の医局から離れる事で新しい人生の一歩を踏み出しました。最初の一歩を踏み出すとそこからひたすら歩き続けるのですが、最初の一歩って言うのがもっとも難しいですよね。 そう言えば、初めて人類で月面着陸に成功したアポロ宇宙船の船長さんが月面についた自分の足跡の写真を発表して、「この一歩は人類にとって偉大な一歩である」と言ってたなぁ・・・ 。アポロ計画なんて最初の一歩にいたるまで、一体どれだけの人間のどれだけの努力が投入されたかわからないですが、すべてはこの一歩の為だったのですね。

PRPの研究もまだまだ、半歩を踏み出したところです。でも確実な一歩に向けてさらに努力を続けたいと思っております。



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