
こんにちは、異人館通クリニックの柴田です。今年の冬は比較的暖かく、最近は陽射も少し春めいてきましたね。皆様はいかがお過ごしでしょうか。 暖かい冬とは言っても寒さに弱い私は風邪などひいてしまい、おうちにこもることが多かったのですが・・・。特に今年の冬はおうちにこもってあるDVDばかり見ていました。「24=Twenty-Four」という、テロ対策ユニットのLA支局長が主人公の物語で、24時間のうちに同時多発する出来事を1話=1時間で描いたアクション物です。大人気の海外ドラマなのでご存知の方も多いと思います。手に汗握るめまぐるしい展開にすっかりはまってしまい、その主人公ジャック・バウアーの捜査官手帳を出すしぐさや携帯電話を切るしぐさ、そしてなにより「I’m Federal agent. (私は連邦捜査官だ!)」のくだりは何の関係もなく、日常生活の中で連呼してしまいます。(以前にK氏が登場した時の「シャンパーニュをボトルで・・」と同じでして、それだけハマッてしまったということです。・・・K氏をご存知ない方は以前のクリニック通信を参照してください。)しかし、それはあくまでもドラマの事。普段は街中の巡査さんともまともにお話をする機会もありません。
そんな折、一本の電話がクリニックにかかってきました。

私は厚生局麻薬取締官のAです。先生にご協力して頂きたい事があるのですが・・・」 ん? 麻薬捜査官? これはもしかして麻薬Gメンの事? 私、何か悪い事したかしら?いや・・そんなはずはない。もしかするとこれは誰かの仕組んだ陰謀にはめられたのでは?ジャック・バウアーの知り合いは大抵死んでしまうので、こんな麻薬捜査になんか関わるとこれは一大事だ・・・ と一瞬のうちに24の情景が頭に浮かびます。
捜査官A: 「先生のクリニックではサノレックスを出されていますね?」
はぁ?はい。 皆様もご存知の通り、食欲抑制剤のサノレックスは肥満治療には使っています。でもなぜ?
捜査官A: 「ホームページを拝見させていただいたところ、先生のクリニックでは非常にき ちんとサノレックスを処方されているようですので、一度お話をお伺いしたいと思いまして・・・」
なんだ、よかった。電話での話し方はずいぶん優しそうで丁寧な捜査官です。ジャック・バウアーとか、Gメン75(・・古い!)の刑事とはだいぶ違っています。しかし、面談の約束をすると、いざ現れたのはいかつい角刈りのおじさんでした。(やっぱり、麻薬捜査官がブラッドピットのような人の訳ないですよねぇ。)バウアーばりにサッ!と差し出された捜査官手帳は真っ黒でこれまたいかつく、金色の警察記章のようなマークが・・・。
柴田: 「へー。すごいですねー、本物の捜査官手帳なんですねー。」
(よせばいいのに、かなりミーハーな発言)
捜査官A: 「(ちょっとムッとして・・)いやいや、本物だということをお伝えしなくてはいけませんので。」

なんでもサノレックスは向精神薬(中枢神経に作用する薬剤)なので、麻薬取締課の管轄になるそうです。食欲中枢に作用して食欲を抑制するお薬ですが、副作用や依存性もあるので、当院ではサノレックスのみの処方はしていません。痩身指導の中に組み入れ、必ず月1回の血液検査と毎週の診察を必要として、副作用にも注意しています。そんな事は当然の事と思っていたのですが、巷では診察もせずにサノレックスのみを大量に処方する美容外科もあるそうで、そのためいろいろ調査を行っているということでした。
同時期に新聞社からも同様の問い合わせがあったので、最近ではずいぶんサノレックスが問題になっているようです。サノレックスは正しい使い方をしないと効果も少なくリスクも伴うお薬ですが、そんなことをきちんと考えていない美容外科も多いようですね。

そもそも、サノレックスを飲みさえすれば痩せられると思うのは大間違いです。「太っている」ということは「食べ過ぎている」ということに他ならないので、その「食べ過ぎ」を「正常の食事量」に戻さなければ痩せることはできません。「食べ過ぎ」を「正常の食事量」に戻そうとすると、最初のうちはお腹がすきます。その空腹感を一時的に抑え、食事を正常に戻しやすくするのがサノレックスの役目で、食事を正常に戻そうとしなければサノレックスを飲んでも痩せられませんし、一時的に痩せても維持できないのです。
「そんな食べてへんのに太りますねん」という言葉は良く聞きます(うちの母の口癖でもあります)が、「太っている」ということはその人に必要な食事量を上回っているということなので、今よりも食べる量を減らすしか痩せる方法はないのです。もちろん、太る太らないは摂取カロリーと消費カロリーのバランスですから、摂取カロリーを減らす(=食べる量を減らす)代わりに消費カロリーを増やす(=代謝を上げるか運動をする)方法もありますが、運動では意外とカロリーは消費できない(ケーキ1個分の300kcalを消費しようと思うと、ジョギングで1時間以上、階段昇降で約1.5時間が必要ですし、年齢が上がると同じ運動をしても消費カロリーは少なくなります)ので、食べる量を減らすのが一番早くて確実な方法なのです。基礎代謝量(生命維持に必要なエネルギー) を増やすには有酸素運動が有効とも言いますが、いくら消費カロリーを増やしても、それ以上に食べていては絶対に痩せません(お相撲さんがいい例です)。

もちろん、 太りやすい体質・太りにくい体質というものは あります。最近では「肥満関連遺伝子」というものが解ってきて、基礎代謝が低下する「太りやすい遺伝子」と基礎代謝が亢進する「太りにくい遺伝子」が5種類ずつあるそうです。それぞれの遺伝子をもっているかいないかで基礎代謝量が100-350kcal変わってくるので、「太りやすい遺伝子」ばかり5種類持っている人と「太りにくい遺伝子」ばかり5種類持っている人は基礎代謝量に1950kcal差があることになりますが、通常はそれらの遺伝子は組み合わせて持っていることが多いのだそうです。たまにいくら食べても太らない・・・という人がいるのはこの基礎代謝量のばらつきによるものだと思いますが、どちらにしても太っている人というのは自分に必要なカロリー=基礎代謝量+運動による消費カロリーを上回る量を食べている、ということに他ならないのです。

中年になると太るのは、基礎代謝量の減少と運動不足が原因、と言われています。加齢と共に筋肉が落ちると基礎代謝量が減り、運動不足になると筋肉も落ちる上に脂肪を分解するホルモンの減少などを招いて、エネルギー消費がさらに落ちる。それなのに若い頃と同じように食べるから中年太りを招く・・・と言われていますが、ほとんどの人は若い頃より食べ過ぎているのが事実です。中年になると若い頃より少しは裕福になるし、美味しいものも覚えます。さらに仕事の付き合いも増え、ストレスも増えて飲み食いに走り、食べ過ぎ・飲み過ぎになって太る・・・というパターンです。この食べ過ぎ・飲み過ぎを解消しなければ、ダイエットは不可能だ、というのが私の考えです。
・・・ということは以前にも書きましたが、最近メソセラピーと合わせてダイエットの研究を進めるうちに、あることに気がつきました。ダイエットの鍵を握るのは、食べ物の「質」より「量」ではないか?
もちろん、あまり脂っこい物や甘い物ばかり偏って食べていては健康にも良くありませんし、「野菜と魚を中心にした和食」が健康にもダイエットにも良いという考えは変わりません。ですから、痩身指導でも甘い物や脂物は減らしましょう、という指導はします。太っている人は大抵そういうものを食べ過ぎているので、偏った食事の質を改善する事は必要だと思いますし、メニュー表をつけてカロリーをどれだけ摂っているか知る事も、「食べ過ぎている」ことを自覚していただくには必要だと思います。

しかし、クリニック通信を読んだ患者様からもしょっちゅう「先生はあんなに食いしん坊なのにどうして太らないんですか?」と聞かれるので、自分の食生活も振り返ってみました。そしてよく考えると・・・6年程前に7kgダイエットしてから、圧倒的に変わったのは食事の「量」なのです。
確かに最初はお酒や脂物は控えましたし、その後もしばらくはなるべく洋食や外食が続かないように、野菜や魚中心の健康的な和食を週に何回かはおうちで食べるようにはしていました。しかし去年の夏にシャンパンブームが巻き起こってから、おうちでの食事もほとんど洋食。外食をあまりしない代わりに、週に3回はおうちでイタリアン、しかもシャンパンやワインまであける生活になってしまいました。・・が・・普通に考えれば太りそうなものですが、いっこうに太らないのです。確かにイタリアンと言ってもサラダは必ず食べますし、お肉の脂身なんかはあまり食べませんが、定番のオードブル=カプレーゼにも、3回に1回は食べるパスタにも、オリーブオイルはたっぷりです。しかも友人が来るとワインやシャンパンも結構あけちゃう。デザートにコーヒーとチョコやアイス、ケーキなど甘い物も毎回食べちゃう。なのになぜ太らない?

もちろん、食べ過ぎたな・・・と思ったら翌日は食事を減らしたり、体重は毎日測って1kg以上はオーバーしないようにと気は配っていますが、それがそんなに努力せずに自然にできてしまうのです。その理由は、食べる「量」が太っていた頃に比べて格段に減ったからだと思います。カプレーゼのモツアレラチーズは1/4個、野菜サラダは一皿弱は食べますが、鴨や羊などのお肉は半人前。パスタは1/2皿も食べればお腹いっぱいになるので、パスタかお魚・お肉はどれかしか食べられません。チョコは1-2かけら、ケーキだと半分も入らない。昔は軽くフルコース食べていたので、まあ半分です。しかも今は1日ほぼ1食なので昔の半分以下ですね。お昼はよっぽどお腹がすいた時に果物を半分か何かつまむくらい。逆に、お昼にランチなんか食べると夜はお腹がすかないので食べられないのです。1日1食、しかも夜遅い・・・となると普通は太るパターンですが、量が少ないので、好きな物を食べても太らないのだと思います。外食の時もフランス料理だとオードブルと少なめのメインくらいがせいいっぱい。これは太っていた頃に比べて胃が小さくなった・・・いや、正常の大きさに戻ったからだと思います。

海外では動けなくて死に至るくらいの超肥満の人もいるので、究極の肥満治療があります。それは胃を小さくする手術です。胃を切除して小さくしてしまったり、胃にバンドを巻いて二つの部屋に分けてしまったりする手術ですが、これらの手術の効果はほぼ100%のようです。
胃にバンドを巻く手術は「ラップバンド手術」と言ってオーストラリアで開発されたものですが、胃の入り口近くにバンドを巻いて胃を上部の小さい部屋と下部の大きい部屋に分けてしまう手術です。満腹中枢を刺激するセンサーは胃の入り口近くにあるので、バンドで胃を締めて上部の部屋が少量の食物でいっぱいになるとセンサーが働き、満腹になるので食べ過ぎないという理屈です。消化された食物はバンドでくびれた部分を通って通常の消化経路をたどるので支障はないようです。胃の縮小手術も同じ理屈で、胃が小さくなるとそれまでより少量の食物で胃がいっぱいになってセンサーが働くので満腹になり、それ以上食べ過ぎないのです。

胃というものは食物が入ると膨らみ、空っぽになると縮みますが、ずっと食べ過ぎていると風船のようにだんだん伸びていき、それまでより大量の食物を入れないといっぱいにならなくなります。そうなると満腹になるまでにそれまでより多く食べ過ぎてしまうので、どんどん太っていくわけです。その悪循環を断つには、どこかで食べ過ぎをやめて胃を正常の大きさに戻さなければなりません。 しかし一旦伸びてしまった胃も、ずっと伸ばさずにいると細胞が生まれ変わって小さな胃に生まれ変わることができます。その期間は6ヶ月と言われていますので、3ヶ月で食べる量を減らして痩せ、後3ヶ月それを維持すれば、あとは普通の量しか食べられなくなり、好きな物を食べても太らなくなるという訳です。
この理論は私の体験とそのまま一致しています。私の過去のダイエット記録を見ると、2ヶ月で7kg減量し、その後7ヶ月間、週に1回くらい体重をつけて維持しています。食事の量を減らして最初はお腹がすくのを我慢しましたが、特に我慢した期間は1ヶ月ほどだったという記憶があります。その期間を、サノレックスや最近考案した点滴など満腹中枢を刺激する方法でしのぎ、あとは6ヶ月間胃を伸ばさないように維持すれば、その後は好きな物を食べても自然と量が食べられなくなるので、太らなくなるのです。
ただ、その6ヶ月間は馬鹿食いしてはいけません。途中でやる気がなくなって食べる量を増やしてしまうと、また胃が伸びてしまうので元の木阿弥です。そういう意味では、こんにゃくでお腹いっぱいにするダイエットなどは、胃が縮まないのでやめたらリバウンドしますし、好きな物をがまんして、痩せてから思いっきり食べる・・・というのもよくありません。しかし、そのことを良く理解して、6ヶ月間維持できれば、後は非常にリバウンドしにくいスリムな体型を手に入れられるでしょう。

ちなみに、私の現在のカロリーバランスを概算してみると、基礎代謝量が約1000kcal、一日中デスクワークで運動もしないので1日の消費カロリーは約1300kcal。摂取カロリーはイタリアンを最大食べて1300kcalなので自然とバランスがとれているようです。食べる量が正常になると、後は考えなくても体が自然にバランスをとってくれるようになるものなんですね。現在、この理論を元に、新しい痩身指導を考案中です。
痩せなくてはいけないけれど、食べるのがやめられない、という方へ・・・。太りすぎて糖尿病などになり、食事制限をしなくてはいけなくなったりすると、食べる楽しみがなくなってしまいます。いつまでも美味しいものを食べられるように、一時期だけ少し努力して、好きなものを食べても太らない体を手に入れましょう。そして気になる部分にはメソセラピーを組み合わせれば、素敵なスタイルをいつまでも保って綺麗でいられますよね。

もう一つ欲を言えば、少し運動して筋肉量を増やした方が基礎代謝量も増え、筋肉からは若さを保つホルモンが出るのでアンチエイジングにも役立ちます。私の今の課題はこの「運動をして筋肉量を増やすこと」です。先日もエアロバイクを買いましたがまだあまり活用していないので・・・。
話は変わりますが・・・私の見ている24も先日からシーズ5へ突入。 「え!・・・」と驚くオープンニングから、次々に話が展開してあれよあれよと言う間に3時間くらいすぐに経過してしまいました。このドラマを見ている最中はやたらとノドが渇くので、ペットボトルの水は欠かせません。シーズン5の4話まで一気に見たのですが、また、いいところで話が終わる・・ああ・・・早く次が見たい・・・。これってもしかして依存症? きっと「手に汗握る・・」 ってところが脳の中枢神経に作用して、ドーパミンがバンバン出ているのでしょう。ひょっとするとサノレックスより随分と依存症になり易い危険な番組なのでは・・・? 今度、麻薬捜査官がきた時には「24」を見てるかどうか確認して、ご意見を聞いてみましょう。