第266回「いつか仲間と滑走路を…」
- shibata111
- 6月1日
- 読了時間: 12分
更新日:6月2日
こんにちは! 柴田エイジングケア・美容クリニックの柴田です。少し汗ばむ日もある季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか? 私はと言えば…4月と5月は自分の検査で大忙しでした。あまりにもバタバタしていたので、今まで毎月書いていて265回続いたクリニック通信を、初めて一月お休みさせていただきました(^_^;)。 また今月から頑張って続けていきますので、よろしくお願い致しますm(_ _)m。 さて、なんでそんなにバタバタしたかと言うと…前回のクリニック通信に書いたように腰痛がなかなか治らず、神戸で一番脊椎の手術が上手いと言われる整形の後輩O君に椎間関節ブロックをしてもらって痛みはましになったんですが、局所麻酔で中毒かアレルギーのような症状が出るようになってしまったんです。1回目はキシロカインという局所麻酔(局麻)薬10ccでブロックしてもらったんですが、その後しんどくなって2〜3時間治まりませんでした。以前から肩こりで時々カルボカインという局麻とプラセンタを混ぜて局注(局所注射)をしていましたが、そんな症状が出た事はなかったので3日後にカルボカインで局注すると、すごくしんどくなって1時間程動けなかったんです💦。その後カルボカインの量を減らしてみると大丈夫だったので、同じ量のキシロカインでブロックしてもらったんですが、またしんどくなってしまいました。そしてその後のカルボカインの局注では、もっと少ない量でしんどくなってしまったんです。…これやばいんちゃう? だんだんしんどなる麻酔の量減ってるやん!

局所麻酔の副作用はアレルギーと中毒(局所麻酔薬の血液中の濃度が上昇して、めまいやふらつき・血圧低下・不整脈などの症状が出る事)の2つに分類されますが、中毒は過剰投与で起こりやすいため1回に使う1%キシロカインの量は20mLまでとされているので、1%キシロカイン5mlで局麻中毒を起こす事は少ないのでは…とO君も私も考えたので、残るは局麻アレルギー。それやばいやん! 症状が出る麻酔の量がだんだん減ってきてるという事はアレルギーが酷くなってきてるのかもしれへんし、突然アナフィラキシーなんか起こしたら困るがな。アナフィラキシーとは皆様もご存じのように、全身性にアレルギー症状が起こり呼吸困難など命にかかわる過敏反応を起こす事を言います。そうなる可能性があると思うと、さすがに心配になってきました。単に腰痛がなかなか治らないのなら民間療法もあり、根気よく続けれは改善していく望みはあります。(私の場合はすべり症と言って骨が変形しているので、症状が取れにくいという事はありますが…。)でも、麻酔にアレルギーが出て麻酔薬を使えない体になったら、もう腰痛どころの話じゃないんですよね。現代の医療で麻酔を使わないシーンは少なく何かあっても手術もできなくなってしまうので、麻酔薬のアレルギーになったら「おおごと」なんです。誰か麻酔科の先生に相談しようと思ったんですが、勤務医時代に仲の良かった麻酔科の先生達はずっと連絡を取ってなくてすぐには連絡がつかないし、母校の前麻酔科教授で今は大学の付属病院長をしている同級生のS君とは去年整形のT君の教授就任祝いで久しぶりに会って話したけど、麻酔科時代のメールアドレスしか知らないしなぁ…。しまった、去年会った時に新しい名刺もらっとけば良かった。まさかこんな事になるとは思いもよらず…。

知り合いをあたっているうちに、吹田の病院に勤めていた頃の麻酔科部長R先生と連絡がつき、「経過と症状からはアレルギー反応の可能性は低い様には思いますが、アナフィラキシー発生を否定できませんので、自分一人では注射しない方が安全だと思います。注射時は最低限アドレナリンの準備をし、強いアレルギー反応が生じた時はアドレナリン0.3~0.5㎎を筋注後、ためらわずに救急搬送を要請することが大切です。勿論救急科があるような施設では、救急の先生を呼ぶ事ですね」という返信が。ますます雲行きが怪しくなってきました。O君の病院には救急科はないし、え~っ、もう一人では注射でけへんの??
そして同級生のS君にも麻酔科時代のアドレスで連絡がついたので相談してみると、アレルギーか局麻中毒か分かりにくいので、まず大学の皮膚科で局麻のアレルギー検査をしてもらっては? と、皮膚科のアレルギー専門の講師M先生に連絡を取ってくれました。さすが病院長にかかると事がスムーズに運びますね。S君曰くは、アナフィラキシーだと通常は皮膚の発赤・皮疹や、重症だと血圧低下や喘息様呼吸困難が出るので、蕁麻疹が出た事があるならアレルギーの可能性もあるが、局所麻酔薬の中毒作用も関わっているのではないか、との事。局麻中毒はキシロカインで50ml以上使わないと出にくいと言われているが、人によっては10mlくらいの注射でも気分が悪くなる事があり、血液中の局麻薬の濃度と症状の関係は個人差が大きいという事でした。

話は全然変わるのですが、実は医者で薬物中毒になる人って結構いたりするんですよね。自分で自分に注射するのは違法ではありませんが、一般の人は注射器も注射薬も手に入らないので、自分で注射する事はほぼないと思います。ところが医者は注射器も注射薬も簡単に手に入ってしまうのでそれが裏目に出て、自分で注射している間に薬物中毒になってしまう…という事が少なからずあるらしいです。最近アメリカのトランプ大統領が中国に懲罰的な関税をかけて話題になっていますが、理由の一つに中国から輸出されているフェンタニルの規制を中国政府が本気で行わない為の懲罰と言われていますよね。今までは麻薬と言えばコカインやヘロインでしたが、近年はフェンタニルが主役になっているようで、アメリカの最大の社会問題の一つと言われています。このフェンタニルは本来医療用の麻酔で、工業的に安く生産できます。コカインはコカ、ヘロインはケシという植物から精製されるので手間暇がかかり、単価も高いのです。(…高いらしい…実際にいくらなのかは勿論知りませんが…(^_^;)。) でもフェンタニルは工場で科学的に生産されるので単価が非常に安く、「安いのに効きが早いドラック」と瞬く間にアメリカ社会に浸透してしまったようです。(アメリカでは、2023年に7万3千人以上がフェンタニルの中毒で死亡したそうな…。なんとも恐ろしい現実です。)そんな事があって、フェンタニルという麻酔はドラックと同じような効果を持った非常に依存性の高い薬剤で、きちんと管理された状態で定められた用法で用いないと危険なんですね。実際に日本でも、医師がフェンタニルを乱用して死亡した事件があったようです。

そんな理由で麻酔薬とかを仕入れてると、厚生省の特別捜査官が聞き取り調査に来る事があります。そしてその時に来る人達が通称「麻薬Gメン」なんです。そう! Gメンと言えば「Gメン75」じゃないですか!(ごめんなさい。やっぱりこの昭和世代の古い感覚から抜けきれなくて…(^_^;))パッパッパー、タララーランララーララララーン…から始まるオープニングテーマが流れ、丹波哲郎をボスとするGメンのメンバーが滑走路をこちらに向かって歩いて来るシーンが忘れられないんですねぇ。あの頃は、子供達が横に並んで行進する時はみんなが「俺達Gメン75やもんな!」と言うのが流行るくらい、一世を風靡したドラマでした。Gメン75は1975年に始まったので今年が2025年なんで、もう50年前…半世紀前のドラマって事になりますね。半世紀かぁ…。昔は歴史の教科書でしか使われない単語だと思っていたのに、こうして自分の事として使う日が来るとは思っていなかったなぁ…。 なんか話が全然関係ない所に飛んでしまったので麻薬Gメンの話に戻しますが、実は麻薬Gメンって警察官じゃないんです。(警察の麻薬取締専門の人は警察官でGメンではないです。GメンはGovernment menの略で、本来の意味は政府の特別担当官です。アメリカではFBIの特別捜査官の事を言いますが、州警察と違いFBIは州をまたいだ連邦捜査官なんで、連邦政府に所属する特別公務員って感じですかね。)

まぁそんな訳で麻薬Gメンは警察官ではなく、厚生労働省に所属する麻薬取締官という公務員なんです。ただし公務員と言っても、区役所でよく見かけるのんびり新聞を読んでるおじさんとは違って(ごめんなさい。公務員の人が全員そうだという事では決してないんですが、どうしてもそんな人が目についてしまうもので…)捜査・逮捕・押収・潜入捜査ができる、司法警察職員としての権限を持った人達です。実はこの麻薬Gメンって医療機関には時々来る事があって、当院にも一度聞き取り調査で来られた事があります。(勿論、私の方は何も悪い事してませんよ。当時はサノレックスという食欲抑制剤が流行っていた頃で(サノレックスは向精神薬なので、麻薬取締課の管轄だそうです)、診察もせず大量に処方する美容外科もあった為調査していたらしく、「先生のクリニックでは非常にきちんとサノレックスを処方されているようですので、一度お話をお伺いしたい」と言われたんです。)最初は麻薬Gメンから電話があって「お話を伺いたい」って言われるとビビってしまいますが、医療機関であればそんなに珍しい事ではないんです。最初はGメン75に出てくる暴れん坊みたいな人が来るのかと思ってたらそんな事はなく(当たり前か…(^_^;))、非常に礼儀正しい高級官僚みたいな方で安心した事を覚えています。いずれにせよ、医療行為というのは一歩間違えればとんでもない事を引き起こす側面があるため厳しく規制されている訳で、医師免許を取った人間に対しては非常に高いモラルを要求されている訳ですね。まぁ、本来警察官も同じように高いモラルと組織の統制の中で活動している訳で、今考えるとGメン75の中に出てくる刑事のように、一匹狼みたいに行動して上司や組織に報告する事もなく、危ない現場でも自分の判断で勝手に踏み込んで、拳銃をすぐにぶっ放す…というのはあり得ませんねぇ…(^_^;)。

なんかとりとめもない話になってしまいました…。そんな訳で、S君の計らいでM先生の外来を受診できる事になったので大学の皮膚科のホームページを見てみると、講師のM先生の下には卓球部の後輩Mちゃんがいるではないか! そしてなんと、もう一人の講師A先生は、イタリアのリド島で開催された学会の時に会って名刺交換し、「府立医大なんですか?!」って盛り上がった先生でした! 知ってる人が何人かいると、なんか安心しますね。やっぱり母校っていいなぁ。そう言えば卓球部の5学年下で皮膚科に進んだSu君が少し前にMちゃんの事を大学でバリバリやってるって言ってたな。Mちゃんは20年以上下の学年ですが、学生時代は同期の子がうちのクリニックにバイトに来たりしていたのでよく知ってました。ちょうどクリニックを北野から三宮駅前に移転した頃に現役部員だった子達で、みんなでクリニックで宴会してそのままごろ寝したり、楽しい時代だったなぁ。Mちゃんは卒後は東京の病院に行ってしまったのであまり会えなかったんですが、卒業祝いに指輪をあげたのを覚えています。10年程前に京都に戻ってきたとの事で、一度卓球部のOB戦に顔を出してくれましたがそれ以来会っていなかったので、まずはいつも連絡を取っているSu君に電話してみました。Su君は今は大学にはいませんが、同じ皮膚科なのでM先生の事もよく知っていて、「僕からもよろしくってメールしときますよ!」と言ってくれました。Su君はアレルギー検査の方法も詳しく教えてくれましたが、大学ではアナフィラキシーを起こしても対処できるように、点滴をしながらモニターをつけて検査するので多分入院になるとの事。ええっ、えらいこっちゃ。入院となると、休診などの予定を立てないといけないのでいつ頃になるのか知りたいけど、入院予約の込み具合等は実際に大学で働いている先生でないと分かりません。これはMちゃんに聞くしかないな。

久しぶりにMちゃんに電話してみると「先生~!めちゃビックリ! お久しぶりです~!」と盛り上がったんですが、私が受診する日はMちゃんは大学にいない日だとかで「めちゃ悲しい~💦 先生に会いたかったのに~! いてたら付き添いするのに~!」と残念がってくれて、でも私の症状を聞いて血圧低下や呼吸苦・エピペン(アナフィラキシーを治療する注射)使用歴がないのなら外来検査できそうだから、と最短で検査できるように手配してくれたんです! MちゃんはS君とも一緒に仕事をした事があるらしく、私がS君と同級生だと言うと「え~っ! 先生、S先生と同級生なんですか~? 先生、若いですね~! S先生と同級生には見えませんよ!」って言ってくれました。(S君もたいがい若く見えるんだけど…)その後もMちゃんは、検査の手順とか何種類くらいの薬剤を検査できるかとか、私の症状と希望やS君はじめ麻酔科の先生達の意見・皮膚科のアレルギーカンファレンスでの内容も含めたらどういう方法がいいかとか、すごく詳しいメールを2回もくれてめっちゃ助かりました!! やっぱり持つべきものは後輩なのだぁ。Mちゃんがメールに「ご連絡頂き大変嬉しかったです!」とか「少しでも御恩返しが出来ればと思います!」とか書いてくれてたのも嬉しかったなぁ…。そしてMちゃんのメールの内容は理路整然としてすごく的確で、Su君が「大学でバリバリやってる」って言っていた訳がよく分かり、学生時代は可愛らしい感じだったのにめっちゃしっかりした立派な先生になったんだなぁ…と嬉しく、感慨深いものがありました。

まぁ…そんなこんなで神戸から京都に通う事が多く、アレルギー検査も一回に一つの薬剤しかできないので何回も通わないといけなくて…本当に大変でした。(今でもまだ終わってないのですが…。) という事を言い訳にして、5月号をお休みさせていただいた次第です。長い言い訳の割に、何か為になる話が一つもなくて申し訳ありません…m(_ _)m。開業してしまうとこういう事がなければ、後輩の医者とも改めて医療についての詳しい話をする機会はほとんどなくなるんですが、やっぱり話をするとモラルは高いしよく勉強してるし、向上心が強い人ばかりだなぁ…と感心します。こんな人達ばかりだと、麻薬Gメンの皆さんもする事なくなるだろうな。(勿論、麻薬Gメンの人達が暇すぎて解散するくらいが社会にとっては一番良い事ですしね。)できればいつか、後輩やかつての仲間達と腕を組んで滑走路を一緒に歩きたいなぁ。勿論、テーマソングはあの「パッパッパー、タララーランララーララララーン」…で! これからもよろしくお願い致します!!
