こんにちは! 柴田エイジングケア・美容クリニックの柴田です。猛烈な暑さが続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 私はと言えば…この暑さにバテ気味ながらも、引き続き整形外科の後輩「神の手」ことH君をシュッとしたイケメンに戻すための治療中です。H君は強固な意志でダイエットも順調に進み、74kgあった体重がついに68kg台になりました! 学会や講演などで会食続きなのに、この成果はすごい! 先日タイでの学会で、ボクシングの格好をして発表する機会があったそうでFacebookに写真が載っていましたが、ポッコリだったお腹もスッキリ凹んで腹筋が割れ、結構サマになっていました。学会前に痩せて良かったねぇ。(ポッコリお腹でボクシングの格好はいけてないもんね。)そして、額や眉間・目尻や鼻のシワにボトックスも注射したところ、「先生、シワなくなりました!! すごいです!!」と感動してくれました。額のシワが少し残っていたので「追加しましょか」と言うと、「いや、もっとボコボコになるくらいシワ寄ってましたもん! めっちゃ良くなりましたよ!!」と大満足の様子。(めちゃやりやすい患者さんです…(^_^;)。)その噂を聞いて、同じ整形の後輩F君から奥さんがクマの治療をしたいと言ってる…と連絡がありました。奥さんもクマにリジュランカクテル、目尻と目の下・眉間と鼻のシワにボトックスを受けられて、術後診察の時はF君も一緒に来たので診察後はコーヒータイムに…。F君は5年前に今の病院に赴任するまでは15年も大学にいて、最後は准教授(昔で言う「助教授」…教授の次の位ですね。2007年の学校教育法改正で「助教授」は「准教授」という役職名に変わったんです)だったので大学事情には超詳しく、久しぶりに大学の話で盛り上がりました。
F君は教授候補だったのにちょっとした事で前教授K先生の機嫌を損ね、大学を出されたんだとか。(さながら白い巨塔ですねぇ…。)F君曰くK先生は名誉欲が非常に強く、自分の名前を後世に残す事には努力を惜しまなかったそうで、講師や准教授などの教室員を増やして教室を大きくする事もその一つだったらしい。そのために政治家のところを回ったり僻地医療に力を注いで教室員の枠を増やす事に余念がなかったそうで、K先生が退官する頃は教室員の数は教授に就任した頃の倍になってたんだとか。でも私の母校は公立大学で大学全体の教室員の枠数は決まっているので、整形の教室員の枠を増やすには他科の教室員の枠を削らないといけないらしく、K先生が他科を顧みずに自分の科の教室員を増やした事で他科の教授達の反感を買ってしまった結果、K先生の退官後は反K派のT君が教授になったという事です。なんだか社会の縮図のようですね…(^_^;)。また、F君は他科の事情にも詳しく、以前薬の治験データの改ざんで教授が辞任した科では、それに関わっていた准教授や講師などが全員辞めてしまったので、それまでみんなの嫌がる地味な仕事や実験を人が良いのでやらされていた先生が教授になったという話もしてくれました。人生、何が起こるか分かりませんね。一時は新教授になった先生がデータ改ざんの件をリークしたのでは?と噂されたそうですが、彼はそんな事ができる人柄ではない…という事で調べると、改ざんに関わっていた大学院生が良心の呵責に耐えかねてリークしたという事が分かったそうな。F君って、ほんま何でも知ってるなぁ。いつの時代も人の噂話や人事の話となると盛り上がるもんで、時を忘れて話し込んでしまいました。(あまり品が良い事ではありませんが…(^_^;)。)
ちょっとここで補足すると、この治験データの改ざんというのは「ディオバン事件」というもので、Wikipediaなどにも詳しい情報が上がっているので興味ある方は参照いただければと思います。(えっ?興味ない? まぁそうでしょうね…(^_^;)。だと思いますので、私の方で簡単に解説します…。)この事件は、当時は日本の医療系大学全体を揺るがすような大きな事件だったのです。簡単に言うと、高血圧の治療薬であるディオバンという薬の治験(大学病院などで実際に患者さんに投与を行って、その効果を測り有効性を検証する事)の際に、この薬のメーカーの日本法人であるノバルティスファーマ社の社員が統計解析者として関与して、数値などを改ざんして自社の薬がいかにも「効いている」かのように論文を捏造したという事です。実は私も噂は聞いていましたがこの事件に詳しい訳でも何でもなく、Wikipediaを見て詳しい内容を初めて知っただけなので、何かコメントできるような専門知識がある訳でもありません。ただ、やっぱり母校の医師が関わった事件として関心を持ってしまったので、一般論なんですがこの事件の内容を見てみようと思います。
まず、このディオバンを使った治験は私の母校だけでなく、東京慈恵会医科大学・滋賀医科大学・千葉大学・名古屋大学という全部で5つの大学が治験に参加し、それぞれの大学から論文が発表されていました。ところが…です。最終的には5つの論文すべてに問題があったとして、全部論文が撤回されるという事になりました。それがどんな事なのかというのは想像しにくいと思いますが、もう医学会の常識から言えば「超異常事態」です。有名どころでは、スタップ細胞の事件で一躍有名になった小保方さんの論文が撤回されましたが、一度掲載された論文がデータ捏造などで撤回されるって、もうあのクラスの不祥事なんです。この事件がきっかけになって「臨床研究法」という法律まで作られたくらいです。しかし私もWikipediaの情報しか知らないのですが、どうも違和感があるんです。公開されている情報だけで言えば、ノバルティスファーマ社の社員が統計をいじって自社に都合の良いようにデータを改ざんしたとなっていますが、それぞれの論文は各治験を行った大学から独立して発表されており、いくらノバルティスが研究費を出しているからと言って、一人の社員が5つもの大学の研究に対して不正を指示したり、データ改ざんを要請できるのか?って思うんですよね。いくら何でも今どき賄賂をもらって基本データの改ざんに協力するというような事が5つの大学で平行して行われたとは思いにくいんです。あり得るとすれば、基本データは大学から提供されたがそれを集計して統計分析するところで、このノバルティスの社員に「先生!そんな面倒な作業は私がやりますので任せてください! 面倒な仕事を手伝うために会社から派遣されているんですから! 先生はゆっくりコーヒーでも飲んでお待ちください!」みたいな事を言われて、集計する時にこの人が実際のデータを黙って改ざんしたのか? まぁ仮にそうであったとしても、集計データの整合性を確かめるのは研究機関である大学の役割であって、それを検証もせずに論文発表したのであれば研究生命がそこで終わっても文句は言えないずさんな状態だったと思います。(この社員は事件後逮捕はされたものの、裁判では最終的に無罪になっているようです。ただし無罪と言っても改ざんを行っていないという事ではなく、改ざんはしたがそれが刑事事件の被告として罪に問われる程のものではないと判断されたようです。まぁ試験のカンニングも問題ある行為ですが、見つかったとしてもそれで刑事事件の被告になる事はないですしね。一方この研究に関わった大学の責任は重く、教授やその他のスタッフもほとんどが責任をとって辞任しているようです。私の母校の教授も同じ運命をたどった訳です。)
そもそもこの事件が発覚した経緯なんですが、ランセットという医学雑誌に掲載された東京慈恵会医科大学が発表した論文に対して専門家の間から「あれって、なんかできすぎじゃない??」って疑問がかなり出たみたいです。一般にはなじみのないこのランセットという雑誌ですが、医学会においては権威中の権威と言っても過言ではなく、そもそもランセットに論文が掲載されたというだけで研究者としては自慢できると言ってもいいような有名な雑誌です。それだけ世界中の研究者がそこに掲載された論文には注目するんですが、そんな中で「あれ??なんかおかしくない??」って、逆の意味で注目を集めてしまったようです。私はここでも納得がいかないのですが、なんでそんな世界中の研究者が注目するような雑誌に掲載する論文で、改ざんするにしてもそんな初歩的なミスをしたのか? そして揃いも揃って5つの大学の研究者がその事を同時に見落としたのか?…と思うんですよねぇ。このノバルティスファーマ社の社員さんがすごく切れ者で、「先生、これは全く新しい統計分析の手法を使っているので細かいことは分からないと思いますが、最終結果だけは信用できる状態になっています。まぁ私にお任せください!」ってな事を言って、そうそうたるメンバーの研究員達を煙に巻いたのでしょうか??
ここはこれ以上考えても陰謀論の世界になってしまうので一旦はやめておきますが、昔から医学会の「血圧関連」って何かと黒い噂が絶えないのも事実です。(興味のある方はネットなどで調べてみてください。)ただ、世の中にはそんなうまい話はないもんで、簡単に言うと、自分の都合の良いようにデータを改ざんした結果あまりにも出来過ぎた数値になってしまって、専門家が見ると「いくら何でもここの数値がこんなに綺麗に一致するのはおかしいでしょ? こりゃ恣意的に数値いじらなきゃ、こんなに都合の良い実験結果出ないよね」って批判が出てきたという事です。多くの批判を受けて大学の調査委員会が調査をしたところ、大学に残っていた臨床データと実際に発表されているデータの間に乖離が見つかり、明らかにデータが改ざんされているのが判明した…というのがこの事件の全貌のようです。
ちょっと皆さんにはあまり興味のない話題だったかもしれませんが、一言で言えば「あまりにも都合のいい話って何か裏があるよね…」って事が、この事件の教訓だと思います。実は健康とかダイエットとか美容の業界ではこの「あまりにも都合のいい話」が巷に溢れかえってるんですよね。短期間で楽して痩せるとか、飲むだけで健康になるとか、リスクが全くない美容法とか…とか…。もう毎日そのような情報を見ると思うんですが、そんな都合の良い話はないだろうと頭では思っていても、つい「もしかしたら画期的な方法が開発されたのかもしれない…」と自分に都合の良いように解釈してしまうのが人間の悲しい性ですね…(^_^)。最新科学のエビデンスに基づくというような前触れでそれらしい話が掲載されているのですが、非常に単純な「そんな簡単にこの病気を治す事ができるんだったら、なんで今頃この病気は根絶されてないの? おかしいよね??」という単純な疑問には、誰も答えてくれません。そして多くの場合、この最新科学のエビデンスなんちゃらより、単純な疑問の方が正解である事の方が多いようです。例えば、薬って体の中の化学反応なので、何かにとって良い事は何かにとって悪い事というような事が必ず発生します。化学反応の代表例で言えば「物が燃える」という事ですが、物が燃えて熱を取り出す事ができる…というのが利点だとすれば、その裏では酸素を消費するとか、二酸化炭素を出すというような副反応が必ずあります。勿論、稀には熱も取り出せて酸素もなくなれば一石二鳥…みたいな事はありますが、人間の体って閉じた生態系なので、多くの場合は「バランス」が崩れてしまいます。あちらを立てればこちらが立たずになってしまうんですよね。なので副作用が全くない薬は恐らく存在しないと思います。ただ、薬の副作用は甘んじて受け入れても、メリットの方が相対的に多いという場合に仕方なく受け入れる…というのが薬の本質なんでしょう。
その観点で言えば、自分にとってすべて都合が良い事って、ほぼあり得ない事が分かります。勿論、副作用を受け入れてもメリットが大きい場合は使い方によっては非常に有効なので、薬の存在意義が大きい事に異論はありません。ただその場合は、メリットだけでなくきちんと副作用の報告も行うというのが、モラルある研究者の行うべき仕事ですよね。実は健康食品をはじめとした健康にメリットあるけど副作用はほぼありません…の類については、多くの研究では「副作用は確かにほぼないが、メリットもほぼない」というのがほとんどのようです。(だから薬じゃなくて食品なんだ、と言われれば納得はできますが…(^_^;)。)じゃ、なぜこれが誇大広告として取り締まり対象にならないのかというのは、はっきり言えば「まぁ…副作用がないんだったらあとは自己責任って事でいいんじゃない? 何かを信じている人を無碍に否定するのもねぇ。確かにプラシーボ効果ってのも一定はあるしね…」って事でしょうか。
という事で、巷に溢れている健康や美容情報は、メリットのみを強調してデメリットを全く言っていない…という事がほとんどです。いくら科学的エビデンスを基にしたとか、最新の論文を基にした情報と言っても、メリットだけ言うのであれば片手落ちですよね。それこそ都合の良いようにデータを改ざんまではしてなくても、都合の良いデータだけを見せている…って事になります。本当に信頼できる情報は、常にメリットとデメリットを提示した上で、比較すればメリットがデメリットを上回ると思われるのでメリットを享受しましょう…という事になります。私も先月の通信で「運動が健康に良い」という事を書きましたが、正確に言えば運動は体に対して負担がかかります。よってそれ相応の体力がない人やケガをしている人、それに心臓に持病がある人などにはメリットよりデメリットの方が大きい場合もありますので、そのような人は運動は一旦控える方が良いという選択肢になります。ただ、一般的な体力を持っている人にとっては、体に負担をかけるというデメリットよりも、運動によって促進される血行や増進されるホルモン・筋肉や骨の成長と言ったメリットの方が大きいという事ですね。まぁ…人生全般に言える事ですが、「うまい話には気をつけろ」って事なのかも。これからも私はきちんとメリットとデメリットの両面を確認して、正しい情報をお届けできるよう心がけていくつもりです。今後ともよろしくお願い致します。