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第256回「寝てても増えるものは〇〇だけ?」

こんにちは。柴田エイジングケア・美容クリニックの柴田です。急に暑くなりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はと言えば…先日、整形外科の後輩F君に半年ぶりに骨密度の測定をしてもらいました。実は去年の4月に、神戸の病院で8年ぶりに骨密度を測定するとYAM値(「Young AⅮult Mean」の略で、若年成人(20~44歳の健康な人)の平均値を100とした時の自分の骨量の割合を表した数値)が88から73まで下がってたんです! YAM値は80未満は要注意、70以下まで減ると骨粗鬆症と判定されます。YAM値73やったら「要治療一歩手前」やん! こらえらいこっちゃ! 8年前と言えば母を骨盤骨折で亡くした時で、私も骨粗鬆症が心配になって骨密度を測定したんですが…その時は88で大丈夫って言われたから油断してたがな。去年膝が痛くなってF君に診てもらった時にその事を相談すると、ビタミンⅮ製剤とビスフォスフォネートという骨吸収抑制剤を勧められ、その後骨密度も半年に1回F君の病院で測定してもらっていました。去年の10月に測定してもらった時はYAM値が78に上がっていたので喜んでたんですが、今回はなんと72まで下がってたんです💦。が~~~ん!! F君曰くは、去年は骨密度を測定する機械が古くなってデータにばらつきが出始めた為今年は機械を買い替えたので、前回上がってたのは機械が不調だったからかも…という事で、ぬか喜びだったらしい😢。ガックリ。


その話を現在モニターとして当院に通ってくれている脊椎手術の「神の手」こと整形の後輩H君に話すと、「僕にできる事があったら何でもします!」と言ってくれて、今度の学会で骨粗鬆症マニアの先生と一緒に座長をするので、最新の最適な治療を聞いてくれるという事になりました。その結果…ビスフォスフォネートという薬は古くからあるので一般的にはよく使われるが、長年飲んでいると骨が硬くもろくなって骨折しやすくなってしまうので、長くは続けない方が良いとの事。こらあかん! そして今は女性ホルモン製剤か新しいプラリアというヒト型モノクローナル抗体製剤がいいという事でした。ただ私の場合は下腿(ふくらはぎ)に血管腫があって、昔ピルを飲んだ時に血栓ができて出血し、歩けなくなった事があるので女性ホルモン製剤は使いにくいんですよね~。(その時はCTを撮ると腫瘍がいっぱい写ってたので、一時は下腿切断かと大騒ぎになったのであった。)女性ホルモン製剤が使いにくい場合はプラリアがいいんじゃないかという事なんですが、低Ca血症を起こす事があるので血中Ca濃度をチェックしないといけないなど、ちょっと面倒らしいのでその辺はF君と相談…という事になりました。そして日本人はビタミンⅮが足りない人がほとんどなので、ビタミンⅮ製剤は欠かせないとの事。しかし私は以前からアンチエイジング目的でビタミンⅮは飲んでいたので、それでも骨密度が低くなってしまったのはやっぱり運動不足が大きな原因だと思います。5年前に膝を傷めるまでは学生時代からしていた卓球を時々してたんですが、ひざを傷めてからしばらく休んでいるとそのままコロナ禍に突入してしまい、40年以上続けていた卓球を5年も休む事になってしまったし、外出もほとんどしなくなって歩く機会も極端に減ってしまったので…。


骨はその長軸に対して物理的な刺激が加わると、強さが増すと言われています。なので運動や歩行が減ると、骨は弱くなってしまうんです。骨を強くする運動として有名なのは「踵落とし」ですよね。踵を上げてストンと落とすだけの簡単な運動ですが、1日100回を半年以上続けた結果、YAM値が62から83まで回復した人もいるそうな。ただ、効果が表れるまでに半年はかかると言われています。当院に通われているT様はこの踵落としを毎日100回されているそうで、80歳なのにとってもお元気です。他に「インターバル速歩」と言って、筋肉に負荷をかける「急ぎ歩き」と負荷の少ない「ゆっくり歩き」を数分間ずつ交互に繰り返す事で、筋力・持久力を無理なく向上させる事ができる上、骨密度の増加や生活習慣病のリスクの改善にも効果的だそうです。やっぱりアンチエイジングには運動は欠かせないという事ですね。


ところで皆さんの中には「骨粗鬆症を予防するには牛乳を飲むのが一番!」って思っている方はおられませんか? 先日も患者様と話をしていた時に「私は乳製品を非常に沢山摂っているので骨密度は高いんですよ…」と言われていました。

a,骨粗鬆症=骨がスカスカになる病気である

b,牛乳=カルシウム沢山の栄養飲料である

c,骨はカルシムを基本の材料に作られる …って事は…

d,牛乳を沢山飲む→骨粗鬆症の予防や改善につながる

と思いますよね。ところが最近の研究では、牛乳を沢山飲んでも骨粗鬆症の予防や改善には効果がないという論文が多いんです。ええ!?子供の頃には「牛乳飲まないと背が伸びなくて将来カッコ悪いよ。困るよ…」と脅されて、牛乳嫌いの子供も半ば無理やり飲まされていたと思うのに??


医学の世界では過去の常識を新しい研究がひっくり返してしまう事はよくある話なんですが、実はa,b,cの各論は間違っていないのです。でもなぜかdは成り立たないという学説が、現在はかなり支持されているように思います。面白い話なので、この牛乳神話については少し補足をしておきたいと思います。まず、骨粗鬆症の予防や改善に牛乳を沢山飲むのって意味なんじゃない??っていう事を提唱した有名な研究が1986年にハーバード大学の教授から出されていて、世界に衝撃を与えたと言ってもいいと思います。発表された内容を非常に簡単に要約すると、牛乳を沢山飲む地域の人ほど骨粗鬆症が多いって事なんです。医学の研究って、試験管の中で細胞を培養したりマウスを使って実験して、このような薬剤を投入すると〇〇%の割合で△△の効果が見られた…なんて言って、いかにも夢の新薬の開発が成功しそうだ…みたいな発表をされる事があるんですが、そもそも試験管の細胞やマウスと生きている人間は全く違いますし、投入される薬剤の量も半端ない量だったり、実験に使われた個体の数がそもそも少なすぎて単なる偶然だったというお粗末なものまであって、発表された内容のわりにプロの科学者はそんなに衝撃を受けたりしないものです。大体発表された時はニュースが世界を駆け巡るって感じの事があっても、数年もすれば「そう言えば、あれどうなったん?」てな事が多いんですね。でも、この牛乳の消費量と骨粗鬆症の関係を調べた論文は、そもそもの調査対象が実際に生きている人間で行われた事と、調査対象が数万人規模のサンプルである事から、非常に信頼性が高い訳です。逆に結果を否定する事の方がずっと難しいという条件で行われた調査なんですね。



この論文の後も、世界の色々なところでそれを追跡するような調査が行われています。日本でも鳥取大学医学部で行われた調査では、下記のような結論でした。年齢が35歳以上で人口10万人あたりの骨粗鬆症が原因の大腿骨骨折事例がどの程度あるのかと言うと、

1.ロチェスター・USA 男性79.2 女性230.1

2.オックスフォード・イギリス 男性80.6 女性202.1

3.オスロ・ノルウェー 男性150 女性350.9

4.香港・中国 男性48.8 女性71.2

5.新潟・日本 男性23.8 女性61.7

6.鳥取・日本 男性34.4 女性89.8

という事です。ちょっと驚きではないですか? 明らかに欧米の乳製品消費が多い地域に比べて日本や香港など乳製品の消費が少ない地域の方が圧倒的と言うか桁が違うレベルで骨粗鬆症が原因の骨折は少ないのです。勿論欧米人は肥満の割合も高い事から重たい体重が原因となって骨折しやすいという事はありますし、人種による違いと言うのはあるにせよ、これらの統計を見ると乳製品を沢山摂っても骨粗鬆症が改善されるとはとても思えない…って感じですよね。


でもこれって何も難しい事ではなくて、考えてみれば当たり前なんですよね。牛乳にカルシウムをはじめとする豊富な栄養があるのは事実で、これを疑う人はほぼいません。そしてそれを飲んだ後に血液中のカルシウムの濃度を測れば確実にカルシウム濃度は上がっています。ここまでは問題なし。ところが、この状態で十分なビタミンⅮがあれば、このカルシウムが骨に吸収されて新たな骨の成分を作ってくれるのか?と言うとそんな事はない…と言うのがミソなんです。骨には破骨細胞という骨を壊す細胞と骨芽細胞という骨を生成する細胞があります。つまり骨って一回作られるとずっと同じじゃなくて、破壊しては生成をして…という事を繰り返しながら、常に新しい骨に生まれ変わっている訳ですね。若い時は骨を壊す量と生成される量が釣り合っているので問題ないのですが、老化が進むと生成する量が減り、閉経後女性ホルモンが減ると破骨細胞が活性化して骨吸収が骨形成を上回るので、結果として骨がスカスカになる…これが骨粗鬆症の最大の原因と言われています。そして本当に残念な事なんですが、口から栄養素を入れて、あとは寝てても増えるのは脂肪だけであって(これは多くの人が自分の体で実証済??)、筋肉や骨などは、寝ているだけでは増えるどころかどんどん減ってしまうのです。勿論、成長期の子供は成長ホルモンが出ていますので、寝ているだけで筋肉も骨も増えるのですが、年をとると寝てても自動的に増えるのは脂肪だけ…と思った方が良いのです。



じゃ、どうすれば筋肉や骨が増えるのか? その答えが筋トレと、踵落としなどの骨に一定の衝撃を与える運動です。日本人についてはカルシウムは不足がちだと言われているので積極的に取る事は良いと思いますが、それだけで骨が太くなるとか骨密度が上がると思うのは間違いです。逆に欧米人は十分にカルシムを摂っているので過剰な分は体外に捨てられていると思われますが、にも拘わらず骨粗鬆症による骨折は日本人と比較して圧倒的に多いのです。つまり、血中にカルシウムが十分あっても運動をして生成スイッチを入れないと意味ないですよ、って事ですね。…という事で耳が痛い話に結局戻ってくるんですが、何かを飲んだり食べたりすれば骨粗鬆症が解消するというような甘い世界ではなくて、運動をしないとダメなんです!!って事になってしまいます。はぁ…これは私も耳が痛い…(^_^)。ちなみに補足しますと、現代の一般的な日本人はビタミンⅮについてはかなり不足していると指摘されている事が多いので、ビタミンⅮはできるだけ飲むなり食べるなり、日光浴するなりで増やすように心がけた方が良いでしょうね。でもそれ以外は、やっぱり皆さんの嫌いな「運動」しか解決方法はなさそうです…(^_^;)。


…という訳で、私も自分が進んでやらなきゃ!と思って、筋トレや踵落としと共に、去年復活した卓球を頑張る事にしました。コロナ禍で中止になっていた大学の卓球部の新入生歓迎コンパや6回生の追い出しコンパ、OB戦などが去年から復活し、学生の大会や医師卓球大会なども復活したので、久しぶりに卓球してみると意外とできたし、一時出ていた坐骨神経痛もH君のお蔭で良くなったので、今年も新歓コンパとOB戦に参加しました。以前はOB戦前に1回練習したらいい方だったんですが、今年は5月にF君の病院に行った帰りに大学の卓球場を覗いてみると、最近は試合の応援とコンパにしか行ってなかったので「普通の練習の時に来てくださるなんて嬉しいです!!」と現役生が歓迎してくれたので、調子に乗って6月のOB戦までに5回も練習に行ってしまいました。学生の練習に参加するのはなんと10年ぶり。そして練習の中で一番しんどい多球練習(次々と球を出してもらって連続スマッシュする練習)も20年ぶりにしてしまいました。お蔭でOB戦ではスマッシュも結構決まり、卒後4年目の後輩に「先生、キレキレですね! 僕が学生時代に見てた時より決まってますよ!」って言われちゃいました♪。 運動って、黙々と一人でやる方が好きって言う人もいますけど、私みたいに何か楽しい事と紐づいてないとついついさぼってしまう…というような性格の方は、昔やってたスポーツを思い出してチャレンジしてみてはどうでしょうか? やっぱり人間って褒められたりすると嬉しいもので、ついつい調子に乗ってしまいますよね。(調子に乗りすぎて怪我しないように気を付けてくださいね!)皆様と共にいつまでも若く、健康寿命を長くする為の研究を今後も行っていくつもりですので、引き続きよろしくお願い致します。



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