top of page

第239回「皆様の中にお医者様はおられますか?」

こんにちは! 柴田エイジングケア・美容クリニックの柴田です。年末年始はいかがお過ごしでしたか? 私はと言えば…先月号では食道癌の疑いで胃カメラを受けたお話をしましたが、その続きで大腸ファイバーを受けた後、大変な年末年始になってしまいました。なんか最近は続けて病気自慢みたいな話が多くてすいません…やっぱりこの歳になると、自分の病気の話って増えてしまうもんですねぇ…(^_^;)。胃カメラでは食道癌はなく、症状の割にはたいした所見はないと言われてほっとしたんですが、検査で何もなければ安心して症状も良くなるという事はよくある話だし自分もそうなるだろう…と思ったのに、あまり症状が良くなりません。おまけに飲み込みにくいだけではなくお腹の調子まで悪くなってきたので、胃カメラをしてもらったS病院のM先生に再度相談したところ、「1回もした事ないんやったら、年齢的にも1回はしといた方がええよ」と大腸ファイバー(内視鏡検査)を勧められました。大腸ファイバーは胃カメラよりもっと大変な検査だと聞いていたので今まで避けてきたんですが、2015年に整形外科の後輩T君が大腸癌で亡くなってから、前回のクリニック通信で登場した元S病院のF君をはじめ整形の後輩たちはこぞって大腸ファイバーを受けていたので、F君にも相談してみると「えーっ、先生1回もした事ないの?? そらしといた方がええよ。T君の事もあるし、大腸癌やったら大変やん。内視鏡の上手いM先生がS病院にいてはる間に受けといた方がええんちゃう?」と言われ、そらそうやなぁ…と思って検査を受ける事にしました。(食道癌疑いの次は大腸癌疑いかぁ…💦年取るとほんといろいろあるよね。)M先生に説明を聞くと、胃カメラとは全然違う大変な検査だから鎮静剤は使った方が良いとの事だったのでお願いし、前処置用の下剤も送ってもらいました。



さて、検査当日。前処置は大量の下剤を飲んだりかなり大変でしたが、鎮静剤のお蔭で検査中は時々痛みで目が覚めるくらいでそれ程の苦痛はなく、6㎜大のポリープが見つかったので内視鏡下に切除してもらいました。術後説明を受けている時から腹痛があったのでM先生に聞くと、「痩せたせいか横行結腸がたわんでカメラが進みにくくてだいぶつついたから痛いんやと思うけど、そのうち治るから」との事。ポリープはこの大きさだと悪性の事は少ないけど、悪性だったり取り切れてなかったら入院して内視鏡下の再切除や稀に開腹手術が必要な事もあると言われ、入院するんだったらS病院はあまりにも遠いので、普段循環器内科でかかってる神戸のT病院にしようかなぁと思って循環器内科の部長で主治医のF先生に消化器外科を紹介してもらえるか聞いたり、ポリープ切除後は食事や入浴の制限もあったんですが説明書には細かい事は書いてないし、ネットで調べても病院毎に少しずつ違うのでM先生に聞いたり…最初はそんな事に気を取られていて、腹痛はM先生の言うようにそのうち治るだろうと思っていたのですが…。術後2-3日は寝る時仰向けになると痛みがあって寝付きにくく、その後安静時痛はましになりましたが、腹筋を使おうとすると痛くて仰向けからは起き上がれず、笑うと「いてててて…」って感じで笑えないんです。術後2日目にM先生に食事の件をメールで聞いたら「アルコールと辛い香辛料の強いもの以外は、ぼちぼち普通に食べられたら良いと思います」と返信があったので、「昨日の夜は寝付きにくいくらいお腹痛かったけど、今日はちょっとましになってきたので(まだ起き上がる時とか笑ったら痛いけど)ぼちぼち食べてみます」と返したけど返信がなかったので、ちょっとぐらい痛くても問題はないのかなと思って様子を見てたんですが…1週間以上経っても同じように痛いやん。じっとしてたらすごく痛い訳ではなく仕事はできるレベルなんですが、とにかく腹筋を使おうとするとかなり痛くて、「いてて、いてて」の連発状態。最初は筋肉痛かと思って「検査中によっぽど力入ってたんかなぁ」とか思ってたんですが、筋肉痛やったら1週間も続けへんしなぁ…とだんだん心配になってきました。



F君やS病院放射線科のUちゃんなど大腸ファイバー経験者に聞いてみても誰も術後は痛くなかったと言うし、10日後くらいに安静時痛がぶり返したのでM先生にメールで聞いてみると「普通腹痛が起こる事はないし、ましてや1週間を過ぎて腹痛がある事は通常ないです。術後痛いようであれば関連があるのでしょうし、あまり痛いようであれば採血やCTが必要と思います」との返事が来ました。こらえらいこっちゃ。M先生も痛みはすぐに治るだろうと思っていたとの事で、「一度診察させて欲しい」と言われて年末にS病院まで行きましたが、血液検査で異常がなく、腹部の触診上も腸に穴が開いたり腹膜炎などはなさそうだという事で、CTは撮らずに様子を見る事になりました。ポリープの病理検査の結果は低異形度腺腫で、2-3年に1回のフォローでいいという事で大腸癌は免れてほっとはしたんですが…。

しかしその後、例年通り年末のクリニックは怒涛の忙しさ。最終日の30日はカリスマ美容師Sさんのボトックス9箇所という治療だったんですが、セバスチャンS君がその日に限って体調不良で欠勤し、一人で治療する羽目になって無理がたたったのか、翌日の大晦日に腹痛が悪化。M先生に連絡するとやっぱりCTを撮ろうという事になり、S病院の救急外来を受診する事になりました。大晦日にM先生も来てくれて(すいません…💦)血液検査をして造影CTを撮り、放射線科の読影も頼んでくれたんですが、穿孔や腹膜炎などの重篤な所見はないとの事。一体何の痛み?? でもまぁ大変な事にはなってなさそうだし、そうこうしていると痛みも若干ましになってきて、便秘気味のようなので下剤を飲んでみたらと言われて様子を見る事になったんですが…。



しかしお正月になって、下剤が効いても痛みはあまり変わりません。大晦日ほどではないけどやっぱり起き上がれないし、笑ったり力を入れるとかなり痛い。寝る時仰向けになると痛みが強くなって圧痛もあるので、圧痛の部位を確認してみると腹部大動脈に沿って強い事に気付いて慌てました。一昨年の12月、整形の後輩H君が大動脈解離で亡くなった事を思い出し、大腸癌の疑いがなくなったら今度は大動脈解離疑いか??と焦って、ちょうど1/5が循環器内科の受診日だったのでM先生に頼んでS病院のデータを神戸のT病院に送ってもらう事に。病院は4日からだったのでS病院のデータを郵送ではなくデータ送信して欲しいと事務に頼んだら、セキュリティ上の問題で郵送しかできないと言われ(情報漏洩してもいいって本人が言ってるのに、融通利けへんねんから全く…ブツブツ)診察時間に間に合うかハラハラしましたが、なんとか間に合ってデータを参照しながら診察してもらえました。結果は大動脈は動脈硬化はあるものの解離はなく、データ上も循環器内科的には痛みの原因となるような所見はないとの事。大動脈解離がなかったのにほっとしたからか痛みは若干ましにはなってきましたが、ますます何の痛みか分かりません。M先生がT病院の消化器内科宛に紹介状も書いてくれたので数日後に消化器内科も受診したんですが、初診担当の部長には再度造影CTをを勧められ、こないだ撮ったばっかりやのに…と思ったんですが、検査を受けないとそれ以上進まない感じだったので受ける事にすると、「結果は午後になるので午後診に引き継ぎます」と…。午後診の担当は若造で「CT上は異常ありません。少しましになって来てるんだったら様子を見ましょう!」の一点張り。循環器内科の先生でも腹部の触診をしてくれたのに、消化器内科の2人は触診もしようとしません。CT撮ったんは逃げるためやったんか? CTの画面見てるばっかりで腹部の触診もせえへんとは、それでも消化器内科か!と言いたくなりました。友人Mに愚痴ると、「ややこしいやつ来たって思われたんちゃう? 何にもないのに痛いって言うやつ、時々おるやん」…(^-^;)。まぁT病院クラスの大きな病院では、命に係わる重篤な状態しか問題にはしないのかもしれませんが…。



私はこう見えても?大きな病院で何年も勤務医をしていた経験があるので、病院の内情というのはよく分かっているつもりです。なので文句を言いながらも「あぁ…まぁ仕方ない面もあるけどねぇ…」という感じなのですが、恐らく医者の世界や病院の内情などを知らない一般の方にとっては「え?なんで?」とか「それって常識的におかしくない?」なんて事はしょっちゅう起きているのがこちらの世界です。皆様はテレビドラマなどで、飛行機の中で乗客が突然心臓発作を起こして「乗客の皆様の中で、お医者様はおられませんか? 機内で急病人が出ております!」という機内アナウンスが流れるってシーン、見た事ありませんか? そうすると、決まってイケメンの主人公が「あ…私は医者です!」と名乗り出て、さっと患者を診察すると手際よく応急処置を終えて「なんとか命に別状がないところまでは応急処置をしました。あとは空港に着いたら救急車で搬送できるように手配してください」とフライトアテンダントに告げ、何事もなかったように席に戻っていく…その様子を見ていた乗客やフライトアテンダント達は「萌え萌え」の状態で彼の後ろ姿を見つめている…ってありますよね。そりゃもうカッコいい!!の一言です。もし本当であれば…(^_^)。皆様の中では、お医者さんってこういうイメージを持たれてないでしょうか? 私も小さい頃は持ってました…でも自分がその世界に入ると分かるのですが、これはあくまでドラマのフィクションであって、現実ではほぼあり得ない事なんですよね。



まず最初に申し上げると、医者の世界は専門が細かく分かれていて、専門以外の分野については大学時代に一通りの勉強をした事があっても、まぁ現場では使い物にならない程度の知識しかない人が圧倒的多数なんです。だから機内で心臓発作の急患が出ても、眼科、皮膚科、精神科…などのお医者さんは大抵何も対応ができません。この場合はWikipediaを使って緊急対応方法を検索した方が良い結果になると思われます。(最近って飛行機の中でもWifi使えるようになってますしね…(^_^)。)外科や内科であれば人口呼吸や心臓マッサージ、そしてAEDで心臓に電気ショックを与えて蘇生させるくらいはできるかもしれませんが、その程度であれば恐らくフライトアテンダントでもAEDの使い方の研修くらいは受けているでしょうから、お医者さんが登場したからと言って特に状況が良くなる訳でもないと思われます。海外ドラマのERとかで救急外来でどんな事をやっているかなどは結構知られるようになりましたが、現代の医者は設備や器具がなければほとんど何もできない…というのが正しいと思います。昔の町医者のように患者さんの脈をとって具合を診るなんて事はまずできません。現在は体の状態も医療機器を通じて数値化されたものを見ますし、手術はもちろんの事、血液の基本的な検査だって医療設備がない状態で診断する事はほぼ不可能になっています。という事は機内で急病人が出た場合に一番ラッキーなケースは機内にお医者さんが搭乗している事ではなく、救急隊の救命士が運良く搭乗していた…という事になりますね。(であっても機材や薬剤を持ち歩いている訳ではないから、できる事は本当に限定的です。)いずれにせよ、近代の医者の多くは患者さんを何もない状態で診察する事はできず、医療機器で得たデータを通じてしか診断ができないようになってしまっているという事です。その為患者さんの病状については、患者さんと向き合って触診したり問診したりせずに、もっぱら検査結果をパソコンの画面で見ながらこちらを向く事なく、一方的に診断してしまうというのが多くなりましたし、データを見て分からない時は「う…ん。特に悪いところは見当たらないし原因はよく分からないので、このまま少し様子を見ましょう…」とパソコンのモニターを見つめたまま言われて終わり…って事がよくあるのは、皆さんも大きな病院に行くと経験されるのではないでしょうか?



一方で町中の開業医の場合は、もっと愛想が良くて患者さんに人気の先生って、大きな病院に比べると多くいますね。特に最近ではネットで評判とか口コミを書かれる事が多いですし、やっぱり開業医は「お客さん商売」という面がありますから、患者と向き合うという事と愛想が良いという点ではかなり上です。ただしこれが難しいところなんですが、「愛想が良い=名医」であるという関係は全く成立しません。残念ながら私の経験だけで言わせてもらうと、逆であるケースの方が多いようです。優しくて患者さんと真摯に向き合ってくれる評判の良い開業医の先生って沢山いるのですが、残念ながら肝心の病気は一向に良くならない…でも人気がある先生だから患者さんも何年も通っている…というケースを皆様もご存知では?? これってなんか病院としては本末転倒なんですよね。ただ、その評判の良いお医者さんの名誉の為に言っておきますと、医師としての知見の差ではなく、大きな病院で使っている検査機器との性能の差が、医師個人の努力では埋められない差になっているのは事実です。なので、開業医の「患者と真摯に向き合う」という対応と、大きな病院での「詳細な検査」というのが組み合わせられる事が患者にとってはもっとも良いのですが、なかなか古い業界なのでそれがすんなりと融合されないようです。なので、医者である私が言うのもなんですが、皆様も自分の健康は自分で守っていくという気持ちを持って、医者を選んでいくようにしなければならないと思います。



さて、そんなこんなで困った状態だったのですが、私の場合は幸いにも大学の同級生や先輩・後輩はほぼ全員医者なので(医学部に行けば当たりまえか…(^_^))、後輩達を捕まえて色々とセカンドオピニオンを聞くという事ができます。ちょうど今年から年賀状をメールにしようと思っていたので、年賀メールついでに消化器内科や消化器外科の先輩や後輩、同級生などに経過を説明して痛みの原因と対処方法を聞いてみました。(消化器外科の先輩には「新春医療クイズ、難問です」って言われましたが…。)そうするとありがたい事に、いろんな人がいろいろな意見を寄せてくれました。その中でこれかも?と思ったのは、「腹直筋血腫」と「検査時の緊張による腹直筋のダメージ」。どちらも腹筋に力を入れようとすると痛いので、症状に合っています。そして「腹直筋血腫」は、それを疑ってCTを見ないと分かりづらいらしい。CTなどのデータはDVDでもらっていたので、それを放射線科にいる卓球部の後輩K君に頼んで再度読影してもらおうと思いつきました。K君は私の7学年下で、彼の現役時代はよく一緒にご飯に行ったりしてたし、クリニック通信第157回にも登場した可愛い後輩です。メールで連絡すると「CT画像、喜んで読影させていただきます。データお待ちしています!」と即返事がありました。DVDをPCに取り込んでギガファイル便で送るのにすごく時間がかかって大変でしたが、K君は速攻で読影してくれて、PCで画像を見ながら電話で詳しく説明してくれました。腹直筋血種というのは、腹直筋に血流を与える上下の腹壁動脈に何らかの損傷が加わり出血して起こるのですが、造影CTで腹壁動脈を辿っていってもどうやら出血はなさそうでした。くしゃみ程度で起こる事もあるとの事なので可能性はあると思ってたんですが、はずれだった…。残るは腹直筋の損傷、いわゆる「肉離れ」です。これはMRIなら写るけど、CTではよっぽど大きな筋断裂がない限り写らないとの事でしたが、痛みの特徴や経過から一番可能性が高いなぁという話になりました。確かに筋肉痛なら1週間以内に治るけど、筋線維が部分的に断裂する「肉離れ」を起こすと3-4週間はかなり痛くて、特に力を入れようとすると痛いので症状も合っているし、ちょうど検査後3週間位から痛みが少しずつましになってきたので経過にも合致します。まさか腹筋に肉離れが起こるとは思ってもみませんでしたが、情報を提供してくれた消化器内科の同級生T君に確認してみると「検査時の緊張による腹直筋のダメージ」は稀に起こるとの事でした。 整形のF君が心配してくれていたので経過を報告すると、「大腸ファイバーで肉離れとは、日頃かなりの運動不足ではないでしょうか」と言われました(^-^;)。トホホ…。よっぽど私の腹筋が弱かったんですかねぇ…。完治したら腹筋を鍛えねば! 週に2-3回は15回ずつくらい腹筋してたんですが、全然足らんかったって事ですね…。情けない筋力低下ぶりに反省しきり。M先生、心配かけてごめんね。

ところでK君は「先生、ついでに癌がないかも見ときましたー! 5mm以上のものはないんで、PETとか受けなくても大丈夫ですよ!」と言ってくれました。これでその方面は一安心。やはり持つべきものは後輩ですね。



という事で、最近はやっと回復基調になってきました。ふと思ったのですが、もし自分が飛行機の中にいて「急病人が発生しました。乗客の皆様の中にお医者様はいらっしゃいますか?」とアナウンスがあったら、手を上げるだろうか??…と。残念ながらもし手を上げたとしても先に書いた通り、そのような状況で私が実際にお役に立てる事はほとんどないのが現実だと思います。実際に今の自分の仕事では急病人を診るような事は全くなく、逆に体は健康である…という患者様が大半です。じゃ、今の自分は病気という事に対して全く役立たずになってしまったのか?とも考えたのですが、今回の自分のケースで「そうでもないな」と思い直しました。やはり何十年にもわたって医者の世界で生きてきましたので、同期や後輩など素晴らしい医者の人脈の中にいることができています。自分一人で解決できなくてもそのネットワークを通じて状況を改善させる事ができるので、一人の医者としてもまだやれる事があるはずだ…と思いました。先に書いた通り、普段の当院の患者様は比較的健康な方が多いです。しかし、何かの施術をするという事は薬を投入したり体に何らかの影響を与える訳ですから、それが原因で微妙なバランスが崩れてしまうというリスクと常に隣合わせにあります。美容やアンチエイジングのクリニックであっても、常にベースに「医療」としての知見を問われているという事を再度自覚しながら、今後も皆様のお役に立てるように邁進したいと思いますので、宜しくお願い致します。





bottom of page