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第221回「何でも程度の問題なんですね…」

こんにちは! 柴田エイジングケア・美容クリニックの柴田です。梅雨も明け夏本番。オリンピックも始まりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 私はと言えば…先日抗加齢医学会にWEB参加しました。抗加齢医学会というのは、well-being(幸せに生きる事)を実現する事を目標とし、健康長寿のための方法を研究する学会です。各分野のトップの研究者が集まるので見どころの多い学会ですが、今年は特に盛りだくさんの内容だったので、3日間パソコンを3台並べて朝から晩まで缶詰で講演を聴きました。実は今回の学会の学会長は、私の大学の3年先輩のN先生だったんです。N先生とは10年程前の抗加齢医学会で名刺交換をさせていただき、私が同じ大学の後輩で卓球部だった事を伝えると「おう、卓球部か! T(N先生と同期の卓球部の先輩)の後輩か!」と言われた事を覚えています。N先生の講演は内容が濃い上にユーモアたっぷりなので毎年楽しみにしていたんですが、今年はますますパワーアップ。なんと3日間で5つの講演と17もの座長(講演の司会のようなものですね)をこなされていました。N先生は消化器内科の准教授(昔の助教授の事ですね)をされていたんですが、なんと今年になって「生体免疫栄養学講座」という新しい教室を開設して教授に就任されたそうです。まだまだ新しい研究に取り組もうというその姿勢には感服しました。



N先生は長年腸内細菌の研究をされていてその権威なので、今年の抗加齢医学会はアンチエイジングにおける腸内細菌叢や食事の重要性を説く講演やシンポジウムが多く見られました。その他、アンチエイジングに対する運動やホルモンの重要性に関する講演や、時代に即した新型コロナウィルスに関する最新情報などが盛りだくさん。招待講演には比叡山延暦寺の大僧正を招くなど、多岐にわたる企画でとても充実した内容の学会でした。それらの一部を簡単に紹介しますね。

 近年、腸内細菌は健康状態や生活習慣病など様々な病気に関連する事が明らかにされていますが、腸内細菌と食事にはやはり密接な関連性があるようです。健康長寿者の割合が高い京都府京丹後地域では高齢者の腸内細菌叢の特徴として短鎖脂肪酸産生菌が多く、その地域の食文化が独特の腸内細菌叢を育んできた可能性があるとの事。食習慣が死亡リスクの低減と関連していると報告されている日本食と地中海食の摂取頻度と腸内細菌叢との関連を検討すると、日本食や地中海食の摂取頻度が高い群で短鎖脂肪酸産生菌の一種である酪酸産生菌が多く、摂取品目別に見ると日本食ではみそ汁や海藻、地中海食では野菜・果物、豆類の摂取量が多い群でこれらの酪酸産生菌が多かったそうです。日本食や地中海食の摂取頻度が高いと酪酸産生菌の増加と共に健康観も上昇する傾向にあるらしい。短鎖脂肪酸産生菌の増加には食物繊維が重要で、海藻・豆・葉野菜・根菜・芋・果物を摂ると良いとの事で、豆乳と野菜ジュースがお勧めだとか。(私も学会後は毎日豆乳と野菜ジュースを飲んでいます(^^;)。そのせいか、ますます体調良好です!)



「日本食と地中海食―どちらが世界の長寿食か」という講演もありました。それによると、世界の61地域で24時間採尿し、栄養のバイオマーカーを分析した結果、脳卒中の死亡率は食塩の摂取に比例し、心筋梗塞の死亡率は大豆イソフラボン・魚介類のタウリンに逆比例し、血液中のHDL(善玉コレステロール)以外のコレステロールに比例したそうです。そして、世界の長寿集団で心筋梗塞と脳卒中を抑制する栄養の摂取を検証したところ、日本人の心筋梗塞死亡率が先進国中最低で、平均寿命が世界のトップクラスであるのは大豆と魚の摂取によると言え、大豆と魚の摂取が多い群では動脈硬化を抑制するHDLが高く、認知症予防が期待される葉酸値も高かったとの事。世界健診した日本の6地域(J)と地中海にある6地域(M)の比較では、Jは肥満が明らかに少ないのが特色で、新型コロナの重症化による死亡率もJは明らかに低く、主要20ヵ国中のコロナによる死亡率と肥満率との間には有意の正相関があるので、感染症を含め健康寿命の延伸により大きく貢献するのはJである、という結論でした。その長寿に貢献する食事は「まごわやさしい」(豆・胡麻・わかめ・野菜・魚・椎茸・芋の頭文字)と表現され、それにヨーグルトを加えた「まごわやさしいよ」がお勧めだそうです。それらの長寿食は、腸内細菌叢を改善して健康に貢献するようです。さらに腸内細菌は、皮膚や呼吸器など他の臓器の免疫機能に影響を与え、花粉症や皮膚炎などにも関わっているとの事。腸内細菌と食生活って、健康長寿にはとても大切なんですね。それ以外にも新型コロナの予防や治療にビタミンⅮとⅭが有効だったという講演や、NMNやDHEA、オートファジーの有効性に関するデータを出した講演などがあり、色々と有益な情報を仕入れる事ができました。そんな中、整形外科時代の後輩で父のお通夜に駆けつけてくれたO君の講演を見つけてその成長に驚き、学会後に連絡を取ったりもしました。N先生にも学会後に連絡すると、学会レポートや写真と共に、NHKで放映されたという、織田裕二とN先生との腸内細菌についての対談番組のVTRまで送って下さったんです! なんていい先生なんだ! まだまだ頑張ると言われるN先生を見習って、私も頑張ろうと決意した次第です。



話は変わりますが、メトホルミンモニターも開始後2か月が経過しました。いろいろ苦労もしましたが、なかなか痩せなかった方もナチュラルホルモン補充療法を併用すると、体重が減ってきました。やっぱり代謝が悪かったんですね。しかし体重の減りが悪い人はいても、皆様お腹周りの脂肪は順調に落ちています。現時点で体重減少は平均4kgなのに、腹囲の減少はなんと平均7.6cm!中には10㎝以上減った方もおられるんです。腹囲の増加はメタボの前兆ですから、腹囲が減ったという事は内臓脂肪が落ちて健康的に痩せたという事ですよね。モニター中の最優秀賞はK様、54歳。元々158㎝49kgで、ダイエットは不要な感じだったので「ダイエット要ります?」とお聞きした位だったんですが「若い頃は43~44kgだったのでそれ位に戻りたいんです。Gパンがきつくなってきたので…」という事で、お腹周りは少し脂肪が付いていたので、モニターを開始しました。食事のメニュー表を付けてもらうと少し炭水化物が多かったんですが、ちょっとアドバイスすると炭水化物を減らして野菜に代えたり、食事の量を減らしたりしてくださるので食事指導はとっても楽で、すごく助かりました。(こういう方ばっかりだといいんですけどねぇ…。)お蔭で順調に体重もサイズも減って、体重は-6.6kg、腹囲はなんと-13cm! 見事に目標達成です。最初はウエストの位置が分かり難かったんですが、今はウエストがめちゃくびれて友達にも「痩せて綺麗になったね!」と言われるそうです。確かに最初に来られた時はきつかったGパンが緩くなり、スタイル抜群になられて「先生のお陰です!」と大喜びして下さいました。こんなに痩せたのに体調不良はなく、お肌の調子も悪くないとの事です。





優秀賞は当院の内装をお願いした会社の、人のいい社長Kさん(47歳)です。最初のうちは、たまに下痢や腹痛がありましたが今は落ち着き、177cm75kgから体重は-6.3kg、腹囲は-7cm。パンやご飯が大好きで、最初は炭水化物と脂ものをちょっと食べすぎでしたが、注意すると素直に減らしてくれたのと、筋肉量があって代謝が良いので効果が出やすかったんだと思います。お腹周りにかなり脂肪が付いていましたが今はすごくスッキリして、自分でも「お腹周りが全然違いますねぇ! 今年は細身のTシャツ着れるんちゃうか思て楽しみなんです。去年はピチピチで着られへんかったから…」と喜ばれていたところ、会社の知り合いの人にも「Kさん、痩せはりましたね~! 誰か分かりませんでしたわ!」と言われたとの事で上機嫌。「目尻のシワも減りましたよ。嫁にもシワ減ったなぁって言われるんですよ!」と、アンチエイジング効果もあったようです。




メトホルミンは、元々それ程食べ過ぎていない人や筋肉量があって代謝の良い人は、少し食事を減らすだけで通常のダイエットでは得られない腹囲減少効果があり、アンチエイジング効果も期待できると思われます。自分に必要な量よりもあまりにも食べ過ぎている人や、筋肉量がなくて代謝が極端に悪い人はだいぶ食事を減らさないと体重は減りにくいようですが、それでもお腹周りの脂肪はかなり落ちています。(ちなみに以前この通信に登場したラーメン炒飯の人も体重は-1.7kgでしたが腹囲は-5cm、代謝の悪い人も体重は-1.7kgでしたが腹囲は-6cmでした。)また当然の事ですが、健康的に痩せるための生活指導を素直に聞いて実行してくれる人は効果が出やすいのですが、なかなか実行できない人は効果も出にくいという事が分かりました。中には「何にも努力しなくても飲めば痩せるっていう夢のような薬はないのね」と言う人もいましたが、それはその通りです。健康的に痩せたければまずは生活習慣を見直して、健康的な食事や運動を取り入れる事が基本ですよね。お薬は恐ろしい糖尿病や心血管障害などの生活習慣病を予防し、アンチエイジングの手助けをするという役割ですから、薬さえ飲めば何を食べても飲んでもいい…なんて考えるのは本末転倒です。その辺を理解してもらうところから始めないといけないんだな…と改めて考えさせられたモニター試験でした。この経験を糧にしてさらに切磋琢磨し、well-beingの実現を目指して、健康長寿のための研究と情報提供を頑張っていこうと思います。


また本日は皆様にもう一つ耳寄りな情報をお伝えしたいと思います。今回参加した学会でも研究発表がされていました、今話題の糖尿病薬「SGLT2阻害薬」です。「はぁ? 何それ?」って思う方の方が多いと思いますが、糖尿病業界においては今とてもホットな薬なのです…(どんな業界やねん、と思われるでしょうけど、もう少し我慢してお付き合いください… (^^;) 。SGLT2阻害薬とは、腎臓での尿中の糖の再吸収を抑制し、血液中の余った糖を尿に排出させて血糖値を下げる薬剤です。メトホルミンのように痩せる効果もあると言われていますが、そのSGLT2阻害薬が抗加齢遺伝子サーチュインを活性化するという研究も発表されていました。メトホルミンとは作用機序の違う糖尿病薬ですが、メトホルミンのようにアンチエイジング効果もあるようですね。



…って聞いても、まだしっくりこないですよね?? それに「私は糖尿病じゃないし」と思っている方も多いと思います。でもそれは認識を改めていただく必要ありです。現在多くの医療関係者が「糖尿病」という呼称そのものが問題で、簡単に考えられてしまうので病名を変えるべきじゃないか…という議論もあるくらいです。そもそも人間が食事を摂ると血液中に糖分が増えるのは当たり前ですが、血中に糖が増えすぎると糖尿病という事になり、重症になると血中に増えすぎた糖が体内で吸収できずに尿にまで漏れ出てしまいます。問題は「糖尿病」という病名から「尿に糖が出る程でなければ病気でない」という認識になってしまっている事なのです。食後に血液中の糖が増えるのは当たり前ですが、問題はその「程度」です。そうなんです…何でも「程度」の問題であって、「適量」であればいいのですが、多くの場合「度を超えている」って事なんですね。お酒でも適量であれば健康に対する害はほぼありませんが、問題は「度を超えている」場合に起きます。しかも、血液中の糖が度を超えている場合でも、すぐに症状としては現れません。多くは血管壁を時間をかけてボロボロにしたり、内蔵疾患をゆっくり進めるなど時間をかけて進行します。そして、症状が出るレベルになると多くの場合は手遅れでして、一生完治しない人が多くなります。(つまり残りの人生は、ずっとその病気と付き合っていかなければなりません。)進行すると失明・腎不全・心筋梗塞・脳梗塞などの合併症を起こしたり、足の切断を要する事もある怖い病気ですが、初期には症状がないので進行しやすい厄介な病気なんです。



そしてここを強調しておかねばならないのが、現代社会で言われている生活習慣病(かつては成人病と呼ばれていましたね…)の原因の大半はこの血液中の糖が多すぎる事にあります。(簡単に言えば食べすぎです。量をそれほど食べていない人でも炭水化物や糖分を多く含む食事をしていれば、結果として糖分過多になりやすいのです。)さらに血液中に余分な糖があると、体内の蛋白質や脂質と結びついて老化促進物質であるAGE(糖化最終生成物)を作り出してしまい、細胞を劣化させてシワやシミなどとなって現れます。それだけでなく、AGEは動脈硬化や白内障、アルツハイマーなど多くの病気の原因となることが知られています。世の中で色々な生活習慣病対策やアンチエイジングに対する方法が提唱されていますが、基本のキ、一番最初に取り組むべき最初のステップとして「血液中の糖分を減らす事が重要」という事に異論を挟む研究者は、恐らくいないと思います。…これ以上理屈を語ると説明が多くなりますので、皆様はとにかく「生活習慣病の大半は血液中の糖が多すぎる事が原因であり、糖が多い事によって老化が進み、美容面から見ても良い事はない」と思っていただいて良いと思います。(勿論話を非常に単純化していますので、あくまでも原則です。)



さて、そこで「SGLT2阻害薬」の何が凄いかを説明しますね。血液中に糖が多すぎる場合でも健康な人はその糖を体外に捨てないようになっています。腎臓では一旦尿中に糖を排出しようとしますが、その後Step2で再び糖を吸収して血液に戻してしまうからです。恐らく、太古の世界では糖は人間の体にとって貴重品であり、体外に捨てる事などあり得ないという時代が数万年にわたり続いたので、体がそのように進化したのでしょう。しかし世の中は変化して、現在は血液中の糖が多くなってもそれを体外に捨てない事によって生活習慣病が発生しているのです。そこで「SGLT2阻害薬」なんですが、何を「阻害」するかと言うと、このStep2で糖を再び吸収して血液に戻すという処理を阻害するのです。そうすると糖が再吸収されないので、糖が尿から体外に捨てられるという訳です。何が凄いかお分かりいただけました? もう「ドラえもん」の4次元ポケットから出てくる位、凄い薬だと思いませんか? ご飯をお腹一杯食べると、腸で栄養を吸収して血液中の糖分濃度が急激に上がります。しかし、その吸収した糖分を尿中に分離して体外に捨ててくれる…という事なんです。実際に健常者がこの「SGLT2阻害薬」を飲んで尿の糖を計測すると糖尿病患者並みに糖が含まれているという結果になります。まぁ言い方は悪いのですが、「今まで食べた事をなかった事にしてくれる。しかも通常の栄養吸収は問題なく糖だけを狙って捨ててくれる」って事なんですね。そんな訳でダイエット目的で「SGLT2阻害薬」を入手しようとする人が増えてちょっと問題になっている位です。(あくまでも理屈だけで言えば通常のダイエットは食事そのものを減らしますので、食事内容に気をつけないと蛋白質やビタミンなどが不足する可能性もありますが、この糖だけを体外に捨てるという事が実現すれば、非常に健康的にダイエットができるという事になります。ただし、あくまでも理屈の上では…ですが。)私は、食生活を一切改善せずに暴飲暴食を続けて「SGLT2阻害薬」でリセットしようという考え方には賛同できませんが、アンチエイジングの一貫としてこの薬も活用し、結果としてダイエット効果も期待できるという事であれば、非常に良い選択肢ではないかと思っています。ただ難点は、「SGLT2阻害薬」は新しい薬なので副作用の報告が少ないのと、薬そのものが少し高価だという事ですね。それでも画期的な薬である事には変わりありませんので、これから当院でも使っていこうと思っています。これ以外にもアンチエイジングへの取り組みとして、色々な試みをしていく予定です。また通信やWEBで報告していきますので、楽しみにしていてくださいね!



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