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第146回 (2015年5月) 「ゴホンと言えば・・・どうします? 」



こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。

今年の春は、温かくなったと思ったらまた寒くなったりして、気温差が激しかったですね。体調を崩された方も多かったのではないでしょうか。皆様、今年はお花見に行かれましたか? 私はと言えば、母の看病疲れやいろいろな心労が重なったためか、3月半ばにひどい風邪をひいたのが長引き、1ヶ月以上咳や熱が続きました。おかげでお花見の日も体がだるく、早々に引き上げるハメに。例年ならプラセンタ点滴ですぐに治る事が多いのですが、いや・・・今年はホントに長引きました。そう言えば今年は私の周りにも結構風邪が長引いている人が多いような。「超忙しいけど体だけは元気で困るんだよねぇ」が口癖だった友人Mも今年は風邪をひいてしまったようで特に咳がひどく、数週間たっても咳が続いているようです。なんとなく「今年の風邪は長引くよねぇ。特に咳が続くなぁ・・・」って思っていたのですが、これって単なる思い込みなのか? 本当にそういう風邪が流行っているのか?ってちょっと気になってきました。私の周りでそんな人が多いって言ったってせいぜい数人だし、たまたまって事もありますよね。昔だったら「ま・・・そんな事考えたって仕方ないか・・・」で終わるところですが、今はインターネットの時代。何でも簡単に調べる事ができます。



でもどうやって「今年の風邪は咳がひどく長引く人が多い・・・」って事がわかるのかと言うと、2つのアプローチがあります。一つは公立病院や学校など情報を提供する側から、政府やしかるべき機関に報告が上ってくるというもの。これらの情報は一応権威ある機関が集計する訳ですから信頼性はあります。ただ難点は発表が遅い・・・。情報が集まってくるのにも時間がかかるのでしょうが、権威ある機関が出す情報が「やっぱり間違ってました!」という訳にもいかないので、集計や分析にそれなりの時間をかけます。なのでその手の機関から情報が発信される頃には、風邪の流行が収まっている事が多いですね。(インフルエンザやSARSのように感染が爆発的に広がるようなものは対策が後手にならないように、それなりに情報は早く出るようですが・・・。)もう一つのアプローチは口コミ。勿論、近所のスーパーに行って座談会している奥様に聞き込みするっていうような方法ではありません。最も信頼性の高い方法はTwitterとかBlogとかにアップされる情報を解析する方法です。例えばTwitterで「チキショウ! 今年の風邪はホントに治らねぇ!」とか「今年の風邪は咳がなかなか止まりません・・・グスン」みたいなつぶやきを集計して解析するのです。詳しい理屈は私も分かりませんが、今時のコンピューターは非常に大きなデータ解析ができるので、自然言語で記載された何百万というつぶやきをリアルタイムで解析する事ができるそうな・・・。この前テレビで誰かが言っていましたが、アメリカでは西海岸から「風邪をひいてしまった」というつぶやきをする人が徐々に東海岸に移っていく様子を解析し、あと何日すればニューヨークで風邪が流行するかという事を正確に予測する事ができるんだそうです。



ホントに凄い時代だと思いませんか? まさか何気ないネット上のつぶやきがこんな解析に使われているなんて思いもしないですよねぇ・・・。そう言えば、車の渋滞情報とか現在の雨の状態とかも、以前なら交通カメラの映像を分析したり人工衛星から撮影した雲の状態を分析したりしていたのですが、現在はそれに加えて実際に運転してる人のつぶやきや、ボランティアの雨の状態報告などをネットで集計して正確な情報を出しているそうです。私もほとんど一日中室内で仕事をするので外の天気が分かりません。以前は天気予報を見て傘を持って行くかどうか決めていましたが、この天気予報ってのが結構いい加減で、曇と予測されていても外に出たら雨が降っていた・・・って事ありますよね。私の場合は外を歩き回る事はほとんどないので「今降っているか、ちょっとそこまで出かけるのに傘が要るか」を知りたいのです。ところが最近はスマホのアプリに、本当に今そこで雨が降っているかを正確に教えてくれるものが出ていて私もびっくり。(これがかなり信頼性が高い・・・。)聞くところによると、このアプリは実際に街角を歩いている人たちからの天気報告を集計しているそうなので、お天気レーダーとか人工衛星の写真と違ってより細かくその場所の情報を出せるそうです。しかも人間の感覚で「この程度だったら傘は要らないくらい」というような感覚値まで集計対象になってるんだとか。なんか人工衛星のような規模の大きなテクノロジーが出現して科学万能のような時代の中で、実は普通の人たちの口コミってこのインターネット時代になるまできちんと把握できてなかったんだなぁ・・・って思うと不思議な感じがします。近年、二酸化炭素の排出量が多くなって地球が温暖化しているとか、フロンガスの排出によってオゾンホールが出現しているなど環境問題が重要視されるようになりましたが、これってよく考えてみると自然のつぶやき(嘆き?・・・叫びかな)をようやく把握できるようになったって事でしょうか?



おっと、地球の環境問題にまで発展すると私の方がついていけなくなりそうなので、ここでようやく本題に戻って、今年の風邪は本当に咳がひどくて長引くのか・・・です。結論は「正解!」でした。風邪には年によって流行の特徴があるようで、今年の風邪は咳がひどくなりやすく、長引くという特徴が本当にあるようです。それが分かったからと言って何ができる訳でもないのですが、少なくとも「こんなに咳が続くのはおかしい・・・何か別のもっと怖い病気になったのでは?」と疑心暗鬼になるタイプの人には安心感を与えてくれるかもしれませんね。(安心して検査に行かないのは別の問題ですが・・・。)そんなこんなで私も流行に取り残される事なく、長引く咳と戦う事になりました。勿論医療用の咳止め薬はあるのですが、副作用で便秘になるので、できれば使いたくないんですよね。そんな時、例の友人Mが「これ、めちゃくちゃ効くから」と「龍角散」を分けてくれました。「へぇ・・・龍角散ねぇ・・・」「ゴホンと言えば・・・龍角散」のCMはあまりにも有名で、日本人で知らない人はいないのではと思う位ですが、実際に飲んだ事はありませんでした。容器を見ると、恐らく50年位は変わってないようなデザイン。そして蓋を開けると粉が舞い上がって袖口が真っ白になる不便さ・・・。今時の感覚から言えば一般に販売する製品とは思えない、クラシックでレトロな製品です。まぁ値段も安いけど、これはちょっとねぇ・・・というのが正直な感想。そして半信半疑でその龍角散を飲んでみると・・・これまたまずい!! もうそのまずさといったら・・・「良薬口に苦し」とは言うものの、本当にまずいんですよねぇ。その粉が空中に舞うと独特の匂いがまた凄いんです。(飲まれた事ある方は分かると思いますが・・・。)でも、それを水などで飲まず、ゆっくり舌の上で溶かしながら喉の奥に運ぶ方がよく効くんだとか。しかしそうすると、まずくて死にそうになります。研究室で飲むと独特の匂いが研究室中に漂って、鼻のいいスタッフから非難轟々だし、しばらくして診察に行く時にも患者様に迷惑がかかりそうなのでマスクを付けると、マスクに匂いがこもって息が止まりそうに。先日私が疲れた時に(ほぼ毎日ですが)愛飲している「リポビタンD」と低カロリーの「リポDファイン」が同じ味だとコロコロS君が言うので「リポDファイン」を買ったらめちゃまずくて残ってたんですが、龍角散を飲んだ後だとそのまずいリポDファインが美味しく感じられるほどです。



しかし! その龍角散が、実際に効いたんですねぇ。龍角散を飲むと、あれだけ長く続いていた咳が治まるんです。何時間か経つとまた咳は出るんですが、龍角散を飲むと治まり、徐々に飲む回数が減っていきました。あまりのまずさに、体が拒否反応を起こして咳を鎮めたんではないかと思うほどの効き目です。少し咳が治まってきて元気になってきたので、ホワイトデーにニコライ・バーグマンのフレッシュフラワーボックスを贈ってくれたこの通信によく登場する東京のK氏に風邪のためお礼を言い忘れていた事を思い出し、久しぶりに電話してみました。お礼を言って世間話をしていると少し咳が出たので


K氏:「あらあら、風邪ですか? 気をつけてくださいね」

柴田:「これでもましになった方なんですよー。1ヶ月ぐらいひどい咳が続いて・・・。龍角散でましになったんですけど、あれってめちゃくちゃまずいですよね~」

K氏:「あら、そうなんですか。龍角散は飲んだ事ありませんけど、社長は仲良しですよ。もう8代目だったかな。龍角散ってそんなにまずいんですね。あ、それでのど飴やゼリー作ったのかな・・・」


さすがK氏。龍角散の社長もお知り合いですかぁ。(友達少ないはずだったんだけど・・・。)



あまりにも製品と効果のギャップがあるので興味を持ってまたネットで調べてみる事に・・・。

Wikipediaによると、なんと200年前からある薬なんですね~。少し引用すると、東北地方有数の武家であった佐竹藩(現在の秋田地方)代々の御典医であった藤井家の玄淵によって、藩薬として文政年間に創製されたらしい。2代目藤井玄信が蘭学を学び、漢方薬のベースに西洋生薬を取り入れて改良したんだとか。さらに、明治初期の著名な医者でもあった3代目藤井正亭治が、藩主である佐竹義堯侯の典医であった時、藩主の持病であった喘息を治すため長崎で蘭学を修めて帰藩。藩薬の龍角散を喘息の処方に改良し、龍角散の基礎を確立したとされています。徳川支配が終わると廃藩置県が施行され、藩薬であった龍角散は典医である藤井家に下賜され、君侯と共に江戸に進出した正亭治は明治4年に薬種御用商となり、下賜された龍角散を一般薬として販売し、桐箱に収められた龍角散はたちまち大ヒット商品になったとの事です。正亭治の長男得三郎は衛生試験所(東京大学薬学部の前身)に学んだ薬剤師で、ドイツ人技官ランガルトから製剤技術を学び、明治27年に龍角散の大きな特徴である細かい微粉末状の製剤を完成させました。これが現在の処方になったそうです。



龍角散の効能は「キキョウ・セネガなどの生薬サポニン成分が、衰えた喉の線毛運動を活発にして痰の排出を容易にし、セキを鎮める」とあります。そもそも咳というのは、肺や気道から空気を強制的に排出させるための、気管・喉頭・呼吸筋の反射的な収縮運動です。咳には痰を伴う咳と痰を伴わない咳があり、痰を伴う咳はウィルスや細菌を痰と共に排出するためのものなので、中枢性鎮咳剤で反射を抑えて無理に咳を止める事はしない方がいいんですよね。そういう痰を伴う咳は、痰を排出しやすくすれば軽減するので、龍角散の作用は理に適っていると思います。龍角散は喉の粘膜の線毛細胞に直接作用するので、水で飲まずにゆっくり溶かす方が効果があるんですね。株式会社「龍角散」は、錠剤や散剤、トローチなど龍角散を冠した数多くの商品を開発していますが、龍角散の「通」に言わせると、やはり古くからある粉の「龍角散」が一番効くんだとか。しかし、200年も日本人の喉を守ってきたって、すごいですよね~。ただ、いろいろと調べると単に古くからある薬の会社として現状に安住していた訳でもないらしい・・・。ちょっと長くなるのですが、もう少し引用します。



K氏と仲良しの龍角散8代目の現社長は、父親から会社を引き継いだ時、売り上げは落ち、負債は40億円に達していたそうです。そして何よりも社員の危機感の無さに愕然としたらしい。「オーナーが何とかしてくれるだろうという甘えや油断しかなかった。ある程度知名度がある古い企業の弊害が顕著に出ていた」との事。役員の腰も重く、元薬剤師の女性社員が介護施設で多量の薬を飲み込めない高齢者が多い事を知り、飲み込みを補助するゼリーを提案しても「売れるかどうか分からない」とあっさり役員会で否決されたそうな。しかし、その社員に連れられ介護施設を訪れた現社長は、おかゆに薬をかけて無理やり飲み込む高齢者の姿を見て「儲かるかどうかではない。喉を守る会社として何をするかだ」と、反対を押し切り製品化したらしい。それが今では「らくらく服薬ゼリー」や子供用の「おくすり飲めたね」といったシリーズ化を果たし、看板商品に育っています。改革を怠らない気概が組織に欠けていた、という事です。コンビニでよく見かけるようになった「のどすっきり飴」に関しても、現社長は2011年、発売1週間後に早くも改良版の開発に取りかかったそうな。お客様相談室に「ミント味がきつい」という苦情が1件あったからとの事。12年にマイルドなミルク味を発売するなど改革を重ねた結果、「のどすっきり飴」の売り上げは2年後に4倍以上になったそうです。そうして財務体質の改善にメドがたち、全体の売上高は約70億円と就任当時から7割増え、「『龍角散』があるから大丈夫」との安穏とした思いは社内にはなくなり、社員は自らが動くことの重要さを再認識した・・・。って事です。そりゃそうでしょうねぇ。今の時代、いくら昔からの看板商品があるからって、生き残るのはそれだけでは無理だと思いますね。やっぱり守るべきは守って、新しく挑戦すべき事はしている訳ですな。インターネットで何百万というつぶやきを分析して地球規模での感染症の流行傾向などを研究しているかと思えば、200年前から存在する伝統薬が未だに一番効果のある薬だったりする・・・このアンバランスが現代の面白さなのかもしれません。私も温故知新(古きに温ねて(たずねて)新しきを知る)・・・って事を再認識して、これからの研究に励んでいきたいと思います。



話は全然違いますが、この「ゴホンと言えば龍角散」ってコピー、素晴らしくないですか? 子供の頃に聞いたキャッチフレーズを、一度も製品を使った事がないにも関わらず、ずっと覚えているって凄い事だと思うんですよね。(当時、お笑い番組の殿堂「笑点」のメインスポンサーだったという影響は大きいが・・・^^;)こんなにシンプルで分かりやすく製品を覚えてもらうコピー考える人って凄いな・・・と思います。(以前、大阪の地下鉄で「痴漢あかん!」のポスターを見た時もキャッチコピーの威力を痛感しました。ただそれで本当に効果があったかどうかは知りませんが・・・。)私も一度聞いたら忘れないようなクリニックのキャッチコピーはないか・・・と必至に考えましたが、残念ながらこの手の才能は私にはないようで、全く思いつかない・・・。かっこいいなぁ・・・こんな事言えたらいいなぁ・・・と思うのは、サントリーウイスキー山崎のCMで「何も足さない、何も引かない」ってやつ。自分は不器用なんで、世の中で流行っている新しいやり方を真似て混ぜ物をして味を整えたりする事はできないけど、ひたすら良い材料と良い水を使い、伝統的な作り方にこだわって当たり前の事を当たり前にしていくだけです・・・っていう、謙虚でいながら絶対の自信を持っている職人さんの思いがこの短い文章から伝わってきます。う・・・ん。かっこいい! 誰かそんなコピーを当院の為に考えてもらえないでしょうか?? やっぱり私には、愚直に「柴田美容皮膚科クリニック・・・シミ・シワ・たるみ研究所」(・・・ってそのまんまやん! )・・・ってのが自分らしいのかもしれませんねぇ・・・^^;)。「座布団一枚!」どころか、「おおぃ! 座布団全部持って行ってくれ!」って感じなんですが、これからも愚直に研究に励みます!


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