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第145回 (2015年4月) 「PRPってこれからどうなるの?」



こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。ようやく暖かくなり、春の到来を感じるようになりましたね。4月はいろいろな意味で新しい事の始まりの時期です。それと同時に、以前のクリニック通信でも書きましたが、人間が感じるストレスが一番高くなる時期でもあります。この変化の時期には体調を崩されないように、皆様も上手にストレス・コントロールをしてくださいね。


日本では学校やお役所、そして比較的大きな企業のほとんどは新年度が4月から始まります。よって予算の実施の関係から、新しい法律の施行とか制度が変わるという事は、4月からが多いです。制度が変わると言えば、当院で人気治療の一つであるPRPに対して、新たな法律ができました。「再生医療新法」というものなんですが、その法律によって今後かなり規制がかかってしまい、一言で言えばPRPは「めっちゃ面倒な治療」になりそうです。再生医療と言えば皆様ご存知の、日本が誇るノーベル賞学者山中先生率いるiPS細胞があまりにも有名ですが、それに輪をかけて、元理研の研究者でリケジョブームを巻き起こした小保方さんのSTAP細胞が一世を風靡しました。(STAP細胞のその後はこれまた皆様ご存知の通りですが・・・。)そのような派手な話題が多い世界ですので、多くの研究機関や企業が再生医療の分野に注目しており、よく訳が分からない製造法での特許出願や怪しげな治療方法の提唱などが続出し、まさに再生医療バブル・・・もしくは再生医療戦国時代とでも言うべきか・・・まぁ、カオス状態なんですね。そんな状況の中で、このまま放置してたらロクな事にならんぞ・・・という事をお役所の皆さんが考えて、一定の規制を加えようとしたのが「再生医療新法」です。


S様の場合、元の血液の血小板濃度から、最終的に試験管に残す血漿の量は0.6ccくらいで最適の血小板濃度(当院では220万/μLを目標にしています)に近づくはずだという事が今までのデータから推測されていました。しかし前回のPRP注入療法の際、0.6cc血漿を残したのでは通常よりPRPの血小板濃度がやや低く、180万/μLにしかならなかったので、今回は残す血漿の量を0.5ccにして検査用のPRPを作製し、血小板濃度を測定しました。前回より残す血漿の量を減らしたので、今回のPRPの血小板濃度は前回の180万/μLより高くなるはずだったんですが、実際に血小板濃度を測るとと135万/μLにしかならなかったのです。「あれ?なんでこんなに低いん?」もちろん多少の誤差は出ますが、同じ人でこれだけの差が出るのはおかしい。「もう1回測ってみようか」検査用の試験管の血液は使ってしまったので、実際に注入するPRP用の試験管で残す血漿の量を0.3ccにしてPRPを作製し、血小板濃度を測ってみました。残す血漿の量が0.5ccでPRPの血小板濃度が135万/μLというのが正しければ、残す血漿の量を0.3ccにすればPRPの血小板濃度は225万/μLになるはずです。しかし実際には、101万/μLと、さらに低くなってしまったんです!



「何が起こったん??」

いつもPRPの作製は主にコロコロS君としていたのですが、最近は優秀な中国の留学生、怪力Rちゃんも参加しています。その3人で頭を抱えてしまいました。そこでコロコロS君が「なんかおかしいですね。顕微鏡で見てみましょうか?」現在当院では、PRPの血小板濃度は「血球計数機」という機械で測っています。この機械は簡単に言うと顕微鏡で拡大した写真に写った単位面積あたりの血小板の数を自動的に数えてくれる機械です。最近はスマホでも指紋認証とかあるくらいだから、映像解析の技術を以ってすれば血小板をコンピュータが数えるなんてお茶の子さいさいなのかもしれませんが、便利になったものです。この機械を導入するまではコロコロS君が顕微鏡で実際にPRPの血小板を見て、カウンターで数えて血小板濃度を測定していたんですから・・・。

さて、コロコロS君が久々に顕微鏡を引っ張り出して血小板を見てみると・・・


「先生、血小板が凝集しています!」


顕微鏡を覗いてみると、なんと血小板が塊になっているではありませんか。血小板は元々くっつき易い性質を持っていて、血液は時間が経つと固まってしまうので、PRPを作製する時はクエン酸ナトリウムなどの「抗凝固剤」を血液に混ぜるのですが、どうもS様の血小板は普通の人の血小板よりもくっつき易かったようです。血球計数機では塊は一つと数えてしまうので、PRPの血小板濃度が低く出てしまってたんですね。(なんだ・・・コンピュータの映像解析技術もこの程度なん? やっぱり人間って凄いんですね。ま・・・考えてみれば、人間は双子の兄弟の顔を見れば双子だって大抵分かりますが、コンピュータの顔認証とかだったらまず無理でしょうね。改めて人間の奥深さに敬服です・・・。)



原因は解明したものの、さてどうしたものか。今からPRPを作り直すには、血液も時間も足りません。考えた挙句、最初に作製した検査用のPRPに抗凝固剤を加えて攪拌してみました。何回も攪拌するのは結構力が要るので途中から怪力Rちゃんに混ぜてもらい、再度血小板濃度を測定すると、予定通りの220万/μLに!! ミクロの世界でもRちゃんの怪力は通用したのでした! ・・・しかし、いつもと違う作り方をしたので、もう1本のPRPを作製する時の計算方法が非常に難しくなってしまいました。通常は検査用のPRPの血小板濃度から注入用のPRPの血小板濃度を計算して残す血漿の量を決めるのですが、抗凝固剤を混ぜたりしたので正確に計算できません。どうしよう・・・? しかし3人寄れば文殊の智恵。「さっきと同じように作ればいいんじゃないんですか?」コロコロS君の発案で、血漿残量を0.5ccにして血小板濃度を測定し、測定した残りのPRPに抗凝固剤を0.15cc加えて攪拌し、さらに血小板濃度を測定。ここでも怪力Rちゃんが活躍! そうして無事に220万/μLの血小板濃度のPRPを2本分作製する事ができました。



お蔭で3人の昼休みはほとんどなくなってしまいましたが、優しいNちゃんがサンドイッチとコーヒーを買って来てくれて、5分で昼食。S様には「今回はちょっとハプニングがあってPRPを作り直したりしたので、前回よりも効果が出にくいかもしれません」とお断りしたのですが、無事注入が済み、術後診察に来ていただいた時には「すぐに効果出ましたよ!」と言っていただいて一安心。ご満足で海外にお帰りいただく事ができました! 今回のハプニングでは最初はどうしたものかと頭を抱えましたが、みんなであれこれ考えて乗り切る事ができると、時間や手間がかかっても、とても達成感があるんですよね。私だって筋金入りのリケジョなんだから。今度、割烹着来て診察するか・・・。それは冗談としても、最終的に患者様に喜んでいただけると感動もひとしおです。研究室を作って良かったなあと、しみじみ思えた出来事でした。それと同時に、やっぱりPRPはまだまだ研究の余地もあるし、続けていかないといけないな・・・と思った瞬間でもありました。


先に申し上げた通りPRPは再生医療に分類されるものなので、今後は治療申請などが大変な手間になると思われます。面倒な申請をしてまでPRPを続けようとするには、かなりの真面目さと熱意がなければできないかもしれませんね。倫理委員会の設立には医師の他に法律家なども必要なので前途多難ではありますが、当院は一応PRPを続ける方向で申請に向けて何をどうすべきかを検討中です。京大再生医科学研究所のT先生(T先生について詳しくはクリニック通信第120回・133回をご覧ください)にもお話を伺い、共同研究も進める方向に向かっていますので、また経過をご報告しますね。困難は乗り越えるほどやりがいがあるものなので、頑張ろうと思っています。皆様も応援してくださいね!


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