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第142回(2015年1月) 「2014年流行語大賞!!」



明けましておめでとうございます。昨年は皆様には大変お世話になり、誠にありがとうございました。今年も皆様のお役に立てるように頑張りますので、何卒宜しくお願い申し上げます。


あっと言う間に2014年が終わり、もう2015年ですね。・・・って言いながら実際にこの通信の原稿を書いているのは2014年12月中旬なんで、めちゃめちゃ忙しくてお正月気分なんて、全然まだまだ・・・なんです。なんとか気分を出そうと思ったんだけど、やっぱり無理。それもそのはず、だってまだクリスマスも来ていないのですから、街中がクリスマス一色の時にお正月気分になれる訳ないですよね。(ただ、25日を過ぎると一気にお正月モードに切り替わります。この変わり身の早さと言うか節操の無さが、誰がなんと言っても日本人の良さなんだと思います。)



さて、そんな訳で普通であれば2015年のお節料理の話でもしたいところですが、それもかなわず・・・。今回の通信は「2014年の流行語大賞!!」って事にしたいと思います。 今年は東京での学会が多かった事もあり、東京で美容クリニックの「潜入調査」を何回か行いました。先々月にも潜入調査の話を書きましたが、今月はその中でもとびっきりユニークなクリニックをご紹介したいと思います。そこはヒアルロン酸注入で超有名なTクリニック・アンチエイジングセンターです。美容雑誌でも「ベストクリニック」に3年連続で選ばれたとかで、3週間前でも予約がいっぱいだったんですが、キャンセル待ちをかけていたらキャンセルが出てラッキー。キャンセルっていうのは絶対出ますよね。当院でも12月は予約が超取りづらくご迷惑をおかけしましたが、キャンセル待ちをかけていただくとキャンセルは結構出るものなので、皆様ご希望の日時がいっぱいでも、ぜひキャンセル待ちをおかけください。諦めず、予定を入れずにお待ちいただくと、かなりの確率でご希望の日時の予約が取れるはずです。(・・・と、いきなり宣伝モード。失礼しました・・・。)



ちなみにTクリニックは2日前以降のキャンセルはキャンセル料が5000円でしたが・・・^^;)。Tクリニックはビルの2~4Fを占拠していて、3Fはヒアルロン酸注入専用フロアとかなり大規模。内装は白の大理石で統一、クラシックがかかっていてセレブでバブリーな雰囲気満載です。スタッフの制服も白。芸能人もよく出入りしているクリニックらしく、セレブと一般人の扱いが違うという噂もちらほら。極めつけは問診票です。なんと問診票に予算を書く欄があるのです。「15万円以内・30万円以内・必要であればいくらでも」のどれかに丸をつけるようになっています。(ブラックジャックでもここまで露骨ではないような気がしますが、考えようによっては初めから予算を提示してもらえるというのは、サービスを提供する側にとってはやりやすい面もあるかもしれませんね・・・。) 私は思わず30万円以内に丸をつけたんですが、このクリニックは口コミで若い人たちには「院長がめちゃ無愛想」「説明もほとんどない」「さっさと帰れという感じだった」とか結構ボロクソに書かれていたので、(しまった。30万円以内なんて書いたら横柄に対応されるかも。ここは「必要であればいくらでも」に丸をつけて相手の出方を見るべきだった・・・)と思ったけど、後悔先に立たず。


ずらっと並ぶ個室の一室に案内され、まずはスタッフがヒアルロン酸注入の症例写真を早口で説明しながら次々と見せてくれます。「うちの院長はすごく上手に注入するので、仕上がりが自然で綺麗なんですよ~」と大絶賛。何種類ものヒアルロン酸を使い分けるのだとか。確かに綺麗に注入された写真がたくさんある。気になるところを聞いてくれたので頬のコケとマリオネットラインと答えましたが、「一応、院長に伝えますね」(この「一応」の意味を後で知る事になる)。「唇もふっくらしますよ」と症例写真を見せてくれたスタッフの唇が綺麗なタラコ型だったので、さすがヒアルロン酸注入専用フロアのスタッフはハウスマヌカンならぬハウスクランケなのだなと感心し、「院長はあなたにも綺麗に入れられてますね・・・」とお世辞の一つも言ったつもりだったんですが、「いえ・・・これは元々なんです・・・」と暫く沈黙。て、天然か。す・・・すいません。早とちりでした。



だいぶ待たされてから院長の診察。院長はグレーのオペ着(襟にクマちゃんの刺しゅう入り。勿論、クマちゃんは全然似合ってない・・・。)マスクをしてるとかなりイケてるが、マスクを取ると・・・微妙・・・。まあしかし話し方を聞くと、自分は超イケてると思ってるに違いないナルシストの雰囲気。これから院長との会話になるのですが、ここからが重要です! まず私の言う通りに皆様の想像力を最大限引き出して、最初に「田村正和」をしっかりイメージしてください。(田村正和を知らない若い方はYoutubeで彼の映像を見る事をお勧めします。)彼の声を思い出しました? その声でもってお笑い芸人の狩野英孝(彼を知らない人はGoogleで「自称イケメン芸人」で検索すれば出てきます)が石原裕次郎(流石にこの人は老若男女問わず知ってません? あれ? 私が古い?)の銀座の恋の物語(いわゆる銀恋です)を真似して歌っているところを想像するのです。いいですか? 想像できました? その声色で院長との会話がスタートします。(う・・・ん。その場にいればすぐに分かる事なのに文章で伝えようとするとここまでハチャメチャになるものなのか・・・)ただし、会話と言っても・・・「しばらく一方的に喋らせてください。いろいろ言いたい事はあるだろうけど、ちょっとだけ我慢ね」・・・と、人差し指を口に当てて「シィ・・・!」と言うジェスチャー。バブリーな内装と独自のナルシスト路線で催眠術のようなT院長ワールドに引きずり込んでいく訳ですね。



話を要約すると、老けると脂肪が落ちてきて骨がごつごつしてくる。それを目立たないようにふっくらさせると若く見えるんだという事を一方的に熱弁。普通のクリニックでは問診票の気になるところを中心にお勧めの治療の説明があるんですが、気になるところなんて聞いてくれるどころか全く無視。聞く隙も与えずに喋り続け、「どこがどうなると老けて見えるか」を手で口元の部分を押さえて実演してくれる。「ちょっと鏡見て。ここをこう押えると、老けて見えるでしょ? そこをふっくらさせると若く見えるんだよね・・・(彼には東京弁が異常に似合う・・・)」 法令線の下部から上唇の上の外側がへこむと老けるという説らしい。「そこにヒアルロン酸を入れると、こんな感じになるんだよね・・・」 上唇外側の裏、歯茎の上に小さく切ったガーゼを少しずつピンセットで入れて「ほら、見てみて・・・」 ふ~ん。まぁ確かに少し若く見える。「どう? 解っていただけたかなぁ? ボクから見たらそこをふっくらさせるのが一番すぐに若く見える方法だな。頬とこめかみも入れてもいいけど、二の次だね。そこに、入れてみちゃう? 2本くらいでいけると思うけどね・・・」 ここのヒアルロン酸は1本12万円(お値段もさすがバブリー!)なので、予算も考えてくれたのかも。「はい、お願いします」 誰もがそう言ってしまいそうな流れである。それからやっと質問が許される雰囲気に。(ちなみに、このクリニックでヒアルロン酸注入をするとみんな同じ顔になるという噂も聞きました。院長の好みの顔にされてしまうんだとか・・・。)



よし!・・・と、ここから私の必死の抵抗が始まります。 「あ・・・あのぉ。 ヒアルロン酸注入で血管が詰まる事があるって聞いたんですけど・・・」

「絶対にないとは言えないけど、ほぼほぼないよね。動脈を避ければ。例えば、法令線のここを触ってみて。拍動してるでしょ? ここに動脈があるんだけど、ここに動脈があるって事を知らない医者も山ほどいるんだよねぇ。そんな奴らがここに注入すると血管が詰まって鼻が黒くなったりするんだよね。美容外科では手術がメインで、やっぱり注射は格下って見られてます。だから注射ばっかりしてる医者って少ないんですよ。ボクはヒアルロン酸注入ばっかり15年以上してるから、腕が違うんだよね。腕が・・・(ここで狩野英孝のOKって言う時の表情)」 うむ。それはそうかも。・・・しかし相当な自信。普通自分ではここまで言わんと思うけど・・・^^;)。


「先生はPRPやFGFは使われないんですか?」 「うーん・・・。PRPやFGFは膨らみ過ぎたら溶かせないからねぇ。ヒアルロン酸は溶かせるから。入れ過ぎたり気に入らなかったら溶かせるからいいんだよね・・・」

まあ、それはごもっともだと思います。少し好感を持ててきた感じ。だからPRPやFGFは慎重に計算しないといけないんですよね・・・。「再生医療とヒアルロン酸注入は盛り上げるという意味では一緒で、PRPやFGFで肌がきめ細かくなったりはしないしね」 いやいや。PRPやFGFは肌そのものが再生して若返るからいいんじゃないですか。実際にちりめんジワがなくなったり、肌がキメ細かくなったりするよ~。私の柴田式PRPをした左手としてない右手のキメの違いを見せてあげたい! この人は再生医療の事は何も知らないのでは・・・とさっきの好感度がまたダウン。まあ再生医療してないから仕方ないか。「一度自分で試してみたいとは思ってるんだけどなかなかできなくて・・・」 これは正直だと思いました。新しい事ってなかなかできないですもんね。それに3週間前から予約がいっぱいのクリニックですから、それは忙しいでしょうし。

「再生医療って、新しい打ち出しにはできるでしょ? この業界に入って間もない人はヒアルロン酸注入なんかの技術では売れないから、新しいものは売りやすいんでしょう。今ある美容クリニックって、ほとんどができて5年以内なんだよね。ヒアルロン酸注入の技術って、やっぱり年季がいるからね。このボクだって、初期の頃と今では違うから・・・」 ま・・・それもごもっともだと思います。



「痛いですか? 前にヒアルロン酸を入れた時、先の丸い針を使われたらめちゃくちゃ痛かったんですけど・・・」

「そんなに痛くないと思うよ。注射の麻酔もするから。・・・ヒアルロン酸を頬骨の上に入れたんだね?」

と問診票を見て。9月に東京に潜入調査に行った際にMクリニックで受けたんですが、その前日にヒアルロン酸注入の講習会でブラジルのディマイオという有名な先生が講演していた、頬骨を高くして顎を出すとハートシェイプになって若く見えるという方法です。

「ボクは頬骨上に入れるやり方は好きじゃないんだよね。顔が大きく見えてしまうんだよ。ブラジルのディマイオって先生がやってる方法で、今流行りなんだけど・・・」 と私の顔をしげしげと見て・・・ 「これ、溶かしたいよね・・・。左の目の下にも入ってるでしょ。溶かした方がいいよ」 「そのうち吸収されないんですか?」

「ヒアルロン酸って、5年、10年は余裕で残るからね・・・」

そうそう、私もそう思ってました。世間では半年から1年で吸収されると言われていますが、8年前にヒアルロン酸で目の下が膨らんだという患者さんでヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸溶解注射)を打ったらすぐにへこんだ人もいたし、何年もヒアルロン酸が残ってる人を時々見ますもん。 「あ、あの・・・今日は時間があまりないので・・・」 この日はその後K氏と食事をして最終の新幹線で神戸に帰る予定でした。予約の電話の時に「滞在時間は3時間はみてください」と言われたので、ギリギリです。

「じゃあ、溶かしたくなったらまた言ってください。・・・そう言えばこの間、講習会でディマイオと仲良くなってね。『お前も俺と一緒に世界中でヒアルロン酸注入を教えて周らないか』って講師に誘われたんだけど・・・なんで俺の技術をタダで教えなきゃなんねえんだよ、って・・・。そんな事する時間があれば、寝てた方がましだよ・・・って・・・言いたいけど、言えないよねぇ・・・」 (皆様、ここで忘れかけてた想像力をもう一度、絞り出してくださいね。「言いたいけど・・・言えないよねぇ・・・」って言うシーンは、田村正和の声で狩野英孝が石原裕次郎の真似をして汽笛のなる港の船をボーっと見つめて言っている感じです。う・・・ん。この感じをライブのように皆様にお伝えしたいんだけど・・・難しい!)



・・・と言い残して院長は去って行き、その後スタッフから同意書の説明などがある。かなり待たされて時間がやばくなってきたので、説明をさえぎって「もう全部読みました」とサイン。必死でせかして注入に持ち込みました。麻酔は神経ブロック(神経に近いところに麻酔を注射して、その神経が支配する皮膚の領域に麻酔を効かせる方法)です。口の中から注射するので麻酔の注射もあまり痛くなく、麻酔もよく効きました。これはいいかも。ヒアルロン酸は、皮膚の深いところには硬いもの、浅いところには柔らかいものを使うそうです。鏡を持たされましたが、「院長が『見ていいよ』と言ってから見てくださいね」と何回も念を押され、打ってるところは見られなかった。残念。何回かちくっとして、注入終了。「さあ、見ていいよ。どう? 若くなったでしょ?」うむ。確かに上唇の上外側はいい感じ。でも法令線のちょっと下まで入ってるのは若干入れ過ぎじゃない? と思ったけど時間オーバーで文句を言う暇もなく、慌てて帰るはめに。結局K氏を1時間以上待たせてしまう事になり、イタリアンを1時間で慌ただしく食べて、最終の新幹線に駆け込み乗車でやっと神戸にたどり着きました。



しかし、もし入れ過ぎだって言ったらその場で溶かしてくれたのかなぁ? まあ自分で溶かしたらいいやって思ってたんですが、帰ってからヒアルロン酸溶解注射のアレルギーテストをしたら陽性に! がびーーーん! 赤く腫れて1週間以上赤みが引かず、おまけに押さえたら痛い。こらあかん。アレルギーの出にくいと言われている別のヒアルロン酸溶解注射の薬を取り寄せなくっちゃ。


・・・という顛末になってしまったけど、まぁ・・・面白かったなぁ。 何と言っても、「・・・って・・・言いたいけど、言えないよねぇ・・・」(ニヒルな口調を音声でお伝えできなくて残念! 友人との間では2014年の流行語大賞に決定! 何かある度に「・・・って・・・言いたいけど、言えないよねぇ・・・」を連発するようになってしまいました・・・(^^)。)


ナルシストの自信家院長は確かにヒアルロン酸注入の腕はいいと思いますし、一つの道を極めるのは素晴らしいと思います。でも私はやっぱり新しい事に次々挑戦して、より良い治療を探し求めて行きたいなぁ。今年も新しい治療の研究開発を頑張ろう! と決意を新たにしたのでした。


え? 恒例の2015年の抱負ですか?「2015年は、世界中の皆さんを美容医療を使って幸せにしたい!」・・・って・・・言いたいけど、言えないよねぇ・・・(^^)。

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