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第126回  (2013年09月) 「ミッション・インポッシブル・・・怪しげなクリニックからの生還 」



こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。まだまだ日中は暑い日が続いていますね。本当に体調管理が難しい季節です。皆様は夏バテなどされてませんでしょうか? 夏バテ予防と言えば、日本ではうなぎを食べるというのが古くからあった習慣だったのですが、昨今はうなぎの乱獲から価格が急騰しているというニュースをよく見かけるようになりました。一説によるとあと何年かするともう庶民はうなぎを食べられなくなるのだとか・・・。鯨肉のように「昔は小学校の給食に出るくらい普通に食べていたのにねぇ」ってな事になるのかもしれませんね。それにしてもこれだけ科学が発達して、深さ何千メートルもの深海のドロを採取してそこにはレアアースが100年分含まれている・・・なんて調査ができる時代に「うなぎの生態が良く分かってないから人口孵化ができない」っていう事が不思議ですよね。つい最近まで「日本うなぎ」はいつどこで卵を産んで稚魚は何を食べて大きくなって、どうやって日本に戻ってくるかが全く分かっていなかったそうです。ただ最近の粘り強い調査で、「どうも産卵はマリアナ諸島沖の海らしく、産卵から孵化までわずか1日半しかないので、天然の受精卵を見つける事は極めて難しい」という事が分かってきたそうです。


・・・って、すいません。この辺はすべてネット情報の受け売りですので、もしご興味ある方はご自身でこの続きはお調べいただくとして、このお話は「色々な調査や研究は常に続けていかねばならないし、続けていけばいつか花開く時が来る」って自分に言い聞かせているという事につながる話の「枕」でした・・・^^;)。



ちょっと無理のある枕から本題なんですが、そんな事で私も研究室での研究だけでなく、世の中でどのような治療が行われているのかという情報収集や、クリニックのサービス向上という目的の為、他院に患者として出向く潜入調査を行っています。数ヶ月前のクリニック通信でその潜入調査の一部を書いたところかなり多くの反響があり、シリーズ化して欲しい!!・・・というご要望もいただきましたので、今回も潜入調査のご報告をしようと思います。題して「ミッション・インポッシブル・・・怪しげなクリニックからの生還」!


今回の潜入調査の対象はメソセラピーです。メソセラピーとは脂肪溶解注射とも言い、皮下脂肪に薬剤を注射する事で脂肪が吸収されやすい状態を作り出す一種の部分痩せ方法です。ダイエットをすると確かに痩せるのですが、胸など落ちて欲しくない部位の脂肪は容易に落ちるのに、下腹や二の腕など落ちて欲しい部分はなかなか落ちない・・・って経験ありますよね。メソセラピーでは落ちて欲しい部分の脂肪に薬剤を注入しておく事でその部分の脂肪から消費されるようにする訳です。なので一般的な食事制限や運動によるダイエットと併用する事で最も効果を出せる方法になります。



まずはホームページを熟読し、いくつかクリニックをピックアップして電話で問い合わせをしてみました。「痛いですか?」「何箇所くらい刺すんですか?」「何日くらい腫れますか?」「1回でどれくらい効果がありますか?」などなど聞いてみましたが、なかなか受付で的確に答えてくれるところはありません。おそらく受付の電話対応をする人は電話対応の仕事しかしていないので、マニュアル通りの受け答えはできても実際の治療内容とか状態は分からないのでしょうね。手前味噌で恐縮ですが、この点はうちのスタッフは施術にも付くので内容も解かっているし、電話でも患者様の聞きたい事にかなり的確な答えが出せてるのではないかと思いました・・・(^^)。


潜入調査は匿名で行わねば本当の治療の実態が分からないので、慎重に身元を隠して行うスパイ活動です。時としてそんなスパイも身の危険にさらされる事があります。「今回の調査対象はメソセラピーである。ただし例によって君もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。成功を祈る。なおこのテープは自動的に消滅する」(ここでミッション・インポッシブルのテーマソング♪♪)まぁ・・・死ぬことはないにしても、実際に現地に行くとやっぱり緊張します。別に悪い事をしている訳ではないと思うんですが、身元は隠すので何か後ろめたい気もするし・・・。受付でジロジロと見られた時は「あ・・・バレたか?」って妙にヒヤリとする事も・・・。 実際にいくつかのクリニックに行ったのですが、今回は実際に「ヤバかった」クリニックについてレポートします。「○○式注入法」と院長独自の注入方法を謳っていた○○クリニック。(今回は本当にヤバイので、イニシャルも控えさせていただきます。)ここはホームページが比較的理論的だったのと、「院長独自の方法」「注入時の痛みはほとんどありません」という記載に引かれて行きました。夜9時まで開いてて年中無休というのも行き易く、そこはポイントが高い。メソセラピーについて問い合わせてみると、独自の注入方法というのは「ナパージュ法」だとか。私が2005年に韓国へメソセラピーの研究に行った時に見た「ナパージュ法」というのは、針で皮膚表面をひっかくように浅く打つ方法です。そんなんで脂肪溶解注射が効くのかな?と思いながらいろいろ聞くと「細かく打ちますが、痛みは針を刺す時の痛みだけです」「腫れは多少、2~3日」「頻度は月1回くらい、必要回数・効果は人による」との事。クリニックが終わってからでも行けるので夜に行ってみました。「う・・・ん。なんだか微妙に寂れた感じで哀愁が漂うなぁ・・・この辺は・・・」周りも暗くて場所が判らない。何回か電話してやっと古びたビルを探し出しました。エレベーターを上ってクリニックに入りましたが、ガランとしてて人の気配がない。問診票の紙も古くて赤茶けているし、なんか心配になってきました。ホームページと全然違う印象。(やっぱりプロがホームページ作ると凄いんですね。以前にめっちゃ綺麗な旅館のホームページを見て実際に行くと全く違った雰囲気でがっかりした事を思い出しました。)



先生の診察の前にナースのカウンセリングがあり、それがまた長い。メソセラピーは8回も必要と言われました。(8回もしないと効果が出ないって、どうなんですかね?)PRPやFGFの事も聞きましたが、ナースはFGFというものも知らなかったし「PRPはボコボコするのであまり良くない」と。PRPだけでボコボコするなんて聞いた事ないけど・・・。メソセラピーよりも脂肪吸引をしつこく勧められ、あまりにも説明が長いので「先生の診察は受けられないんですか?」と言うとやっと先生が登場。逆に先生の説明はあっさりしたもんです。しかしやっぱり脂肪吸引を勧められました。(脂肪吸引ってのは皮下に太いバキューム針を入れて「ズボボボ」って脂肪を物理的に吸引する訳ですから確かに部分痩せの効果は一番高いのでしょうけど、これはれっきとした外科手術なので、麻酔などは専門医がやらねば危険です。でも専門医が麻酔をかけてるクリニックは非常に少ないのが実情・・・。それに体内には大きな血管が何本もありますから、吸引の時に間違ってそこを吸ってしまうと血管が破れて一気に出血します。実際に脂肪吸引の失敗で出血多量で死亡した医療事故も過去に起きています。そして費用も注射で行うメソセラピーと一桁違います。まあ、私だったらまず受けたいと思いませんね。)先生にメソセラピーの薬の内容を聞くと「フォスファチジルコリンとアミノフィリンと・・・オリジナルのカクテルです」・・・ん? アミノフィリン?韓国でのメソセラピーに一時使われていた薬ですが、もともと喘息の薬で、私もいろいろ調べたんですがどうしてそれが脂肪溶解に効くのか不明だったので、買ってみたものの使うのをやめた薬です。どうしてその薬を使うのか聞いてみたかったんですが、あまり詳しい事を聞いて身元がばれてもいけないので、取りあえず二の腕に受けてみる事にしました。掌1枚分で30箇所も刺すと言うので、1枚分を両腕に分けてもらう事にしました。



がらんとした手術室に案内されましたが、最初から最後まで先生とさっきのナース1人のみ。どうやら先生とナースの2人でしているクリニックの様子。広い手術室でいきなり「上脱いでください」と言われる。ガウンをかけられ、手術台に乗せられました。勤務医時代は手術室に毎日のように出入りしていましたが、手術台に乗るのは初めてだったのでちょっと不安な気持ちに・・・。実際に打ってもらうと、ナパージュ法とか「独自の○○式」とかいうのは何なのか分からず、普通にブスブス何箇所も針を刺すだけの打ち方でした。これって単に針刺す箇所が多いだけ? 20箇所ずつ位刺したのですごく痛かったぁ。掌1枚分にして良かった・・・はぁ・・・^^;)。注射の後、打ったところを冷やしてしばらく寝てる時間があったので、先生にPRPやFGFの事を聞くと、先生はさすがにFGFの事は知ってましたが、「PRPやFGFはボコボコするのであまりお勧めしません」との事。「PRPだけでもボコボコするんですか? PRPにFGFを混ぜるとボコボコする事があるって聞きましたけど・・・」と言うと、「そうですね。でもPRPだけでもボコボコする事はありますねえ」と、シワ・たるみにはフェイスリフトを盛んに勧められました。(よっぽどこの先生は手術が好きなんでしょうか・・・ブラックジャックも真っ青?・・・^^;)「ボトックスリフトはどうですか?」と聞くと「ボトックスは半年で切れるからねえ。半年で10万円は高いでしょ? フェイスリフトなら30万から100万で一生もちますよ」(それはないでしょう・・・と私の心のつぶやき。)フェイスリフトが一生もつなんていうのも聞いた事がありません。最近はフェイスリフトやフェザーリフトも2-3年で緩んでくるという意見が学会でも主流です。それに加齢と共に全体の皮膚はどうしても弛んでくるので、引っ張ったところと妙なアンバランスが生じてきます。「あ・・・あの人整形手術してるね」って判る芸能人の顔になると言えばイメージできるでしょうか? どっちにしてもすごく手術をしたいようで、古びたビルにひっそりとある手術室の無影燈が鈍い光を放つ、ちょっと怪しげなクリニックだったのでした。



さて翌日。二の腕は見事なくらい真っ赤に腫れ上がってしまいました。おまけに痛いし痒い。2~3日経っても引かないので本気で心配になり電話で問い合わせると、「冷やしといてください」とかなり安易な返事。「アレルギーかもしれないので」と先生に薬の内容を聞くと「フォスファチジルコリンとカルニチンを少しと、アミノフィリンと局所麻酔です」との事。1週間ほどで赤みは引きましたが、今度は注射をしたところがボコボコになってきました。3週間経っても痒みと痛み・ボコボコは引きません。もう一度問い合わせると、例のナースが出てきて先生は電話口に出してくれません。症状を伝えると、「そうやって脂肪が解けていくので、それはいい副作用だと思ってください」うん?「いい副作用」ですか?・・・うまいこと言うなあ。これは座布団1枚!! それはさておき、先生に直接聞きたい事があると言うと、「先生は今手が離せないので明日になりますが、どういうことを聞かれたいかをお聞きしておきます」と言うので、アミノフィリンをなぜ脂肪溶解注射に使うのか、どういう作用があるのか、他のクリニックではあまり使ってないみたいだけど・・・とつい正直に答えてしまいました。ナースは「他のクリニックでは使ってないんですか?」と初耳の様子。アミノフィリンっていうのは、10年ほど前に韓国からメソセラピーが入ってきた時に使われていた薬で、元々気管支を拡張させる喘息の薬ですが、代謝を良くするとか血管を拡張して脂肪の排出を良くするとか言ってメソセラピーに使われていましたが、心筋を刺激して心拍出量を増やしたり血圧を上げたりする作用もあるので、気分が悪くなったりする副作用もあり、最近はほとんどメソセラピーには使われていない薬なんですね。「必ず引いてきますので、1~2週間様子を見てください。先生のお返事は明日になりますが」と言われ、一旦電話を切りました。



その後忙しくてすぐに電話できず、3日後くらいに電話すると先生が電話口に出て来たので「どうしてボコボコになるんですか?」と聞くと「それは炎症ですねえ。サービスで薬を多めに打ちましたから。効果を出すためにね。うちは効果を最も重視してますから」うん?「サービスで多めに打った」?・・・上手いこと言うなあ。座布団更に2枚!!(ちなみにこの座布団の下りが解らない方は気にしないでください。解った貴方は青春を昭和の時代と共に過ごした証です・・・^^; )しかし炎症が1ヶ月も続くかいな。「必ず治りますから様子を見てください」と言うので「どれくらいで治りますか?」と聞くと「あと1ヶ月くらいで引いてくると思いますよ」・・・って、ナースという事ちゃうやん! それにトータルで2ヶ月もかかるん? そんなん「いい副作用」とか言うてられへんよねえ。そして「アミノフィリンって喘息のお薬ですよね?どうして脂肪溶解注射に使うんですか?」と聞くと、「アミノフィリンは使ってませんよ」・・・な、なぬ??治療当日と、前回の電話で2回ともアミノフィリンを入れたって言ったくせに。「え? 先生、2回ともアミノフィリンっておっしゃいましたよね?」というと「いや、アミノフィリンは使ってませんよ。フォスファチジルコリンです」・・・なぬ?なぬ? 「フォスファチジルコリンとカルニチンとアミノフィリンっておっしゃいましたけど」と言うと、「アミノフィリンではなくてヒアルロニダーゼです」・・・そんな事今まで一言も言うてへんかったやん!「先生、確かに2回ともアミノフィリンっておっしゃいましたけど」と言うと「いえ、ヒアルロニダーゼです。あ、あのぉ・・・貴方は薬剤師の方ですか?」・・・おっと危ない・・・スパイの身元がバレる危機だ! 映画だったらボスが目で合図して下っ端が出口のドアを締めて周りを取り囲むシーンですな。「あ・・・いえ、アレルギーかなと思ったのでネットで色々と調べたんですけど・・・」と言うと、「使ったのはアミノフィリンではなくてヒアルロニダーゼですよ。カルテ見て言ってますから。カタカナって聞き間違える事も多いですしねぇ・・・よく似た名前多いですから、薬には」「そっ・・・そうなんですね・・・解りました」そこで電話をおいてバレなくて良かったと胸を撫で下したのもつかの間。「・・・嘘つけ!なんちゅうやっちゃ!」・・・と怒りがこみ上げて来ます。



そこでハタと気付きました。しまった!相手に作戦を練る猶予を与えてしまったようだ。きっと私が電話してから3日間、必死で調べたに違いない。そこで最近はアミノフィリンはあまり使われてない事を知り、最近よく使われているヒアルロニダーゼにすり替えたんだろう。しかし患者があまり解ってないと思って、嘘つくなんて許されへんやっちゃ! え?それは考えすぎでしょう?って思いますか?でもですね・・・その後ホームページを見ると「○○式メソセラピー」と自信ありげに書かれていた文言が削除されていたんです!! これって偶然でしょうか? こりゃますます怪しいじゃないですか。美容クリニックって本当にいろいろなところがあるので、気をつけないといけませんね。 ・・・ってな訳でその後の経過なんですが、メソセラピーの本来の目的である部分痩せの効果はほぼ見られていません。そしてまだ痛みも痒みも、ボコボコも残っている状態です。おそらくこのボコボコは数ヶ月で治るとは思うのですが・・・(っていうか、そうあって欲しい。)スパイってのは危険な任務なんですねぇ。本当は他にもメソセラピーの潜入調査をしたので皆様にもレポートしたいんですが、今回は紙面の関係からこの一件だけにして、別の機会にまたミッション・インポッシブルシリーズ(?)として紹介する事にします。

何事も「人の振り見て我が振り直せ」なんですが、私もこのような事がないように常に新しい知識を入れ、自分自身を戒めていかねばならないと思った貴重な体験でした・・・。


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