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第125回  (2013年08月) 「何事もバランスなんですね 」



こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。もうすっかり真夏の暑さが続いていますね。この時期の外出には日焼け止めをお忘れなく! ま…日傘なしでは外出すら難しい季節ではありますが。天気予報によれば今年は7月が一番暑く、8月の方が暑さはマシになるんだとか…。ホントなんでしょうかね? 天気予報って、当たればラッキーって考えておかないと結構期待を裏切られる事が多いので、「そうなればいいな…」って程度に考えておく事にしましょう。勿論、天気予報だって昔から研究されているし、莫大な費用を天気予報の為に政府も使っているので、全然当たらないって訳ではなく、当たらなかった時の悔しい思いの方が記憶に鮮明に残るので「天気予報って当たらない…」って思うのかもしれませんけど。



あてにならない…と言えば、前評判は凄いのに大したことない…って事も、この美容業界にも結構あります。その昔は「コエンザイムQ10クリームの大流行」というのがありました。このコエンザイムQ10が登場した時なんか、もう一種の社会現象のようで全くこの材料が手に入らなくなり、私もあらゆるツテを使ってようやく少量だけ材料を集めてコエンザイムQ10入りクリームを提供したところ、瞬く間になくなってしまうという、当時は大人気のクリームでした。ドイツでの臨床試験で、コエンザイムQ10入りクリームでシワが薄くなったという報告が新聞に載ったために人気がブレークし、市販でもいろいろなメーカーからコエンザイムQ10クリームが山のように新発売されました。ただ、その効果はというと意外にも…??…だったようで急速に廃れ、今では大ブレークの頃に比べると表舞台から消え去った感じがあります。よく調べるとドイツでの臨床試験のクリームのコエンザイムQ10の濃度が0.3%だったのに対し、日本で化粧品に認可された濃度は1/10の0.03%だったので劇的な効果が出るはずもなく、「前評判の割に」大したことないな…ってところだったんだと思います。(当院では高濃度のコエンザイムQ10を処方化粧品に配合しているのでそれなりにまだ人気もありますが、市販化粧品の濃度の上限を超えているので薬扱いとなり、市販はできません。)それに比べると市販化粧品ではもう古典とも言えるビタミンCなんか、当たり前になったとは言え、やはり美肌や美白の効果は非常に高く、特にビタミンC誘導体が出て来てからは、ほぼ万人に効く美白剤の地位を確立していると言えます。長い歴史の中で淘汰されて残ったものは、やはり本物が多いって事でしょうか。



前評判の割に…と言えば、最近韓国で一大ブームになっている「水光注射」というのがあります。最近は日本でも行なっているクリニックもあるようなので、興味のある方はネットで「水光注射」で検索してみてください。4月に行ったモナコの学会でも、お肌がツルツルになる全く新しい注射という事で随分売り込まれていました。これは柔らかいヒアルロン酸を細かく浅く広い範囲に打つ方法で、ヒアルロン酸の保湿力を利用した美容法です。ヒアルロン酸はその体積の数千倍もの水分を吸収して保持する力があると言われていますが、そのヒアルロン酸をお顔全体に注入する事で、ヒアルロン酸が体の水分を吸収し、みずみずしくプルプルのお肌になるという理屈です。例えて言えば高野豆腐の細かいものを肌の下に敷き詰める事で、高野豆腐が水分を吸収してプルプルになる…って感じでしょうか…。(高野豆腐って例えが古すぎ? ゼラチンって言った方が良かったですかね…^^;) ちょうどその頃、知り合いの業者さんがその注射用の機械を輸入したので試してみませんか?というので早速試してみました。



確かにこの機械は今までの単純な注射装置と違って、一工夫してあります。注射をする時にバキューム装置が働き、お肌を吸い上げる状態を作った上で、そこに細かい5本セットの針を一気に差し込んで少量のヒアルロン酸を定量注入できるようになっています。しかも殆どドクターの手技を必要とせず全自動化されているので、誰でもできるというスグレモノです。


ただ、バキュームで皮膚を吸引して針を刺す方が痛みが少ないという売りなんですが、バキュームが切れて針が抜けるのに時間がかかるので、注入にやたら時間がかかる。その上、機械が重くてずっと持ち続けているだけでもかなりしんどく、終わる頃にはヘトヘトに…。こらあかん。 その機械には5本一度に刺せる針がついてるので、針だけ使われへんかな、と針のサンプルをもらって試したんですが…これまた吸引しないと切れが悪くて刺さらない。これやったら普通に打った方がましちゃう?と手で打ってみたんですが、ヒアルロン酸を細い針で細かく打つのは大変で、しかもあまり効果が出ませんでした。



ヒアルロン酸というものは何か体に作用を起こす薬剤ではなく、単純に水分を吸ってそこに留まってくれるという素材なので、顔全体をプルプルにしようとすれば細かく全体に百箇所以上も注入しないとダメなんですよね。顔全体に注入するので注入後は顔もかなり赤く腫れますし、痛い割には効果も人によってかなりバラつきがあるようです。若い人には結構効果があるみたいですが、残念ながらお年を召した方はそもそも皮膚がたるんでいる事もあってプルプルにはなり難い…っていうのが実態でしょうね。韓国の美容って若い人が気軽に行くという感じなので、若い人を中心に人気なんだと思います。やはり中年以上の方はお肌そのものを再生させて自分自身のヒアルロン酸を増やすような成長因子(FGF)やPRPを注入した方がはるかに美しく仕上がるようです。…てな訳で前評判の割に…という事で、この水光注射は当院のメニューになる事は今のところ無さそうです…^^;)。



話は変わりますが、この成長因子(FGF)のお話を少しさせてください。当院の中では恐らく一番人気の、エセリスカクテル・オーダーメイドエセリスカクテルというメニューがありますが、これらはエセリスというヒアルロン酸とプラセンタやビタミンにFGFを混ぜて、シワやクマに注入する事で自分自身の持っている肌細胞の再生能力を活性化して、シワやクマをかなり劇的に改善する治療方法です。このようにFGFというのは体に大きな作用をさせる薬剤なので、考え方によってはステロイドみたいな劇薬と言ってもいいと思います。その為、使い方を誤ると変な形で再生機能が働いてお肌がボコボコになったりする事があるんですね。当院でも他のクリニックでFGFを注入し過ぎてボコボコになった方が「なんとか綺麗にして欲しい!」と来院されるケースも最近は増えています。そんなFGFですが、美容の領域だけでなく、今流行りの再生医療の分野でも当然活躍しています。再生医療と言えばノーベル賞に輝く山中先生のiPS細胞にすっかり話題をさらわれていますが、iPS細胞はまだまだこれから研究を重ねなければならない分野なのに比べて、FGFは完全に実用化されているバリバリの現役選手です。


FGFと言えば、1月の学会で知り合ったエネルギッシュな京大のT先生(クリニック通信第120回参照)の研究室にお邪魔する機会がありました。「一度時間作って、研究員の方と一緒に京都に来てくださいよ。DDS(ドラッグデリバリーシステム)の話しますから」と言われたので、当院のゆるキャラ系コロコロS君を連れて行こうとしたら、他のスタッフや留学生たちも「一緒に行きたい」と言い出し、4人も連れて行くことになりました。



行くからにはチンプンカンプンではT先生にも悪いので、事前にDDSの勉強会を行いました。DDSというのは以前の通信にも書きましたが、ゼラチンから作ったゲルにFGFなどの細胞増殖因子を混ぜて、体内で細胞増殖因子が徐々に放出されるようにし、細胞移植の治療効果を高める方法です。(それから院内ではDDSという言葉が大流行。DDS=デブでダメなSちゃん、ブタでダサいSちゃん…と、留学生たちはコロコロS君をからかっていましたが…面白くない? すっかり内輪ウケのネタですいません…m(__)m。)当日はT先生の話術に引き込まれ、DDSにまつわるいろいろなお話を2時間以上していただいて、とても勉強になりました。その中で実験のヒントになったのが、FGFとヒアルロン酸の話。ゼラチンハイドロゲルはFGFと相互作用力がある(なじみが良い)のでFGFの効果が高まるらしいのですが、ヒアルロン酸もゼラチンハイドロゲルに比べると非常に弱いけれども相互作用力があるらしいのです。そうか!うちのエセリスカクテルがメソカクテルに比べて効果が高いのはそのせいだったんだ。最初はクマやシワが早くふっくらする方法はないかと思ってメソカクテルにヒアルロン酸を混ぜてみたんですが、少量混ぜるだけでも思った以上に効果が出るので不思議に思ってたんですが…。それなら、と新しい注射の構想が次々浮かんで来てきました。また新しく、よく効く注射が開発できたらお知らせしますね。乞うご期待!!



さて、当院の患者様は勿論日焼け対策をされていると思いますが、最近は子どもたちにも紫外線をあまり浴びさせるのは良くないという事で、学校のプールに紫外線を遮断するテントを設置したというニュースが載ってました。時代は変わるもんですね。私が小学生の頃に誰が紫外線対策なんて考えてたでしょうか? 子供は夏になれば真っ黒に日焼けした方が健康的って考えられていましたが、最近はすっかり紫外線の害の方が認知されるようになったのです。ただ、その一方である学者さんが言っていましたが、日焼けをしている人としていない人では圧倒的に日焼けしていない人の方が自殺率が高いんだそうです。恐らくその原因は日差しに当たっている人の方がビタミンDが体内で生成される事によってクヨクヨと悩む事が少ないからではないか…という事でした。(ビタミンDは外部の食物からも吸収されますが、通常は体内で生成されます。その生成を促すには、太陽の日差しを皮膚に当てる事が重要なのです。)確かに失礼ですが、自殺する人って色白でなよっとしている方がイメージが合いますね。真っ黒に日焼けしたスポーツ選手と自殺ってのはどうも合わない気がする…。森田健作(古い!?)とか、自殺と程遠いイメージ。ちょっと不謹慎かな…^^;)。



何でも物事は片面だけを見ててはダメだ…って事でしょうか。FGFも使い過ぎるとお肌がボコボコになる危険性があるので、ある程度の量に制限する必要があって、その加減が非常に難しいのです。それに成長因子も打てばいいってもんではなくて、成長因子が組織を活性化する力を発揮するには、体全体が健康な状態であることも重要だと思うので、食生活を含めて健康を維持するというのも美容には非常に大切だな…って実感しています。その為に当院ではプラセンタ点滴などの併用をお勧めしています。ホントに何年やっても人間の体って不思議で解らないことが一杯あるのですが、何事も「バランス」というものが重要なんだな…って思うんですよね。天気予報でもあまりにも沢山の要素があって、そのバランスの中で天気が決まるので、なかなか的確な予測が難しいんだと思います。でも難しいなりに研究を進めた結果が今である訳なので、諦めずに一つずつ解明していく努力は、少しずつであっても報われると信じています。これからもまだまだ精進努力していきますので、皆様のご支援を何卒よろしくお願い致します。


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