第84回 (2010年03月) 「ブランドと実質」

  

こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。まだまだ寒い日が続きますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? 寒い時期のグルメと言えば、何と言ってもフグですよね!(またいきなりグルメネタですいません。)先日、九州出身の友人Mから、北九州グルメツアー(ツアーと言っても、出張のついでに美味しいものを食べようというだけの話なのですが・・・)に誘われました。  
M: 「今度出張で北九州に行くんだけど、久しぶりに嶋鮨にでも行かな
       い?水曜日だったら行けるでしょ?」
柴田:「嶋鮨かあ・・・いいねえ! 久しぶりに行こうかな。寒い時期の魚は
       美味しいもんね」 

嶋鮨というのは小倉で一番美味しいお鮨屋さん・・・という話で、数年前に一度行ったのですがとても美味しかった記憶があります。という訳で、最初はお鮨を食べに行くつもりだったのですが・・・。
たまたまその前の週に、勤務医の頃に仲良しだったMR(製薬会社の営業の人)M君の同僚K君と、フグを食べに行く機会がありました。安いフグコースがあるお店を見つけたので行ってみたのですが、K君は3年前まで8年間も北九州で勤務していた事が判り、九州話で盛り上がってしまいました。

柴田:「へー、K君、北九州にいたの? 私、来週北九州に行くんだけど」
K君:「えーっ、そうなんですか! それならいいお店紹介しますよ!  北九州と言えばフグですからね
        え!」
柴田:「そうか! フグもいいねえ!!」 
・・・と、すっかりフグ話で盛り上がり。K君のお勧めは、門司港近くのYと、繁華街にある老舗のAだとか。

 

K君:「Yは小倉駅からはちょっと遠いですけど、一軒家を改装した趣のある
       店で、1日2組しか予約を取らないんですよ。てっさや鍋も美味しいで
       すけど、最後のフグ飯が最高なんですよね~。 Aはてっさがすごく厚
       くて美味しいんです。そこはよく使ってたので、僕の名前を出していた
       だいたら多分安くしてくれると思いますよ。それに街中にあるので帰
       りにお酒の美味しいバーにも 行けますし・・・。立地的にはこっちの方
       がいいかな? よかったらお勧めのバーも紹介しますよ」 

う~む…どちらも魅力的。Mに話すと、安くていい所(さすがコスパにうるさいMらしい発言だが)があるならフグでも・・・という事で、早速下調べ開始。(こういう事になるとすぐに進んでしまうのです。仕事や勉強もこれくらい手早くできればなあ・・・。)Aはホームページがあり、「フグは天然もののとらふぐのみを使用しております。天然!この言葉に勝るものはありません」と、天然を売りにしています。さらに、「プロの目で厳選した鮮度の良いものだけが店内に並んでいます。貴重な白子も贅沢なほどにご用意しています」とあり、白子に目がない私は嬉しくなってしまいました。しかしメニューはコース名だけで詳しい内容が出ていません。これは内容を確認しなくてはいけない!と、早速電話を・・・。実は私は白子焼きには目がなく、唐揚や焼フグも大好きなのですが、てっさや鍋はあまり好きではないのです。毎年行くフグ専門店Hでも、いつも「鍋は少なめにして焼きフグに回してね」と頼みます。(Hの白子の塩焼きは圧巻の大きさで、それもあってHはお気に入り。)なのでコースに何が付いているかは私にとっては重要なポイントなのです。それにMは健康オタクなので、あまり量の多いコースは好みません。Aに電話をしてコースの内容を聞くと、11550円(細かい!)のフグ小コースに白子焼きを付けるのがベストな感じ。 

柴田:「フグ小コースに白子焼きは付けられますか?」
大将:「それだったらその上の13650円のフルコースにされたらサービスで白子焼きをお付けしますよ。 こっ
         ちなら唐揚や白子入り茶碗蒸しも付いてますし・・・」 
とのこと。へー、親切なお店やん! ちょっと気に入ってしまいました。予約は顔の効くK君がしてくれるとのことだったので、名前を言わずに「また相談して連絡します」と電話を切りましたが、行く気満々。その後K君から連絡がありました。ところが・・・

 

K君:「すみません、Yは予約がもういっぱいで・・・。Aならまだ空いて
        て、15000円位で唐揚と白子焼きも付けてくれるそうです」と。あ
        れ? 電話で聞いた時より高くなってるやん?
柴田:「ほんとに安くしてくれてるの?」
K君:「はあ・・・『神戸から僕の良く知ってる先生が行かれるので、よろし
        くお願いしますね!』と念押ししたので、多分良くしてくれると思う
        んですが・・・」  

おかしいなあ。良さそうなお店だったし、K君の紹介だと安くなるはずなのに・・・。食事だけで15000円だと、天然のフグとはいえコスパにうるさいMが納得するだろうか? Hだったら食べて飲んでももっと安いし、何より電話した時より高くなってる・・・。Mに報告すると案の定、 

M:「えーっ、北九州で15000円のコースなんて、かなり高いよね! 普通は神戸より物価は安いから・・・。
     医者が行くなんて言うから足元見られたんよ! 電話した時と話が違うって店に言ってみたら?」

 

 

Aに電話すると、13650円のコースに付けるサービスの白子焼きは小さいのが一つだけで、15000円のコースだと大きいのが付くんだとか。そして「うちは天然しか扱ってませんから。天然でいいものは、やっぱりお高くなりますよ。何せ天然ですから」と、やたら天然、天然を連発します。なんかお店のイメージがだんだん悪くなってきました。K君がせっかく頼んでくれたので行く事にはしたのですが、
「それだけ出して大して美味しくなかったらお膳をひっくり返すかも・・・。それに天然のフグと養殖のフグって、そんなに味変わるかなあ?」というMの言葉に、一抹の不安も・・・。確かに、勤務医時代に接待で天然のフグを扱っていると思われる高級そうなお店にも何回か連れて行ってもらいましたが、「これはめちゃくちゃ美味しい!!」と思った記憶がありません。最近ボケる事も多くて昔の記憶が定かでないからかもしれませんが、グルメに関しては他の事よりはしつこく覚えているはずだし、私の記憶の中ではフグと言えばやはりHが王道です。そしてHは値段から考えるとおそらく養殖・・・あ、鍋に肝が山ほど入るので、明らかに養殖ですね。(その肝がまたうまい! しかしそれが天然だったら私はきっと今頃この世にはいないでしょうから・・・。)期待と不安が入り混じった気持ちで九州行きを待っていたのですが、なんとMが直前にインフルエンザにかかって出張が延期になってしまいました。行けないとなると、無念さと悔しさが・・・久しぶりに天然のフグも食べてみたかったなあ・・・なんて、人間って勝手なもんですね。

 

それからしばらくして、知り合いの先生から「北九州でPRPとプラセンタに関係する研究会があるんですが、行きませんか?」とお誘いがありました。「え、北九州?? 行く、行く!」(いつも動機が不純ですいません・・・)と二つ返事。これは今度こそ天然のフグを食べなくては!!と思い、フグ屋探しを始めました。その時「あ、そうだ。忘れてたけど、北九州と言えば超グルメなMの叔父さんがいるではないか!」と思い出したのです。やはりグルメは確かな筋に聞かなくてはいけません。Mの叔父さんは画家で、大阪のお店でも何店かで叔父さんの絵が飾られてるのを見た事があるので結構売れている画家のようなのですが、その食に懸ける意気込みはすごいのです。クリニックに飾っている絵もその叔父さんに頼んで描いてもらったもので、その打合せに昔北九州に行ったことがあり、嶋鮨も叔父さんに紹介してもらったのでした。その時叔父さんの息子にも会ったのですが、当時二十歳にもなっていなかったその息子に「小さいころからお父さんに散々美味しいお店に連れていってもらったでしょ? 今まで食べた料理のなかで一番美味しいと思ったものは何だった?」と聞いた時、かなり長い沈黙のあと「・・・・・・・・・やっぱり銀メシかな」という一言。銀メシ・・・つまり炊きたての白ご飯・・・です。しかしその沈黙の中に「ご飯はただ炊けばよいと言うのではなく、立派な料理である。その頂点を極めたものだけが「銀メシ」と呼べる。しかもそれを越える料理はない・・・」という思いが伝わってくるのです。すでに悟りの境地に達したという事なのか・・・。なんか「美味しんぼ」にでてくるワンシーンのようですが、これは相当な食通親子だ・・・と唸った記憶があります。北九州で美味しいものを食べるならこの人に聞かなくては・・・と、K君には悪いなと思いつつ、Mから叔父さんにフグ情報を聞いてもらいました。すると、やはりすごい情報が・・・フグなら豊後水道のフグが他のものと全然違うらしく、「騙されたと思って1回食べてみる価値はある」との事。しかし毎日水揚げされる訳ではなく、上がったら料理屋から連絡が入るそうで(叔父さんはどんなルートを持ってるんでしょうねえ・・・)、大分まで行ったら安くて手に入りやすいとの事でしたが、さすがに研究会は北九州だし一泊なので大分までは行けません。そう伝えると、「じゃあ小倉の手ごろな店でその日にいいフグが入った所を教えてあげる」と言われました。ラッキー! ちなみにAってどんな店? と叔父さんに聞くと、「ああ、Aは小倉では成金の行く所だからね」との事。ああ、行かなくて良かった・・・。せっかく紹介してくれたK君には悪いけど、やっぱり接待族の行く所なんだ。医者と知ったら高くなる・・・というMの予測は当たっていたかも。それになんか「天然、天然」ってやたら連発するし、「天然ブランド信仰」みたいなのもいまいち・・・。自腹で行ってたらお膳をひっくり返していたかもしれません。

さて、待ちに待った(?)研究会の日。(何を待ってるんだか・・・。)研究会の内容はPRPやプラセンタの最新の話題という事でしたが、うーん、うちの研究の方が進んでいるな・・・と、残念ながらあまり実入りがありませんでした。そして研究会が終わった後、いざ叔父さんに紹介してもらったフグ屋へ。Mの叔父さんの話をすると、グルメのN先生とY先生が参加する事になりました。和室がいっぱいあって古い旅館のようなお店でしたが、ホームページやお店の様子からはフグ専門店ではない様子。「五島列島から取り寄せた海鮮料理」が売りのお店のようです。個室に通されて和服姿のきっぷのいい女将さんが接待してくれ、次々と料理が運ばれてきます。突き出しの小エビの唐揚は結構美味しい。でも、フグのコースではないのかな? フグのコースと言えば突き出しはフグ皮、と決まっている気がするけど・・・と思ったとおり、いろいろな魚が出てきました。中でもめちゃウマだったのは、関鯖のお造り。鯛の尾頭付の塩焼きまで出てきました。お目当てのフグはと言えば、てっさは厚めで養殖ものより少しコクがあるかな?という感じで美味しかったのですが、Hのてっさより断然美味しい!というほどではなく、いい勝負。白子の塩焼きもすごく美味しかったのですが、Hの白子も負けてはいない気がします。鍋はなかったのですが、フグの骨から取っただしで雑炊を作ってくれたのは文句なく美味しかった! これはHより美味しかったかも。でもHではお腹いっぱいになりすぎて雑炊をしっかり味わえない状態になるからかもしれません。取りあえず叔父さんのお陰でお膳をひっくり返さなくても済みましたが、天然のフグを久しぶりに食べて思ったのは、Hの養殖のフグも負けず劣らずだなあという事。北九州では有名なほどの超グルメでいろいろな店の板場と親しい叔父さんの紹介なので、フグに間違いはなかったはず。・・・だとしたら、養殖と言えどもHのフグのレベルはすごく高いのだと再認識したのです。結局美味しいものを提供するには、天然か養殖かよりも実質的に本物を見極める目が必要なだけではないかと思いました。 

 

そんな事を考えながら、2次会くらいはせっかくなのでK君が教えてくれたバーに行ってみようと、繁華街に繰り出しました。教えてもらったビルに行くと、バーのドアには「節度を守れないお客様はお断りしております」と張り紙があり、チャイムを鳴らすとマスターらしき人が出てきて「誰かのご紹介でしょうか? うちはご紹介でない方はお断りしているのですが・・・」。えらい高級そうなお店です。K君の名前を出してやっと入れてもらうと、暗い店の中はとても静かで、内装はお洒落ないい感じ。「何かお作りしましょうか?」と言われ、イチゴのシャンパンカクテルを頼むと、結構美味しい。これはいいかも?と思ったのですが・・・。大阪出身のN先生がバーボンを頼むと舌をかみそうな難しい名前の高そうなのを勧められ、N先生が「ハーパーでええねんけど」と言うと、「うちは有名ブランドしか置いておりませんので」・・・。シャンパンカクテルをあけると「お代わりはいかがですか?」と言われたので、その昔ポートアイランドのワールドビルにあって一世を風靡したV&Vというバーのレシピで、V&V No.5というウォッカベースのカクテルに似たのが飲みたい・・・と頼んでみました。私はそれが大好きなので、カクテルが得意というお店では一度はこれを頼んでみます。レシピを告げると大抵のところでは快く作ってくれるのですが・・・そこでは「僕はいつもオリジナルカクテルしか作らないんです。フェイクは嫌いなんですよ」と嫌味たっぷり。私より先にN先生が、「いけすかん店やなあ!」九州出身のY先生も、「九州って田舎なんですよ。田舎者ほどブランドに弱いでしょ。この店みたいに張り紙があったり紹介でないと入れないような店をありがたがる傾向があるんですよねえ。本当に良い店はそんなことしなくても、良い客しか来ないもんなんですけど・・・」3人で「もう帰ろ、帰ろ」と会計をしてびっくり。おつまみもなしで4杯で10000円・・・ N先生もY先生も怒り心頭。「これだけ出すんやったら銀座でも飲めるわ! ここはほんまに北九州か!?」 高いわいけすかんわ、せっかく教えてくれたK君には悪いけど、皆で怒りながら帰路につきました。以前のクリニック通信でも書いた神戸のいけすかんイタリアンもどきのバーをしのぐひどさ。そのバーはN先生も行ったことがあるのですが、「あそこよりいけすかんバーは初めてや!」とブツブツ。なんかブランドってものを勘違いしてるようなお店でした。それに自分はできる、と思ってる態度がまた気に入らん。「無知の知」を知らない典型です。自分がまだまだ何も知らないという事を知っていなければ人間成長しませんし、成長しない人は今に必要とされなくなってしまうのに…。

 

ホテルに帰って飲み直し、怒りが少しおさまったところで、ブランドって何だろう?って考えてみました。ブランドとは、特定の生産者による品物を他と識別させる名称やシンボルを指しますが、それによって何が示されるかというと、本来は「品質保証」という「確実性」であるはずです。ヴィトンやグッチといったファッションブランドは洗練されたデザインだけでなく丈夫さや製品そのものの質の良さ、ソニーや富士通といったブランドは電子機器の質やアフターサービスなどが保証された確実性を示しています。そういったブランドというものは本来良い物のはずなのに、「ブランド志向」というと有名ブランドを所有する事によって自己の優越を誇示する性向だとか、自分に自信のない人ほどブランド志向に走る・・・とか、悪い意味に使われてしまいます。その理由は、ブランドの本当の良さを解らない人がブランドを記号としか捉えず、行き過ぎたブランド信仰を作ってしまうからではないでしょうか。フグでも魚でも「天然」というブランドが好まれるのは、本来は天然の方が美味しい事が多いという確実性によるものだと思います。ただそれは美味しい事が大事なのであって、「天然であれば何でもいい」とか「何が何でも天然でないといけない」というのは、単なるブランド信仰で本当の良さが解っていないのではないかと思います。
あるお鮨屋さんで、美味しい魚にこだわると結果的に魚は全て天然物になってしまったが、天然であればいいという、いわゆる「天然ブランド志向」とは次元が違うのだという話を聞いた事があります。フグも「天然のフグ」を意味もなくありがたがるのではなく、本当に美味しいものを見極める目を持ち、その結果選んだものが天然であればそれで良いし、その結果選んだものが養殖であっても、本当に美味しければそれで良いと思うのです。バーでも、本当に美味しいお酒を見極めて出す・・・というのが本来の姿であって、その結果ブランドものが良いから出すというのならいいんですが、上面だけの行き過ぎたブランド信仰だと「いけすかん」バーになってしまうんですよね。

そう言えば知り合いの貿易商の人がこんな事を言っていました。
「海外から品物を輸入して販売する時にブランド力があるものは本当に楽なのよ。メーカーがバンバン宣伝しているし雑誌でも取り上げられていて、お店の人なんか基本的に商品を並べておけば売れる訳だから、力のない小売店からするとブランド品しか売れないのね。一方で自分の足で探してきた『無名だけど素晴らしい商品』って本当に売れない・・・というか売るのが大変。これは売る側が本物を見極める目を持っており、しかもその商品に惚れる・・・という状態にならないと売れないね」
なるほど、美容の世界も有名な薬や治療方法があって、それはホームページに記載しておくだけで、患者さんの方から問い合わせてくれるので確かに楽です。一方で私達が独自に研究してベストと思って調合した薬剤などは無名なのでなかなか人気が出ません。本当に自分で「これがベストの方法だ!」という強い信念がないと続けていく事はできないと思います。養殖フグで天然に負けない味を出すHもおそらく単に業者が持ってくるフグを仕入れているというレベルではなく、一緒に餌や養殖方法などを研究し、これは、という基準をクリアしたものだけを仕入れているのだと思います。でも現実の世界では「天然物のフグ」と同じ値段をつけることはできないのでしょうね。私のところにも多くの薬剤メーカーさんが「流行り物」の新薬を売り込みにきます。雑誌等でかなり取り上げられているので、導入さえすればそれだけで患者さんが何人か来るだろうな・・・というようなものもあります。ただ、効果効能と値段を比較するとどうしても導入する気にならず断る事が多いのですが、ビジネスだけを考えると「ブランド薬剤」を入れれば楽なんでしょうね。しかし、私自身はフグ屋のH、鮨屋のN屋のような職人気質から抜けきれないですし、それが自分の進むべき道だと思っています。私も本物を見極める目をしっかり持って、ブランドであれ実質的なものであれ、本当に良いものを皆様に提供できるように努めなければ・・・と改めて考えさせられた九州の旅でした。