第37回 (2006年04月) 「平成お好み談義」

  

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こんにちは! 異人館通クリニックの柴田です。 今年は桜が早く、もうお花見の季節ですね。皆様もお花見に行かれましたか? 私はといえば、自宅の窓から向かいの異人館の桜がよく見えるのでいながらにしてお花見ができてしまい、最近はお花見に出かけなくなってしまいましたが、昔はお花見が大好きでよくあちこちに出かけたものです。お花見といえばつきものは屋台のお好み焼きやたこ焼きですよね。(・・・とすぐ食べ物を連想するのは私だけでしょうか・・・?)前回と前々回はメソセラピーの研究のお話ばかりで肩がこってしまったので、今回は久しぶりにグルメ談議で羽を伸ばしましょう。
お好み焼きといえば大阪の名物です。大阪市内では「お好みでもいこか」とおやつがわりに頻繁にお好み焼きを食べに行くそうで、大阪市内生まれの私の母などは大のお好み好き。しかし実は大阪生まれ大阪育ちの私が、お好み焼きはあまり好きではなかったのです。自宅が大阪でも郊外で、美味しいお好み焼きやさんが市内で1件しかなかったせいなのでしょう・・・。

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ところがそんな私が、神戸に来てから大のお好みファンになってしまいました。と言っても、行きつけのお好み焼きやさんは1件だけ。美味しいのと面白いのとで、そこに行くと他へは行けないからです。もともとはコストパフォーマンスにうるさく、B級グルメの王道を行く事務長のお気に入りのお店です。食事をしながらクリニックの打ち合わせをするというとたいていそのお店なのですが、笑いすぎて打ち合わせにならないことも・・・。ただ、決してお店の人もそこに集まる人も、人を笑わせようとしている訳ではないのですが、下町風情あふれるお店の中には天然ボケキャラの人も多く「吉本新喜劇」の定食屋のような状態です。
ついこの間も、久しぶりに涙が出るほど笑ってしまいました。

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そのお店は、神戸でも繁華街からは少し離れたところにあり、お客さんは近所の常連さんばかり。お客さん同士もほとんど知り合いで、いつ行っても名前を知られていないのは私たちだけのようです。私はよく行っても月に2回程度ですが、常連のお客さんでいつ行っても会う人がいて、「あの人、毎日来てるのでは?」と思うほど(・・・というか絶対に来ている) 。 確かにそこのお好み焼きや鉄板焼きはめちゃくちゃ美味しく、しかもすごく安いので、私も近くなら毎日通っているかもしれません。その上お店のお母さんと娘さんの、お客さんを交えた会話が漫才のようにポンポンと小気味よく、とても楽しいのです。そのネタによく使われるのが例の毎日来てる(?)常連さん。本名は知りませんが、お母さんと娘さんに「ニッシー」と呼ばれ、いつもぼろくそに言われながらもかわいがられているようです。

 

そのお店はいつもいっぱいでお客さんの回転もすごく速いので、もたもた食べているとお母さんに「あんたらちょっと早よ食べてえな・・・」と催促されます。次に座る人も勝手知ったもんで、自分で片付けてテーブルも拭き、「お母さん、準備できたでぇ」と協力的。 お客さんの方が完全に飼いならされています。ビールのお代わりなども自分で冷蔵庫から取ってくるなんて、ごく日常の風景。

ところでその「ニッシー」はいつも一人で私より早く来ていて、私が帰る時もまだいます。あまりうだつの上がらない感じのおじさんで、下町の居酒屋などに必ず居る、 「家に帰りたくない症候群」の典型のようです。私たちが小声で「きっと家に帰っても居場所ないんやろなぁ・・・」などとコソコソ話していると・・・ ニッシーがおもむろに「お母さん。ハムエッグちょうだいな」と追加オーダー。ちなみにこのハムエッグは300円でして、この店で一番安いメニューです。

お母さん:「なんやニッシー、まだ食べんのんかいな」
娘さん :「帰りたないねんやん、家帰っても相手にされへんし。ニッシー、無理せんでええで。
      まだいたいだけなんやろ?」
ニッシー:「ちゃうわ。俺はハムエッグ食べたいっちゅーねん」
お母さん:「そうか、そうか。ほんなら焼いたってもええけどな」
       ・・・という調子。
ニッシーは髪の毛が薄く、禿げかかっているにも関わらず、残りの髪を手入れして逆立てているのか、もしくは単に風が強くて逆立ったのか、キューピーさんみたいな状態です。パーティでは宗教と政治の話はご法度といいますが、それ以上に禿げた人の前では禿げの話は禁句であるので、当然ながら普通はその話題には触れようとしません。ところが・・・お好みを焼きながら、突然・・・
お母さん:「しかしニッシー、その頭なんとかならんのんかいな。無理に毛多くみせようとせんでもええやろ」
ニッシー:「しっ、、失礼な。これでも毎日セットしてんねんで」
娘さん :「セットしてそれかいな。笑わそ思てんのんちゃう?そこまで無理せなあかんかなぁ」

 

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あまりのド直球、そして、まるで何事もなかったようにお好みを焼きつづけるお母さん。こちらは思わず、ほおばっていたお好みを噴出しそうになったのを必至でこらえます。しかし、笑いをこらえようとすればするほど、我慢ができず「ククク・・・」と完全に肩が上下にゆれてしまいます。いくらなんでも、見ず知らずの他人の事で笑ってはならない、笑ってはならない・・・と言い聞かせると今度はもう涙がでてきそうです。すかさずそれを見つけたお母さん、
お母さん:「ほらほら、こっちのお客さんかて笑ろてはるやん。
      (私たちに)やっぱりあの頭おかしいやんねえ!禿げも堂々とすればええけど、この人何させても
      チュートハンパやねん。いっそ剃った方がマシちゃう?なあ、お兄さんもそう思えへん?」
事務長は「そっ・・・そんな事、よう言わん・・・」とついに我慢の限界がきて涙を流して笑っています。
ニッシー:「げ・・・あの人ら俺のことで涙流して笑とるやん」
娘さん :「そらそうや。あんたの頭みたら誰でも笑うわ」
ニッシー:「どこまで失礼なやっちゃ・・・」

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・・・と言いながらもニッシーはニタニタ笑ってなんだか嬉しそう・・・。
そこに新しいお客さんがやってきました。「お母さん、3人いける?」
お母さん:「いけますよ。ニッシー、そっち行ってくれる?」
一人の席は私たちの横の一番隅の席しか空いていません。
お母さん:「(私たちに)すいません、そこ変態が行きますから気いつけて
      下さい。餌もやらんとって下さい」
ニッシーは「なんちゅう失礼な店や・・・!」と言いながらもますます嬉しそうです。

でもそれから次々にお客さんが来て、お店は大忙し。相手をしてもらえなくなったニッシーは寂しそうにハムエッグをつついていましたが、ついに
ニッシー:「お母さん、帰るわ。おあいそして」
するとお母さんと娘さんはハモって
「ニッシー!あんたまだおったんかいな!! とっくに帰ったと思とったら、
 そんな隅っこでずっとおったんや。ほんま暇なんちゃう?」
もう、ぼろんちょんにけなされている姿をみて、こちらは笑いがとまりません。
ニッシー:「この店は失礼なやつばっかりや。この人ら俺の事でずっと笑とる・・・」

 

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そんな事があり、それから2週間ほどして打ち合わせに来た事務長の顔がとっても疲れています。
「あぁ、今日はめちゃくちゃ忙しくて疲れ果てた・・・」 
私もその日はクリニックが非常に忙しく、疲れきっていました。 お互いに顔を見合わせて 「お好み・・・いこか?」
仕事が詰まって疲れきった時はなぜか麻薬のようにここのお好み焼きを体が欲するのがわかります。昔、杏里の歌で「ジャスミンティーは眠りさそう薬・・・♪」ってありましたが、「A(お店の名前)のお好みは疲労を回復させる薬・・・♪」なのです。
さてそんなこんなでAに行く時になりました。
私たちががらっと入り口を開けるとお母さんが「あら、お客さんいらっしゃい。そや、ちょうどニッシーおるよ! またおもろい頭笑ろたって!」
・・・といきなりの直球。

 

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ニッシーは「世界一失礼な店や・・・!」と言いながらもカウンターテーブルの奥で、ニヤニヤしながら一人でビールを飲んでいます。
お母さん:「何言うてんの! こんな遊んでくれるとこ他にあれへんやろ。
      どこ行ってもあんた、相手にされへんのに」

こんなにはっきりほんまのこと(?)言うてええんやろか・・・とこちらが心配してしまいます。ところがその日はいつもにも増して次々とお客さんが来て、たちまちお店はいっぱいになってしまいました。ニッシーは気を使って「お母さん、帰るわ」・・・するとお母さんは今まであんなにぼろくそに言っていたのに、
「ニッシー、無理せんでええで。どうせどこも行くとこあれへんねんやろ。
 もうちょっと飲んどきいな。ほら、ビールまだ残ってるやんか。
 まだハムエッグかて注文きいてへんで」

ぼろくそに言いながらも何か非常に暖かいものを感じてしまいます。
マニュアルとおりの敬語を使われなくても、お客様という扱いを受けなくても、
家族のような暖かいコミュニケーションがここにはあるようです。いつにない優しい言葉にニッシーはますます気を使い、「ほんなら立って飲んどくわ」
するとお母さんも娘さんも「何言うてんの! ええてええて、座りいな!」

 

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でもそう言われるとニッシーはますます気を使い、本当に店の隅でビールの冷蔵庫をテーブルに、立って飲み出してしまいました。そうこうしてる間にお客さんが次々来てしまい、お店はてんやわんや。そんな喧騒の中で、ニッシーは一人で美味しそうにビールを飲んでいます。まぁ、普通の店だったら玄関先の冷蔵庫のところに変なおっさんが立ってビール飲んでたらおかしいと思うのでしょうが、このAでは別に珍しいことでもないので、お客さんも慣れたもんです。
そのうち、ニッシーを知っている人が来て
「お、、ニッシー。今日は立って飲んでんのか?」 と全く平気なもんです。 
まぁ、普通のサービス業の常識はこの店では通用しません。
さて、私たち以外にもこのお店のひそかなファンがいます。だいぶ前のクリニック通信で紹介したクリニック近くのイタリアンレストランのオーナー、麗子さんです。麗子さんのお店はお洒落で静か、およそこのAとは正反対のお店です。麗子さん自身も「ごめんあそばせ」が板についたどこかの令嬢のような上品な人で、あのお好み焼きやさんとは縁遠い感じなのですが、さすが味にはうるさい麗子さんがあのお店を見逃すはずはなかったのでしょう。週に1回は行くという常連さんです。

 

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しかし麗子さん曰く、
「でもね、わたくしあのお店に行くと気になることがありますの。お母さんがね、グルタミン酸ナトリウムをザバザバかけますでしょ。あれが体に悪いんじゃないかしら、と思うことと、美味しいからついつい食べ過ぎてしまいますでしょ。
それが難点かしら・・・ホホホホッ」
味の素のことをグルタミン酸ナトリウムというのが麗子さんらしいところですが、おそらくAで言っても誰にも通じないでしょう・・・。
そういえば10年来通っているという事務長も、「あの店の難点は唯一つ、美味しすぎて食べ過ぎてしまうことだ」と言っていました。
でもこれからは、食べ過ぎてお腹が出てしまったらメソセラピーがありますよね!・・・と言ってもメソセラピーも痩せることを前提に食べ過ぎてしまうと効果も落ちてしまいますから(食べ過ぎても効果のある方もおられますが、やはり食べ過ぎない方が効果は出やすいようですので)やはり皆様、お花見の季節とは言っても、健康のため食べすぎには注意しましょうね!

さて・・・一時のバタバタがスゥーッとひいて、お客さんもポロポロと帰っていき、ちょっと間の静かな状態が訪れました。今まで戦争状態でお好み焼きを焼いていた親子もつかの間の休息です。お茶を入れてさぁ、飲もうとした時、さっきまで立って飲んでいたニッシーがビール瓶を持ってまた
カウンターに戻ってきました。 それを見たこの親子が
親子:「ニッシー! あんたまだおったんかいな!」 と見事なハーモニー。
ニッシー:「自分らがまだ飲んでいけ、言うたんちゃうんか?」
お母さん:「ホンマに立って飲むて思えへんやろ。アホちゃう?」
娘さん :「この変態はほんま何考えてんのかわかれへんなぁ」
ニッシー:「もう、ここは世界一失礼な店や・・・!」
またまた、この繰り返しで夜もふけていくのでした・・・。
同じ事が繰り返されるとわかっていても面白いところは全く吉本新喜劇と一緒ですね。誰がどこで何のギャグを言うとわかっているにも関わらず、聴衆の人もそれを期待して待っていて、期待通りの展開にどっと笑いがでる・・・。
ホント、お好み焼きとお笑いは関西の偉大な文化だなぁ・・・って思います。

 

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そういえば商売のことを「商い」は「飽きない」と言うのも関西の文化ですよね。辛抱強く同じ事を繰り替えす事で技能が身につき、物事が成熟する事は多いと思うのですが、はやり同じ事を飽きないように辛抱強く行うには、同じ事の繰り返しの中に「笑い」を取り込むことが必要なのかもしれません。 つまらない、おもしろくない・・・と思いながらいやいや物事に取り組むよりは、技術の習得までの訓練の積み重ねの中に「面白さ」を見つけることは非常に大事な事だと思います。 

私も日々医学の研究を行いますが、殆どは失敗の連続ですし、皆さんが想像するようなわくわくした成果がでる事は非常に稀です。
地味で同じ事の繰り返しが9割9分以上と言っても過言ではありません。
日常の同じ事の繰り返しの中にこそ、「笑い」が必要なんだ、って関西人は気づいていたのかもしれませんね・・・(^○^)

ああ、今回も原稿書くのに疲れたので、また、美味しいお好み焼きを食べたくなったなぁ。・・・でも、ダイエットも忘れずに!・・・(^○^)