第17回 (2004年08月) 「ホテル」

  

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こんにちは! 異人館通クリニックの柴田です。
今年は本当に暑いですね。避暑のために旅行の計画をたてていらっしゃる方も多いと思います。夏の旅行は紫外線対策を十分に注意して楽しんでくださいね。

皆様は旅行はお好きですか?私は、クリニックをオープンしてからは時間をとることができず、大好きな海外旅行もなかなかできないのですが、勤務医の頃は学会や個人の旅行などを含めて、海外旅行に行く機会は結構あったように思います。私の場合はあまり観光やお買い物はしないので、海外旅行の楽しみと言えばもっぱら「食事」と「ホテル」ということになります。食事についてはこのクリニック通信でもさんざん私が食いしん坊である事を告白しているので、今回はホテルについて書いてみたいと思います。

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確か高校生の頃ですが、アーサー・ヘイリーという人の小説で「ホテル」というものを読んだことがあります。ホテルを舞台にしたドラマで、息詰まる緊張感と人間模様を描いた秀作です。
その物語の中で、常に一人の物静かな老人が存在します。そのホテルを気に入っていて半ば住みかにしている、年金生活者のような老人です。物語の中では常に影のような存在でした。ホテルの従業員はそのホテルを愛しており、一生懸命ホテルの発展の為に働きますが、何かのごたごたに巻き込まれて倒産寸前になります。誰しもがあきらめかけた時に、ある人がそのホテルを買収して救います。皆は「神の手がさしのべられた」ような気になったのですが、なんとそのホテルを 買収したのは、その引退老人だったのです。彼もそのホテルを愛する一人であり、本当は億万長者だったのです。
その人のお陰でそのホテルは救われるというストーリーだったと思います。
(随分と前の記憶なので少し違うかもしれませんが、お許しを・・・)

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日本で言えば水戸黄門の「ご隠居」のような人だったんですね。
最後の決めてが「葵の印籠」ではなく、「個人財産」だったと言うのが欧米らしいですけど・・・(^o^)

その頃の私といえばバレー部の練習に打ち込む毎日だったのですが、なんだか「こんな素敵な大人になれたらいいな・・・」と思っていました。この老人は常にロビーやレストランに現れては物静かに過ごしているのですが、ずっと静かにこのホテルに関係する人達を観察し、人々の人間性と能力を見抜いていて、最後には正しい決断をするのです。

あれから何年(何十年?)もたったのですが、その影響か今でも海外のホテルに滞在する時は、ロビーやロビーのカフェで静かに時間を過ごすのが好きです。そこを行き交う人々を観察して、色々な人間模様を想像したりするのです。日本のホテルでもいいのですが、やはり色々な人種がいて想像力をかき立てられるのは、海外の一流ホテルですね。
リムジンで乗り付ける大金持ちのような人もいれば、あきらかに人目を忍んでいるカップルもあり、はてはマフィアのボス同士のミーティングではないかというような光景もあります。リタイヤして悠々自適、身なりのきっちりとした老夫婦が仲良く手をつないで入ってくる事もあります。
それぞれすべてにドラマがあり、生活があり、社会があるようで、見ていて全く飽きがこないのが不思議です。海外旅行の楽しみをあげるのであれば、一番は現地での食事なんですが(ホント、食いしん坊なんです・・・(^_^;) )、このホテルのロビーで過ごす静かな時間が2番目にくるのではないかなと思います。

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最近では学会の関係で、香港の「ペニンシュラ」というホテルに滞在する事がありました。世界的に有名なホテルですので、皆様もご存じの方が多いと思います。もう15年も前の事ですが、実はこのホテルは私がまだまだ駆け出しの勤務医の頃に、かなり無理をして泊まったことがありました。
このホテルはロビーのフロアー全体がカフェのようになっており、当時はアフタヌーンティの時間になるとハープの演奏などがあり、ロビーの様相は香港というよりは欧米の社交場のような雰囲気でした。
中でも一番印象的だったのは、ロビーで待ち合わせをしている人へメッセージを取り次ぐ際に、館内放送などはせずにプラカードのようなものに名前を書いて、かわいい音色の鈴を「チリリン、チリリン」とならしてボーイさんがロビーを回っている光景でした。

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カフェにいると何度となく、その「チリリン、チリリン」と言う鈴の音が聞こえてくるのですが、全く違和感なく、むしろ心地よい音色がロビーカフェにとけ込んでいたのを記憶しています。
本当に何時間もそこで静かな時間を過ごしたものでした。

ところが今回の滞在では少し様相が違っていました。欧米の方が減ってアジアの人(多分、中国の人)が増えたのも印象的でしたが、あのロビーでの「チリリン」が聞こえてこないのです。それもそのはず、携帯電話がこれだけ普及すると、待ち合わせで連絡を取るにしても携帯電話を利用しますので、メッセージをボーイが届けるということがなくなってしまったのですね。
そのかわり、ロビーの至る所で携帯電話で話をする人の姿が目につきます。香港の方が読んでおられると申し訳ないのですが、私の印象では香港の方は実に大きな声で携帯電話でおしゃべりされるようです。至るところで着信音が鳴って、常時誰かが携帯でおしゃべりしている・・・そんな光景でした。

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「ああ、あの鈴の音はもうなくなったんだな・・・」と思っていた時に、遠くから「チリリン、チリリン」と鈴の音が聞こえてきました。 そちらの方を見ると昔のまま、ボーイさんがプラカードに名前を書いて、鈴をならしてロビーを回っているではありませんか! 15年も前の風景や思い出が、まるで昨日のことのようにどんどんよみがえってきました。
「チリリン、チリリン」という静かな鈴の音はまるで魔法のように眠っていた私の記憶を呼びさまし、しばしのタイムスリップを楽しむ事ができました。

そうなると今度は、一体どんな人が携帯電話ももたずにペニンシュラのロビーで待ち合わせしているのかが気になってきます。ずっと目で追っていると、ある老婦人がボーイを呼び止めました。お年の割にはちょっと派手目の赤いツーピースを優雅に着こなされ、エレガントなマダム・・・と言う感じです。

 

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その老婦人がボーイに何か話すと、ボーイはそそくさと引き下がっていきました。遠くの席だったのでどんな会話をしているのかはわかりませんでしたが、再び同じボーイが、フロントから一通の手紙を銀盆にのせて、その老婦人の元に戻ってきました。何かのメッセージだったのでしょうけれど、その銀盆の上にはメッセージ封筒とともに、一輪の真っ赤な薔薇が添えられていたのです。その老婦人は満面の笑みでお礼を言い、ボーイからメッセージ封筒と一輪の薔薇を受け取っていました。私の勝手な想像ですが、待ち合わせをされている旦那様が 仕事の都合で少し遅れてしまうという連絡をするのに、携帯電話を使って直接連絡をするのではなく、ホテルにメッセージを届けさせるように手配をし、その時に薔薇の花を一輪そえるように指示したのではないか・・・と思いました。
う~ん。なんて素敵な旦那様なんでしょう!!
(私の願望も思いっきり入った勝手な想像ですけど・・・(^o^) )

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その光景を見て何だか私の方もとっても嬉しくなってしまいました。携帯電話よりも何倍も素敵なメッセージの伝え方があるんだな、と。そしてこんなに忙しくなった現代でも、このような粋なことをされる方がいらしゃるんだな・・・と。

当クリニックでも素敵なドラマを持った患者様が沢山いらっしゃいます。お陰様で来院された方は1000名を超えました。皆様のお話をお聞きするたびに 新鮮な感動があり、私も多くの事を勉強させて頂く毎日です。

日常生活の中に、一輪の花を添えるだけでもとっても素敵で楽しく、心がうきうきするものだと思います。私の方は本当に微力なのですが、美容医療を通じて皆様の人生に小さな一輪の花を添える事ができれば、これに勝る幸せはないと考えております。