第149回 (2015年8月) 「香りの科学」 

  

こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。急に暑くなりましたが、皆様は体調など崩されていませんか? 暑くなると、汗の臭いが気になりますよね。この季節になると友人の会社では、若手社員A君の体臭がかなりきつくなるそうで、鼻のいい女子社員のクレームがすごいんだそうです。私はそれほど臭いに敏感ではないので人の体臭はあまり気にならないんですが、世の中、鼻が超いい人っているんですよねぇ。うちのクリニックのスタッフも2名はその超臭い敏感タイプで、しょっちゅう悪臭に関して嘆いています。ここまで敏感だとかえって不幸だと思うんですが・・・。そのA君は日頃から汗かきな上、一生懸命動いたり緊張したりするとドッと汗をかくので、性格はいいのに鼻のいい女子から非難されたりするかわいそうなキャラだそうで、ちまたでは「アロマペンダント」なる物が流行っているのでA君にアロマペンダントを付けさせようなんて話が出ているそうです。なんとも気の毒な話ですが、鼻のいい人達にすると死活問題らしく、かなりまじめに議論されてるみたいです。





そんな季節の中にあって最近、クリニックの隣のヨガ教室で改修工事があり、塗料などの悪臭が流れて来ました。さすがに診療中は困るので、「なんとかして欲しい」と苦情を言うと、アロマディフューザーを貸してくれたんです。使ってみると「おや・・・?」花の香りがふんわり漂って、なかなかいいではないですか。以前患者様から「注射の時は緊張するから、アロマとか焚いてくれたらな~」と言われた事があり、導入しようと思いつつ忙しさにかまけて延び延びになっていたので、早速アロマディフューザーとエッセンシャルオイルを買ってみました。

そんな時、姉から電話がありました。ちなみにこの通信には私の身内では先日亡くなった母はよく登場していますが、姉の話はほとんど書いた事がありません。なので、ちょっとばかり姉の予備知識を入れておかねば話がうまく伝わらないかもしれませんので、解説を加えますと・・・。姉と私は姉妹でありながらかなり性格が違います。ま・・・正反対と言ってもいいかもしれません。私の方はサバサバ即決型の男子タイプですが、姉は優柔不断で典型的な女子タイプです。ちなみに私の性格は母親にそっくりなんですが、姉は父親にそっくりです。まぁ、父と母はこうも性格が反対なのに、よく夫婦を50年以上続けられたなぁ・・・と感心するのですが、性格が反対というのが実は長続きには良かったのかもしれません。




その姉ですが、すごく心配性で「これはなんか詐欺かもしれないから絶対に気をつけなきゃ・・・」と何かと臆病なくせに、雑誌などで話題になるが理屈の分かっていない「体の毒素を排出し、元気もりもりになる魔法の水素水」とかの類は熱烈に支持して毎日律儀に使っています。先日亡くなった母の遺品を整理しようとしたら、全然使わない古い食器でも「これは思い出の品だから捨てられないなぁ・・・」と言い、私ならためらいなく捨てるボロボロの衣類でも「どうしても捨てるんだったら写真とっておかなきゃ・・・」と言って断捨離ができない人です。言うまでもありませんが、買い物なんかでも迷い倒し、付き合ってたらいくら時間があっても足りません。・・・って言うと、なんとなくどんなタイプか想像できました? 家事も苦手で何でも時間がかかるのですが、親にしてみると手のかかる子ほど可愛いらしく、成人してからも親が常に姉の面倒を見、親が病気になったりすると私が親の面倒を見る・・・という状態でした。それでも優しいところは父親似で、誕生日なんかにはこまめに手書きのカード付きでプレゼントをくれたりします。誕生日でなくても家族の好きな物は覚えていてこまめに買ってくれたりし、メールはもちろん絵文字が溢れています。母や私と違って文句があってもはっきり言わないし、怒ったところはあまり見た事がありません(これも父親似)。母もよくクリニックのスタッフに姉の説明をする時は「姉ちゃんはこの子(私の事)と全然違うねんで。この子は男みたいやけど、姉ちゃんはおとなしぃてフニャフニャしてるねん。そやけど優しいで。この子みたいにすぐ怒れへんねん」って言ってました。(う・・・ん。この通信は姉も時々見ているので、事前に言ってフォローしておかなきゃいけないかな・・・。まぁそういう心配が必要なタイプの人です・・・。)




前置きが長くなったのですが、その姉によるとなんでもボケを改善するアロマが検証できたというテレビ番組を見て、父に使ってみようと・・・。(こういうのに影響を受けやすいのです・・・分かりますよね?)母が亡くなってからは、90歳になる父ががらんとした広い一軒家(と言っても要らん物が溢れていて、実際にはがらんとはしていないのですが・・・)で一人暮らしになってしまい、父は今までしっかりしていたのに急に物忘れがひどくなったので、藁をも掴む・・・という感じです。調べてみると、鳥取大学のU先生の「認知症にアロマが効く」という研究発表が話題になっているようですね。適切な香りをかぐ事で嗅神経を刺激して嗅神経と繋がっている海馬(脳の記憶を司る部分)も活性化するという事らしい。近年の研究では、認知症を発症すると最初にダメージを受けるのは嗅神経である事が判ってきたそうです。嗅神経のダメージが海馬に伝わり、認知症が悪化するらしいのですが、嗅神経は他の脳神経とは異なって再生能力が高く、嗅神経を刺激する事でその機能を再生させればそれに繋がった海馬も活性化し、認知症の予防・改善に繋がるという事です。U先生はどんな香りが嗅神経に良いのかを分析して、選んだ香りを認知症の患者にかいでもらう実験を繰り返し、ローズマリー・レモン・ラベンダー・オレンジの香りを認知症患者10人に1ヶ月間かいでもらったところ、認知症の治療薬とほぼ同等の効果が確認された、という研究論文を2005年の日本認知症学会誌に発表したそうです。




嗅神経が脳の神経と直結しているという事は私も日常生活でよく体験します。一番典型的なのは「ある香りをかいだ時、昔その香りをかいだ時の記憶が鮮明に浮かび上がる」という事です。草の香りをかいだ時、子供の頃に草むらで遊んだ状況を急に思い出して、「あぁ・・・あの時の香りだ!」っていうような事ありませんか? 人間の脳がそんなに古い記憶を持っている事にも驚きますが、そのような記憶は普段は脳の奥にしまわれていて出てくる事はありません。ところがその時にかいだ同じ草の匂いをかぐ事で当時の記憶が鮮明に蘇ってくるから不思議です。逆の理屈でいやな記憶を消したい時は、それにまつわる匂いを排除すべきですね。別れた彼氏を早く忘れたかったらその人の匂いは完全に抹殺すべきです。何かの拍子に元彼が着ていたTシャツとかが出てきてその匂いをかいでしまったら、彼との思い出が蘇ってノスタルジーの罠から抜け出せなくなるかもしれませんからね・・・。そう言えば後輩に「今の彼とは遠距離恋愛であまり会えないので、彼の着たTシャツをジップロックに入れて時々匂いをかいで彼の事思い出したりするんですけど、私って変態ですかねぇ?」って相談された事がありました。その時は「誰にも迷惑かける訳じゃないし、いいじゃん。私達女医の変態度なんて、男の医者の変態度に比べたら大した事ないよ。ノーマル、ノーマル」って言ってあげたら「あぁ・・・そうですよね。T先生やK先生の変態度に比べれば全然問題ないレベルですよねぇ!」って妙に安心してました。(ま・・・世の中の医者の名誉の為に言っておきますと、大部分の男の医者はノーマルです。ただ、中には変態が混じっていて、なぜかそれを悪びれる事なく表に出している人がごく少数いるというのも事実なんです。医者の世界ってやっぱり特殊なのかもしれませんねぇ。)いずれにせよ、この後輩はちょっと変態的な使い方ではあるが、独自の方法でアロマ療法(?)を効果的に実践していたという訳です。




そんな訳で、記憶と匂いは密接な関係があるという事は研究者の間では昔から言われており、香りを使って記憶力や脳の活動を高めるという研究は盛んに行われています。そう言えば先般テレビで「甘い香りをかぐと人間の脳は理性を司る領域の活動が鈍って理性的な行動をとりにくくなるので、それを利用してブランド物など高級品を売っているお店では店内に甘い香りを漂わせている」って紹介されてました。甘い香りをかぐ → 理性的な判断が鈍る →後先を考えずに散財してしまう・・・というのが狙いなんですね。その番組を見た後に、大丸やそごうに行ったのですが、本当にそうなんですよね! まぁ、高級ブランドのフロアーに行くと甘い香りのオンパレードです。「あぁなるほど、こうやって理性をなくさせて散財させる気だな・・・。そんな甘い罠にかかるものか!」と、私なんかはかえって闘争心を煽られてしまうんですが、そこがやはり私の男型と言われる所以なのかも。姉だったら一発でノックアウトされて、必要のない物まで買い込んで家の中を物で溢れさせるんだろうなぁ・・・と想像してしまいます。(姉の家はとにかく「いつ何に使うの?」と思うような物が溢れていて、片付けが下手なので足の踏み場が殆どないのです。もしかしたら、本人はその状態が心地良いと感じているのかもしれませんが、逆に片付けをしたくなる香りってないのかな?)




話が脱線しましたが、アロマセラピーをボケ防止に使うという事に話題を戻すと、日々物忘れで悩んでいる認知症予備軍ぐらいの方に劇的な効果があるようです。ここ3年で急激に物忘れが増え、食事の支度中に他の事をすると食事の支度をしてたのをすっかり忘れ、他の事を始める・・・という、認知機能の数値(14以上で認知症と判定される)が13で認知症予備軍が疑われるレベルと判定された72歳の人の実験では、昼間はアロマペンダント装着、夜は寝室でアロマディフューザーを使用しての1週間のアロマ療法後は、認知機能の数値が正常範囲内(0~7)の2になるという劇的な改善で、行動も、料理中煮物の様子を見てから洗濯物を取り込んでたたみ、すぐに台所に戻って煮物の様子を見て、パソコン2台で別の情報をチェック、なんて感じで複数の事をテキパキできるようになり、認知症予備軍から一気に脱却したらしい。また、少し物忘れがある程度の正常レベル範囲で認知機能5の66歳の人にも試したところ、認知機能5→3とこちらも確実に改善し、正常レベルの人にも効果がある事が判ったらしいので、物忘れがあまりなくてもテキパキ仕事をこなしたい方にもアロマ療法は良いのかもしれませんね。




そんな訳で、早速姉がアロマペンダントを買って父にあげたけど、オイルが高かったので少ししかあげてない・・・と言うのでネットで検索すると、もうこの認知症用のオイルのセットが溢れています。さすがにみんな商魂たくましい・・・。中にはローズマリーとレモンを2:1、ラベンダーとオレンジを2:1で昼用と夜用にブレンドした物まであったので、それをアロマディフューザーと一緒に父にプレゼントしました。ついでに自分でも実験してみようと、アロマペンダントも購入。(テキパキ仕事をこなせるようになるかな?)さて、それからしばらく経って父に電話して様子を聞いてみました。
「あのアロマ療法やってみてどう? 最近何か変わった? 物忘れとか改善した?」
と聞くと、父は
「え? アロマ? 何かいな・・・そんなんあったかいな?」・・・・・・。がぁ・・・ん。

しまった! アロマ療法の効果はアロマ療法を行った後でしか出ませんから、そもそも
アロマ療法をするという事を忘れてしまう人にはもちろん効果は出ませんよね。
これは前途多難だなぁ・・・。 




後日談なんですが・・・。少し父を擁護しておきますと、アロマ療法の事をすっかり忘れていたというよりは、母の亡き後、家があまりにも片付かずに物が溢れ返っているため、その中にアロマキットが埋もれてしまってどこに行ったのか分からない状態だった・・・という事でした。だから散々言ったのに・・・要らない物を捨ててすっきりさせようよ!って。しかし姉と父という優柔不断最強コンビの抵抗で、なかなか家の片付けは進みません・・・。

実は、父は姉と姪を猫可愛がりでずっと面倒を見て来たので、父が一人になったら姉が父の面倒を見る約束でしたが、母が亡くなる前に「お父ちゃん見たってや」と言っていたので、母亡き後は私も休みの度にせっせと実家に通いました。しかし実家は物が溢れている上にずっと掃除もしていなかったらしく、年老いた父が住んでいると病気になりかねない状態。「えらいこっちゃ!」と片付けにかかりましたが、姉や姪が来ても手が遅い上に力仕事ができないので、結局片付けはほとんど私がするハメになってヘトヘトに・・・。母のためにも初盆までには片付けたかったんですが、間に合いそうにないので「業者に頼んで要らん物を捨てよう」と父に提案したところ、父がOKしたので(後で聞くと玄関に積み上げられた本だけの事と勘違いしたらしい・・・)早速廃品処理とハウスクリーニングの会社を10件ほど当たり、比較表を作って良さそうなところをピックアップ。5件に見積を依頼し、初盆の前の週を予定日にして姉に「まだ2週間あるから、必要なものだけピックアップしといて」と連絡すると、断捨離ができない姉は大慌て。父に泣きついたらしく、父も「やっぱりいやや」と言い出す始末・・・。ちょっと即決しすぎたかな? 医療や経営は即決しないとやっていけないので、いつもの癖でつい・・・。「費用は私が持つから」と説得したんですが、二人が難色を示すので、いやいやするのもなぁ・・・と諦め、姉の好きなようにと任せる事にしたんですが、いつ片付く事やら・・・。やっぱり「片付けアロマ」を探す事が必要なようです。

さて、クリニックでも玄関でアロマを焚き出したところ、鼻のいいスタッフも上機嫌。各部屋にもアロマストーンを買って、アロマオイルを垂らしてみました。アロマを使って、診療時の雰囲気も少し変えてみたいと思っていますので、皆様のリクエストがあれば、是非教えてくださいね。よろしくお願いします!