第135回 (2014年6月) 「プラセボ効果」

  

こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。新緑が眩しい季節になってきましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? GWは楽しまれましたか? 私はと言えば、今年はいろいろ問題が起きて(今年だけではなく毎年の事でもありますが・・・)、GWは仕事漬けとなってしまいました。そんな連休が明けたある日の事、一本の電話がありました。昔大阪で勤務医をしていた頃によく行っていた東三国のフレンチレストランがあるのですが、神戸に来てからは自然と足が遠退き、最後に行ったのは多分5年以上前なんじゃないかな・・・というお店のオーナーシェフMさんから、数年ぶりの連絡でした。こんな時って着信画面に名前が出る機能、本当に助かりますよね。知らない電話番号だったら出ないところなんですが、着信画面のMさんの名前をみた瞬間、人懐っこくて憎めない彼の顔を思い出してしまい、「はぁい! Mさん! 久しぶり!」って一オクターブ高い声で電話に出たもんだから、Mさんは一瞬固まってしまったようで、「あ・・・あのぉ・・・。柴田さんですよね?」って確認されてしまいました。

要件というのはMさんの先輩でもあり、これまた大昔、私が芦屋に住んでいた頃に行きつけていた小さなカウンターフレンチのオーナーシェフをしていたKさんが亡くなったという事のお知らせでした。「へぇ・・・あのKさんがねぇ・・・。まだ若いのに・・・。それに死ぬようなタイプじゃなかったけどなぁ・・・」と感慨に耽る事しばし・・・。Kさんは豪快で押しも強く、いわゆるクセのある名物シェフでしたが、私は鈍感なのか、その辺をあまり気にする事はありませんでした。それよりも当時はカウンターがあって一人で行けるフレンチレストランなんかなかったし、料理は結構美味しかったのでそちらを重視していたんですが、一緒に行った友人の中には「あのアクの強いシェフはどうも苦手で・・・」という人が結構いたのも事実です。だからと言って誰かに恨みをかったり藁人形で呪われたりするような人でもないので、ちょっとビックリです。Kさんが昔芦屋でカウンターフレンチをしていた頃はお店は結構流行っていたのですが(流行っていたように見えたが・・・お店が小さかったから、数人いるだけでいっぱいお客さんがいるように感じたのかもしれません)、その後北野に移転し、お店が広くなってカウンターがなくなり、オシャレな今風のフレンチレストランになってからは流行らなくなったようで、ついに数年でお店をたたむ事に。Kさんは再び他のレストランに就職する事になり、「雇われの方が気楽でいいよ・・・ガハハハ!」と豪快に笑って話していました。その後は10年以上お会いしていません。北野にいた頃はKさんのお店を貸切にしてもらって高校の同窓会をした事もありました。私のクリニックが北野にあった頃はお店が近かったので時々料理を届けてくれたり、根は優しい人だったのになぁ・・・。(私にとっては美味しいものを提供してくれる人はみんないい人になってしまいますが・・・。)ほんとに残念です。

Mさんの話によると、Kさんはお酒の飲み過ぎで肝臓を悪くされたらしく、それでも飲み続けて、死ぬ間際までシャンパンを飲んでいたんだとか。お酒が好きな人は本当に医者が止めようが周囲が心配しようが「お酒を飲んで死ねたら本望だ!」みたいな事言って、本当に死んじゃう人がいるんですよねぇ。そう言えば私の知り合いのお父さんも大の酒好きで、食道癌になって手術した後に自宅療養している時でも、お酒を飲みたいけど飲めないというジレンマから、とうとう点滴にお酒を勝手に注入し、体内にアルコールを入れていたという酒豪がいました。ここまでくると酒豪なのか単なる命知らずなのか分かりませんが、まぁ本当にお酒好きな人は周りが止めてもやめられないって事ですね。

Mさんと、「お互い飲み過ぎには気をつけよう」と誓い合いました・・・^^;)。

ワイン好きのMさんも血液検査では肝臓の機能低下を示す数値がかなり高いらしい。私は結構ワインを飲むのに肝機能が正常なのは、プラセンタ点滴をしょっちゅうしてるからかもしれません。プラセンタは今は美容で使われる事の方が断然多いと思いますが、元々は肝臓の薬なんです。Kさんにもプラセンタ点滴をもっと勧めれば良かったなぁと思いますが、時すでに遅しかぁ・・・。

そんな訳で久しぶりにMさんとお話する事に。大阪にあるMさんのお店にも6-7年は行ってないのですが、お聞きする限りでは結構流行っているようです。最初は私が大阪の病院にいる時にグルメガイドでみつけたお店で、料理とワインはかなり美味しいのですが、ちょっと変わった店なんです。そもそもフレンチレストランって皆様はどんなイメージをお持ちですか? オシャレな内装にタキシードを着たソムリエ君が恭しくおすすめのワインなんかを持ってきて、葡萄の講釈をたれている間に隣の席では本日の前菜が綺麗なお皿に繊細に盛りつけられて静かに運ばれてくる・・・。「本日のメインには92年もののボルドーを合わせられてはいかがでしょうか・・・。特にこの生産者は保守的と言われているボルドーの地域にあってもアバンギャルドな作り手として、35歳の若さで90年にはコマンドール賞を受賞しておりまして・・・うんぬん」なんて話を聞かされならがらも「たまにはこんな贅沢もいいわよね・・・」なんて思いつつ、美味しい料理に美味しいワイン、そして少し文化的な雰囲気に酔いしれる・・・そんな感じじゃないですか? まぁ・・・言っては悪いのですがMさんのお店はそんな雰囲気は全くありません。今でこそビストロとかバールといった、レストランほどお高くとまってないけど、居酒屋ほどカジュアルでもないという、ワイワイ仲間と楽しめる洋食屋さんが増えましたけど、私が当時Mさんのお店に行っていた頃はそんなジャンルのお店はほとんどありませんでした。なのでちゃんとガイドブック(今だったらネットの食べログとかなんですが、当時はネットもありませんから「あまから手帖」みたいな純然たるガイドブックです)にはフレンチレストランとして掲載されていました。

そんなMさんのお店ですが、内装はまぁ・・・少ししょぼいがフレンチの面影はあります・・・^^;)。しかし、問題は客層。当時のフレンチレストランには珍しくカウンターがあったのですが、そこはいつも常連のオヤジ達で埋まっていました。大体、男の人って一人でフレンチを食べに行く事ってほとんどないでしょう。なのでフレンチと言えば大抵カップルか女性同士って相場が決まっているのですが、ここは見事なくらい男性ばかり。しかもいい年したおっさん達の巣窟なんです。中には酔っ払ってカウンターに突っ伏して寝てる人も・・・。私も自慢じゃないですが結構フレンチレストランには行きましたが、近所のおっさん達がワインで酔っ払ってカウンターで寝ているフレンチは初めてです・・・^^;)。さすがにシェフのMさんもそれはまずいと思ったのか、料理を運ぶ合間に一生懸命声をかけて起こそうとしたり、珈琲をサービスしたりしてました。それでも珈琲を一口すすると又そのままカウンターで高いびきの豪傑もいて、もう呆れるのを通り越して笑ってしまいました。そう言えばキャバクラと間違えて女の子連れで騒いで、出入り禁止になったというオヤジもいたなあ・・・。こんな書き方をすると何かとんでもないお店に聞こえるかもしれませんが、実は私は結構そのお店がお気に入りだったんです。今でも神戸に引っ越してなかったら、近所のオヤジ達に混じって夜な夜な酒盛りしてるんじゃないかな・・・って思うくらい。Mさんの名誉の為に言いますが、彼の作る料理は結構正統派のフレンチで、とっても美味しいんです。そして彼はワインにも造詣が深く、小さなお店にしては珍しくロマネ・コンティとかムートンロートシルドみたいな超高級ワインも置いています。(ただ、そんな高級ワインをお客が頼める訳もなく、ほとんどはMさんが自分で飲んでいるみたいですが・・・^^;)

実は世の中にはフレンチが好きなオヤジもいるんですよね。ただ、どうしても普通のフレンチレストランは敷居が高くて気軽に一人で楽しめない。そんな抑圧されたフレンチ大好きオヤジ達がどこからともなく噂を聞きつけて夜な夜な集まるようになった・・・ってところだと思います。そして電話で話をした限り今もそのスタイルは変わっていないようです。最近はドクターの利用が多く、勉強会に使ってもらってその時気に入ってくれた先生が京都から通ってくれたりするんですよ・・・とはMさんの談ですが、通っている先生は間違いなくオヤジです。京都にはそんなお店ないですもん・・・。Mさんのお店は、オヤジが行ける数少ないフレンチだから流行るんでしょうね。一方Kさんのお店は、芦屋にあった頃はカウンターが常連さんで埋まるお店でしたが、北野に移転して広いテーブル席ばかりのお店になった途端にガラガラに。芦屋の時は、当時なかった「一人で行けるカウンターフレンチ」だったから支持する人がたくさんいたけど、北野に移転してから一般のフレンチになったので、支持する人が少なくなったんだと思います。普通のフレンチレストランだったら、北野にはもっと美味しいお店やお洒落なお店はいっぱいありましたから。

よく顧客のニーズを満たさねばならない・・・って言いますが、お店って店の主人がしたい事とお客さんが望んでいる事が必ずしもマッチしないところが多いのが現実なんだと思います。その点Mさんのお店は見事にMさんがしたい事(私が想像するに、お客さんとワイワイ言いながら美味しいワインを毎日飲める事。たまにはお店の仕入れだとか税務署に嘘ついて高級ワインを自分だけの為に開けて一人で飲み干す事・・・^^;)あくまで私の勝手な想像ですが・・・。)とお客さんが望んでいるお店のスタイルが見事にマッチして、地域オンリーワン店になっているようです。そして、人は支持されていると長生きできるんだと思います。MさんもKさんに負けず劣らずお酒が好きで肝機能がめちゃ悪くても結構元気でバリバリ働いてるのは、Mさんを支持するオヤジがたくさんいるからなんでしょうね。私も自分のクリニックを運営する上で、患者様が望んでいる事と自分が行いたい事が乖離していかないように注意しなければと改めて思いました。ただ、これは患者様にすべて迎合するという事ではないと思っています。自分が信じる道まで無意味に妥協するのでは意味がありませんよね。Mさんのお店も、しっかりと美味しい料理を作るという事では彼はブレていません。ただ、独りよがりになってはいけないんだ・・・と思いました。誰かに支持されるのには支持される理由がある。勿論、支持されない場合にもその理由があります。それらの理由を謙虚に受け止めて自分のやりたい道と融合させる・・・それが本来あるべき姿なんじゃないかな・・・って思った次第です。

柴田 :「今度Kさんの追悼会しなきゃね・・・」
Mさん:「本当にそうですね。うちのお店でやってください」
柴田 :「そうだね。たまにはMさんのところにも行かなきゃねぇ」
Mさん:「そうですよ。柴田さん来られたらきっとモテモテですよ」
柴田 :「それって単に私が唯一の女だから・・・ってだけの理由でしょ」
Mさん:「いやいや・・・そういう意味では・・・。あれからも面白い人沢山来てますよ」
柴田 :「それじゃ・・・今度行くからとっておきのワインを1本サービスしてよ。 私はプラセンタ5本位持っていくから・・・」
Mさん:「それじゃウチの割が合わないじゃないですか・・・」
柴田 :「そんな事ないよ。プラセンタだってワインと一緒で高級な材料だけ集めて作った普通には手に入らない特級品があるのよ。製造メーカーの人達が、 ある種のDNAを持った人達から奇跡的に胎盤を回収する事ができた時だけに取れるプラセンタは別に分けて製造するの。それは年に数本しか取れないから1本数万円で取引される事だってあるんだから」
Mさん:「え!!ホントですか! じゃ・・・是非それを一度持って来てください。替りにウチ秘蔵のマルゴーを開けちゃいますよ」
柴田 :「うん。そうします。じゃ・・・是非、次の機会に!」

ってな感じでまんまと丸め込んじゃいました。勿論、特級品プラセンタなんてものはありません。これはちょっとした冗談なんですが、そう信じこませて実際にどんな効果が出るのか見てみたいんですよね・・・。薬品の世界ではプラセボ効果といいますが、被験者が「効く」と信じて飲んだ薬は薬効成分がない擬似薬(プラセボ=プラシーボ)でも実際に効果が出る事がかなりの確率で発生します。このプラセボ効果を確認したいという研究が目的であって、Mさんを騙そうとしているのではないのであしからず・・・(^^)。ただ、実際は私も以前に「このシャトーマルゴーは奇跡の年と言われたぶどう豊作の年に、全体の収穫量のわずか5%だけを特別によけて作られた貴重なワインで・・・」ってMさんに聞かされて「うん! さすがに美味しい! こんな高級ワインが飲めるなんて幸せ!」って言った事があるんです。すると、「実はね・・・それ本当はマルゴーじゃないんですよ・・・。1本数千円のワインなんですけど、すごいでしょ。マルゴーって言われればそう思うくらい美味しいでしょ!」って満面の笑みでMさんに自慢された時の恨みが未だに忘れられず、いつかこのカタキを打ってやろう・・・って思ってたんです。いよいよこの時が来たんだ! もしかしたらフレンチレストランって、大きな意味でプラセボ効果の塊なのかもね。信じて食べれば美味しいし、信じて飲めば美味しいのかも。気の合う仲間とワイワイガヤガヤ食べて飲む事でプラセボ効果があるんだったら、喜んで擬似薬もらっちゃいます。あのお店ではMさんが一番のプラセボなのかも。今宵もMさんのお店ではオヤジ達が集ってワイワイガヤガヤやりながら、夜も更けていってる事でしょう・・・(^^)。私も今夜はちょっと、とっておきのワインを開けさせてもらいます。Kさんの追悼をしながら・・・。