第133回 (2014年4月) 「折れない心 」

  

こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。3月になったとは言え、この原稿を書いている今は三寒四温で寒い日もありますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? このクリニック通信がお届けできる頃には春の到来を感じる事ができるようになっていればいいな…と思っています。

  ところで先日、京都で開催された再生医療学会に参加してきました。学会前に開催された市民公開講座には学会長のT先生から直々に誘っていただいたので、市民公開講座にも参加することにしました。T先生と言えばクリニック通信第120回にも登場した、すごい経歴を持ちながらコテコテの大阪弁、気さくでめちゃ面白い先生です。市民公開講座では再生医療の最先端治療が分かり易く講演され、一緒に参加したコロコロS君も楽しめたようです。  

以前のクリニック通信でも書きましたが、再生医療とは細胞を活用する事によって自己組織の再生修復を行う治療で、世界が注目している最先端医療です。現在は、培養細胞で作った細胞シートで傷んだ組織を修復する治療や、細胞に食べ物(細胞増殖因子)や家(細胞の足場)を与え、環境を良くする事で細胞の持つ自己治癒力を高めて病気を治す治療が発展してきており、網膜の病気で失明した人に視力を取り戻したり、傷んだ関節軟骨を再生する治療も始められたようです。ただ、これらの素晴らしい治療の臨床研究に対する大きな壁が法律であるようで、新しい治療であるがゆえにこれはダメ、あれはダメと数々の規制があってなかなか臨床化が進まず、これらの研究に携わる方は苦労されてきたようです。(私もクリニック移転の際には「シミ・シワ専門クリニック」というクリニック名をお役所が認めてくれず苦労したので、役所が新しい事をしたくないのはよく分かります。…ちょっと次元が違うかな?)そして2013年にやっと「再生医療推進法」という法律が成立して法律による障壁が緩和され、2014年は「再生医療元年」とも言うべき年となり、再生医療の飛躍的な発展が期待されているそうです。

今までクリニック通信で学会の事はさんざん書いてきたので、熱心な読者の皆様?はすでにご存知と思いますが、医者の集まる学会って基本的には非常に「真面目…」な雰囲気です。唯一の例外が高須クリニックの高須克弥院長率いる美容系の学会ですが。ここは非常に華やかで途中にエンターテイメントもあったり(そう言えば、「郷ひろみ」が歌ってた事もあったなぁ。あの時はお医者さんだけでなくその奥様方も大量に会場に詰めかけていて、学会なのかコンサート会場なのか分からない雰囲気でした…)かなり特殊です。でもそれを例外とすれば普通は研究発表をし、その研究について勉強したり討論したりする場なので、いわゆるアカデミックな雰囲気なんです。自分で書いておきながら変ですが、皆さん「アカデミック」って何の事か知ってます? 実は私も良く分からないんですよねぇ。でもこの「アカデミック」という英語がなんか雰囲気出るなぁ…って思うんです。そのよく分からんが、なんとなく高尚な感じがまさに「アカデミック」なんですよね~(^^)。ま、多くの学会は良く言えばアカデミック…でもその専門分野に疎い人にとってはこの上なく退屈な世界であるのは間違いありません。特に近年は研究分野がどんどん専門分化されてきているので、「アカデミック」と言うより「マニアック」…。(うん。ちゃんと韻を踏んでいてゴロがいい! このようなダジャレで「我ながらうまいこと言ったな…(^^)」と自己満足に浸っている事で、すでに一般の世界から遠のいてマニアック街道を走っている気もするが。)

ところがこのT先生が学会長に就任してから、この「再生医療学会」は大きく変わったようです。さすがに「郷ひろみ」は出てこないにしても、世間で言われる著名人を呼んで特別公演をしたり、一般の人が聞いても分かる市民公開講座を併設したり、新しい企画のセミナーやシンポジウムがあったりと、他の学会にはない特徴を出しています。そして何より学会長のT先生自身が、もうしゃべるしゃべる…(^^)。その話が又面白いのです。普通の学会では学会長は一種の権威職ですし、学会員の発表を後ろで「うん、うん」と静かに頷いて聞いているという感じなんですが、T先生は自らマイクを握って、カラオケボックスの仕切り屋よろしく、元気はつらつでしゃべりまくってました。

そんなT先生のお話の内容はまた後でするとして、今回の学会の市民公開講座では、特別公演として柔道のオリンピック金メダリストの野村選手が講演台に立ちました。野村選手は何回もの怪我で、関節軟骨の再生医療を推進されている神戸大学のK先生の治療を受けた縁で、この講座に登場する事になったそうです。野村選手は2004年、柔道史上初のオリンピック三連覇を達成。柔道一家で3歳から柔道を始めたが、中学の時は小柄でめちゃ弱く、市民大会の1回戦で女子に負けたそうな。数々の名選手を育てた柔道の名監督だった父に兄は「人の3倍努力する覚悟を持て」と言われたのに、自分は「無理して柔道せんでもええで」と言われるほど弱かったとか。しかしたまに自分より大きい人を背負い投げできるのが嬉しくて、自分の可能性をあきらめるのはまだ早いと思って頑張り、限界を超える練習をしたそうです。そして、大学4年の時にアトランタオリンピックで金メダル獲得! その時は無名で、空港でスポーツ記者に「邪魔だ!」と突き飛ばされたりしたらしいのですが、まさかの番狂わせ金メダルには本人もビックリ! そして翌日の新聞では自分はヒーローになっているだろうと期待していると、同じ日の試合で国民的ヒロインの「柔ちゃん」が決勝で負けた事の方がずっと大きく報道され、見出しにはなんと…  

「柔まさかの銀」「野村まさかの金」

この報道には本人もがっくり…(^^)。(でも、さすがスポーツ新聞! うまいこと言うなぁ。ゴロがいい! この記事を書いた人はきっと自己満足に浸っていたに違いない。アカデミックでなくマニアック…。え? もういい?) 2連覇後、圧勝して引退するのがカッコイイかと思ったが、やはり考え直して自分への挑戦を続け、3連覇を達成! 何回も怪我をして引退も考えたが、まだあきらめるのは早いと思い、数々の挫折を乗り越えて3連覇を勝ち取った。 その後も怪我と年齢と戦いながら、熱く燃え続けたくて現役を続行している…という内容でした。なんで野村選手がこんな話をしたかと言うと、これも後で分かったのですが、どうやらT先生の依頼だったようです。

そして学会総会。私は診療の都合で3日間の学会のうち2日間しか参加できませんでしたが、2日間だけでも学会長のT先生の、真の再生医療を多くの患者さんに届けたいという熱い想いがビシビシ伝わってくる学会でした。T先生は持ち前のエネルギッシュな面白トークで2日間に4回の講演と4回の座長をこなされ、講演では毎回時間超過の熱弁。10分の講演に「あ、もう20分喋ってしまいました。すんません!」T先生の後の演者の先生は必ず「T先生のマシンガントークの後は非常に喋りにくいんですが…」と言われるほどの熱弁です。早口なので普通の講演の2倍以上の内容が詰め込まれていますが、面白いので難しい細胞環境の話もすーっと頭に入ってきます。

そして前にも述べましたがこの学会は、普通の学会にはない斬新な企画が随所に織り込まれていました。ランチョンセミナーはT先生を含む演者2人と座長の3人で漫談をしようと決めたとか、難しい話ばかりではなくて楽しめる学会にしようとされていましたし、研究開発に必要な機器を作る中小企業の方達のシンポジウムなんかもありました。T先生がいつも言われている企業との連携。「これからは大学と企業が結びつかなあきませんよ。研究成果を世の中に還元するためには、商品化せなあかんのです。けど、大学でいくら頑張っても商品化は不可能です。そやから僕はいろんな企業と共同研究してるんですよ…」中でも中小企業は小回りが効き、スピード感があって思い通りの機器が手に入りやすいので研究のサポートには適しているそうです。私も細胞が壊れずに凍結できるプログラムフリーザーには興味があり、T先生の粋な計らいでシンポジウム後に演者に直接質問できる時間が設けられていたので、その会社の社長さんにいろいろお話が聞けました。またT先生から「共同研究しよう」と持ちかけられているゼラチンハイドロゲルによるDDS(ドラッグデリバリーシステム:ゼラチンから作ったゲルに細胞増殖因子を混ぜて、体内で細胞増殖因子が徐々に放出されるようにし、組織修復の効果を高める方法)のゼラチンを作っている会社の人にもいろいろお話を聞く事ができ、とても楽しい学会でした。

T先生がなんでこれだけ熱意を持って「諦めたらあかん! 絶対に自分の信念を持ち続ける事が重要やねん!」と言われるかには訳があります。冒頭でも書いた通り、再生医療というのは最先端分野であるだけに誰もやった事がなく、各種の許認可を取るのが非常に大変なんです。勿論、医療の安全性を確保するのが厚生労働省の役割なんですが、お役所の言う通りにしていると全く研究も臨床も進まない。そこで、とにかく自分が信念を持っている事を粘り強く訴え、人を動かし成果を認めてもらって世の中にそれを問うという事が重要なようです。T先生のモットーは研究室の中の研究で終わらず、それを役に立つ形で世の中に還元する事で、そうして初めて研究者として完成すると考えられているようですので、研究以外の活動にもそれだけエネルギーを傾けられているのだと思います。T先生が野村選手に先のような公演を依頼したのも「何事も諦めたらあかん! 最後の最後まで諦めたらあかん!」というメッセージを伝えたかったからに他ならないと思います。

私もこの年になってくると、あれだけ元気だった同級生や諸先輩方の中でも、そのまま元気を維持している人と、もう明らかに老化の道(誰とは申しません。失礼な発言をお許しください…^^;)を進んでいる人がどんどん別れてきてますね。そして、皮肉な事に元気な人は「逆境にいつも立たされて、それをはねのけようとしている人」に多いように思います。ストレスは諸悪の根源のように言われていますが、実際にはストレスがあるから血液中にアドレナリンも放出され、適度なストレスがある方が長生きするのは動物実験でも確認されています。つまり、ストレスを単純に減らす事が重要なのではなく、ストレスと向き合ってそれを短時間で自分の「超えるべき壁」として昇華できる精神が重要なんだな…って思うのです。まぁ…私だって「超えるべき壁」だったら人一倍あります。(明らかに多すぎるというのが問題なんだが…)それを自分のチャレンジすべき目標として前向きにとらえていけるかどうかなんだな。ただ、分かっちゃいるけどできないのが人間の性。何度心が折れそうになった事か…。今回はT先生の学会に出席する事で、久しぶりにアカデミックな部分だけではなく、ちょっと精神論的かもしれませんが、「折れない心」という事について大きな学びがありました。この気持を大切に、これからも頑張り続けたいと思います。マニアックの方なら自信あるし…(^^; え?しつこい?)。