第127回  (2013年10月)  「最大の報酬 」

  

こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。今年の夏は本当に暑かったですねぇ。9月はちょっと涼しくなったかと思えばまた暑さがぶり返したり、急に涼しくなったり、体がついていきませんよね。皆様も季節の変わり目は体調管理に十分お気をつけください。
しかし夏の暑さが厳しいのはここ数年毎年の事で、それが当たり前になってしまいましたね。日本では古来から打ち水で涼をとっていた…なんて話がありますが、今都会で水を撒いても、むっとする暑さがアスファルトから立ち上ってきて、かえって暑さ倍増になってしまいます。そう言えば私が小さい頃はスイカ売りのおじさんがよく来てました。それを買ってもらえるのが楽しみで楽しみで…。冷たく冷やしたスイカを木陰で食べるのは最高だったのですが、昨今の夏では外でスイカ食べようなんて気にもならないですねぇ。もっとも今考えると「冷えたスイカ」を売りに来るという商売があった事も不思議に思います。さすがにあの頃でも各家には冷蔵庫くらいはありましたし、「スイカを冷やすだけ」って事にどの程度の付加価値があったんでしょう? あのおじさん達は今どうしちゃったのかな? 生活できてるのかな…なんて余計な心配をしてしまいます…^^;)。なんか暑さで(?)思考があっちこっちにとんで支離滅裂ですが、「今年は冷夏」という言葉があった事が遠い昔のようです。そのうち学校でも「かつての日本には冷夏という言葉があったのですが、今は使われない死語になりました…」って言うような日が来るのかもしれません。

そんな事で、気持ちを切り替えて今年は、夏は暑い事を前提に新企画を行おう!!と考えました。その一つが8月に実施した企画「脇汗スッキリボトックス」です。当院は皆様ご存知の通り「シミ・シワ・たるみ」を改善する専門クリニックですので、「なんで脇汗対策なの?」と思われた方もいらっしゃると思います。
答えから先に言っちゃいますと、当院に来院されている複数の患者様からの強い要望があって実現する事になりました。以前から申し上げている通り、ボトックスは美容業界のスーパースターですので、学会などでもボトックスに対する研究発表は多く、ボトックスを汗腺近くに注射する事で発汗を抑える事ができるというような話はよく出ていました。その時は「なるほどねぇ…ボトックスも色々な方面に利用されているんだな…」と思っていたのですが、最近はインターネットの普及の為か皆様の情報収集も非常に早く、一部の患者様から「脇汗対策」としてのボトックス注射をして欲しいという熱望?リクエストをいただいておりました。脇汗治療としてのボトックスの利用は事例も多く学会発表などもある為、情報は結構豊富ですし、注射の手技も美容ほど難しいものではありません。(正直に言うと顔の微妙な表情筋をコントロールするような繊細なものではないので、どちらかと言えばただ注射するだけの「簡単治療」だ…と思っていました。ただ、これは安易な考えだったと後日反省する事になりましたが。)

そこで当院のコロコロS君で実験をする事に…。S君はよくこのクリニック通信のネタとして登場する、ほぼレギュラー的存在なんですが、今回ほど彼が役に立った事はありません。なぜならば彼は真性の「汗かき」なんです…^^;)。ちょっと動いただけですぐに息を切らして額に汗をにじませるので、最初の頃は「なんて一生懸命仕事をする若者なんだろう…」って感心していたのですが、最近はどうもそういう事ではなく、単に彼が「汗かき体質」であっただけ…という事が露呈してきました。(ま…彼の名誉の為に申し上げますと、一応ちゃんと仕事はしています。ただ、発汗量と仕事の結果が比例していない…ってだけでして…^^;)夏になると当院の研究室ではS君は自分専用のマイ扇風機を常に独占しています。朝来て一番にする事はメールのチェックでもデスクの片付けでもなく、まず扇風機にスイッチを入れて体を冷やす事のようです。そんなS君なんで今回の企画の実験モニターにはもう神様の啓示としか言えないくらい最適の人材です。

そして実際にS君で発汗テストをすると、テストで真っ黒だったコロコロS君の脇がスッキリサラサラになってるではないですか!! ちなみにこの発汗テストって言うのは、汗をかく部位にヨードと澱粉を塗ると汗をかいた部分は黒く変色する性質を使って、どの部分にどの程度汗をかいたかを図る非常に有効なテストです。テストは簡単な割に客観的なデータとなりますので、学会発表などでも利用されている由緒ある?テスト方法なんですが、なにしろ見た目がグロテスク…です。写真に撮ると凍傷などで体の一部が壊死した時のような感じに黒く写ってしまうので、前回の美容情報で写真を掲載するのは非常にためらいました。(実際にあの美容情報を送った後には、いつもより多くの皆様から「配信停止依頼」が来てしまったので、やっぱりグロ過ぎたかなぁ…と少し反省しましたが…)ま…そんな見た目の問題はともかく、あの汗かきのS君ですらこんなに効果があるんだから、これは結構凄いじゃないか…一部の患者様も待ち望んでいる事だし、夏が終わる前に実施しなきゃ…って事で、8月の企画メニューとして実施したのです。

ただ実際に多くの患者様に行ってみるとかなり大変でした…^^;)。治療前後に発汗テストをして、その方に合った薬剤の適量を測るのはいいアイデアだと思ったんですよ。しかし、まず発汗テストがS君のようにスムーズに行かない。院内はクーラーが効いているので汗が引いてしまった…と言われる事も多く、暖房を入れたり腹筋してもらったり、汗を出してもらうのに一苦労。(なんだか「一体何しているんだろう?」…って感じですね。)それでも出ないので外を歩いてもらったら、今度は汗が出すぎてテストの薬が流れてしまい、やり直しになったりするハプニングも…。そんな事をしていると実際に打つまでにめちゃめちゃ時間がかかってしまいました。そしていざテストが終わり、注射の部位にマーキングしようとすると汗でマジックがつかず、数十本のマッキーがダメになってしまったり…。今度実際に注入する時も一苦労。脇汗ボトックスは、汗腺に信号を出す交感神経のアセチルコリンをボトックスでブロックして汗を止める方法なんですが(通常交感神経の神経伝達物質はアドレナリンなんですが、汗腺は特殊で交感神経支配なんですが伝達物質はアセチルコリンなんですね)、汗腺は皮膚の浅い所(表面から2-3mm)にあるので浅く打たないといけないんです。今使っている針は一番短くて4mmなので、針を曲げて浅く打たないといけないので結構手間がかかります。両脇で100箇所くらい打つので、もう注入が終わった時は腱鞘炎になりそうでした…。いろいろと苦労した脇汗ボトックスですが(お試し企画を受けていただいた方には時間や手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした…)、一応脇の汗はかなり減って喜んでいただけたようです。中にはアンケートの他にも詳細なレポートを書いてくださった方も。ありがとうございました! しかしこれをメニュー化するにはクリアしないといけない事がたくさんあって、一筋縄ではいかなさそうです…。今後また検討したいと思います。

かつての医療業界では患者様に「こんな治療方法があるそうなんでやってくださいよー…」って提言されて実施してみる…なんてあり得なかったのですが、最近は情報が本当に豊富になってきたので、時には患者様の方が詳しい情報を持っておられたりしてこちらがタジタジになる事もあります。最近では「テレビでヒートショックプロテインっていうのが紹介されていたのですが、紫外線で傷ついた肌はそれで修復されるのですか?」って質問されました。最近はホントにテレビでもいろんな情報を出しているのですねぇ…^^;)。ヒートショックプロテインというのは、細胞が熱等のストレス条件下にさらされた際に発現して細胞を保護するタンパク質の事です。最近はヒートショックプロテインを増やす美肌方法がテレビやネットなどで盛んに謳われているようです。簡単に言うと熱いお湯にお肌をつける事でお肌の細胞を保護するタンパク質を増やし、傷んだお肌を修復しようという方法です。実際にその効果はマウスの実験でも確かめられています。マウスの皮膚は人間の皮膚にかなり近いため、肌の変化の実験には最適です。実験方法も極めて明快でして、マウスを37度のお湯に10分つけたグループと42度のお湯に10分つけたグループに分けて、その後に紫外線を浴びさせて肌の老化(シワの出来具合)を計測したところ、42度に10分つけたマウスでは殆どシワの生成がされなかった…という事です。

タンパク質は熱を加えると縮む性質があります。この性質を利用して、皮膚の深層の部分に熱を加えて引き締め効果を出そうというのがサーマクールという高周波治療器です。サーマクールは高温にするのでタンパク質が変性し、修復の過程でコラーゲンが生成されるとも言われていますが、一旦組織に損傷を与えるので良くないという意見もあります。そこまで高温にしなくても42度程度まで温度を上げると、細胞を保護するタンパク質が生成されて肌をハリのある状態にキープでき、その後紫外線をかなりの量浴びてもシワはできにくいという事なんです。実際にこれは動物実験でも検証されているのでやってみる価値はありそうですね。ただ、42度のお湯に顔を5分つけるのって勇気が必要かもしれません。実際には結構熱いですよね、42度って。ネットでの情報では、顔をつけなくても体を42度のお湯に10分つけるだけでも全身にヒートショックプロテインの効果が出ると書いてあるところもありますが、それが本当なのかは現段階では私には情報不足で分かっておりません。(普通に考えると効果はかなり落ちるような気がしますが…。)よく温泉につかってお肌がツルツルになった…っていう事で温泉の成分を粉末にして入浴剤として売っているところがありますが、本当は温泉の成分は関係なく、単にヒートショックプロテインが出てお肌がツルツルになるのかもしれませんね。(温泉ってやたらと熱いところありますからねぇ…。ただ、熱いお湯につかるのは美容には効果があると思われますが、心臓疾患を持っている人には良い入浴方法とは思えないので、自分の体調とよく相談してチャレンジしてみてください。)

ただ、こういう話ってテレビのネタにはぴったりなんですが、学会とかで臨床試験の発表をしている人は殆どいないようです。恐らく理由は「それでは商品化できない」からだと思います。基礎実験というものは商品にできるかどうかに関係なく、マウスなどを使って論理から得られる結論を実証する事に価値がありますので、基礎の段階までは確かにこのような実験は盛んに行われます。ただし、その後の臨床試験になると「なんらかの商品化が見込まれない臨床試験は誰もやりたがらない」っていうのが実情のようです。医師倫理はもっと気高く尊厳であるべし…って事なんですが、実際には臨床試験をするにも時間とお金がかかるので、製薬メーカーや医療機器メーカーの研究サポートがなければなかなか臨床試験はやれないものなんですね。「洗面器に42度のお湯をはって5分間顔をつけてシワの改善がされたかを検証する臨床試験」ではどの会社もサポートを申し出てくれないのは間違いないです…。残念ながらこれが現実です。

ただ、当院は「シミ・シワ・たるみの専門クリニック」と標榜している限り、お金になるかどうかには関係なく、本当に綺麗になる事であれば取り入れていかない手はありません。この美容の世界には「お金にならないが効果は高いと言われている民間療法」っていうのが沢山あります。例えば、ホエイ(乳清)を使ったシワ治療や、豆乳ローションを使ったスキンケアや更年期障害の治療などです。なかなか誰もやりたがらない分野ではあるのですが、このような民間療法の検証もこれから進めていきたいと思っていますので、今後モニター試験などで皆様にご協力を仰ぐ事もあるかと思いますが、その際は是非ご協力いただければと思います。最終的に「美しくなる」という目的の為に安全で効果の高い治療方法を探し続けていきたいと考えています。

思えば子供の頃に売りに来たスイカ屋さんも「ただ冷やしただけじゃん…」て言ってしまえばそうなんだけど、それを楽しみにしている人がいるって事は立派な付加価値なんですよね。スイカ屋さんも生活苦しかったかもしれないけど、子供たちの笑顔が楽しみで我慢して売りに来てくれてたのかもしれません。「ありがとう」って言葉が最大の報酬なのは今も昔も変わらないんだな…って思います。