第120回  (2013年03月)  「風が吹けば桶屋が儲かる?」

  

こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。暦の上では春を迎えているはずなんですが、まだまだ寒い日が続いていますね。ノロウイルスとかも流行ってますし、今年は風邪と花粉症とPM2.5対策の為かマスク着用の人が多いようです。皆様も体調管理には十分お気をつけくださいね。
 今月の話題ですが、先日東京で美容外科学会の学術集会があり、PRPのパネリストを依頼されて発表した時の話です。クリニックもすごく忙しい時期だったので本来は依頼を受けないつもりだったのですが、ある人からどうしても・・・と頼まれてしまい、どちらかと言うと断りきれず・・・って感じで発表を行う事になってしまいました。そんな訳であまり気乗りせずに出かけたのですが、予想外に得るものがあり、さらにこの学会に出かけた事がきっかけで当院でもある試みを行う事になりました。

 

当日は特別講演というものがあって、京大再生医科学研究所のT先生という方が行う事になっていました。私はT先生という方は存じ上げてなかったのですが、事前に配られるプログラムを見ると面白そうな話だなと思ったので、拝聴させていただきました。T先生の専門は生体組織工学。聞き慣れない言葉ですが、生体組織工学とは、最近流行りの再生医療(細胞を活用する事によって、自己組織の再生修復を行う治療)の細胞が増殖できるための適当な環境を作る医工学技術の分野(医学部と工学部の間みたいなもん)です。はぁ・・・なんやねんそれ?・・・って感じですよね。例えて言うと、生体材料を使って細胞が育ち易いベッドを作ってやるというような技術を開発する分野です。それでもって生体材料(生体適合材料=バイオマテリアル)というのは、生きている細胞に接触できる材料、つまり生体に移植する事を目的とした素材の事です。例えば人工関節や義歯に使われる金属、人工骨に使われるハイドロキシアパタイト、眼科用に使われるヒアルロン酸なども生体材料の一つですね。いずれにしてもNHKのプロジェクトXで、中島みゆきの「地上の星」をバックにドキュメンタリーが放映されてもおかしくないような、世界が注目する最先端技術・・・ってやつです。

T先生の講演は、生体材料であるゼラチンから作ったゲルにFGF(線維芽細胞増殖因子)などの細胞増殖因子を混ぜて、体内で細胞増殖因子が徐々に放出されるようにし、細胞移植の治療効果を高めるDDS(ドラッグデリバリーシステム)という方法についての話でした。しかし、この研究の詳細は相当ややこしい話になりますので割愛します。まぁ・・・T先生には申し訳ないのですが、今回の通信の趣旨からすれば、先生の話の詳細を解りやすく私が解説する自信は全くないばかりか、割愛しても全く支障がないのです。なぜならば皆さんにお伝えしたいのは研究内容の方ではなく、T先生の人柄の方だからなんです・・・(^^)。

 

 

まず驚いたのは、会場に一歩入った途端に伝わってくるT先生のすごい迫力です。医科系の学会では初めて聞くコテコテの大阪弁。そしてマイクなしで十分なよく通る大きな声。一歩間違えば怪しげなネットワークビジネスの勧誘会場か選挙事務所の後援会って感じです。中でも印象に残ったのは、DDSで糖尿病ラットの皮膚潰瘍が治ったり、イヌの心筋梗塞後に詰まった心臓の血管が再生したり、難聴が治ったりという動物実験での素晴らしい結果と、そんな結果が出ているにもかかわらず、臨床試験を始めるために厚生労働省の認可が下りるのに6年かかったという話。
「6年ですよ、6年! お役所の仕事ってほんまにうるさいし、遅いん
 ですわ。世の中にはこの治療を 待ってる患者さんがいっぱいいる
 のに、そんな事全然考えてへんからね。しまいに頭に来て、『耳 
 の聴こえへん患者さんがこの治療を待ってるんですよ! あんたは耳聞こえるからそんな悠長な事 言う
 てるけどね!』言うて、半分脅しですわ」
そうやって、やっと臨床試験にこぎつけられたとか。そして最後には
「え? あ・・・もう時間ですか? もう5分だけしゃべってもええですか? これからは大学と企業が結びつか
 なあきませんよ。研究成果を世の中に還元するためには、商品化せなあかんのです。けど、大学でいく
 ら頑張っても商品化は不可能です。そやから僕はいろんな企業と共同開発してるんですよ」
・・・と5分以上の熱弁が続くのでした。

こんな書き方をするとなんか朝まで生テレビに出て来る自己主張の強いオヤジのように思われるかもしれませんが、T先生の名誉の為に申し上げますと、そんな事はありません。それにこのT先生は私なんか足元にも及ばないホントに凄い経歴をお持ちです。工学博士・医学博士・薬学博士と3つの博士号を持ち、米国マサチューセッツ工科大学・ハーバード大学医学部にも留学して研究されています。MITとハーバードと言えば工学部と医学部の世界最高峰ですよね。40歳で教授になり、国内外6つの学会の理事、工学・医学・薬学・歯学の14大学の非常勤講師と客員教授、6つの国際学術雑誌の編集長、1050報の学術論文、特許申請130件、著書17冊・・・え? もう十分ですか? ですよね。なんじゃこりゃ・・・って感じでしょ。もう唸るしかないです。一体どうやったらこんなにたくさんの仕事ができるんでしょうねぇ。

 

 

 

そんなT先生の講演の後、私が発表したPRPのパネルディスカッションでした。パネルディスカッションでは5人の演者が発表の後壇上の席に座り、質問に答えたりディスカッションしたりします。T先生は特別ゲストとして座長席に招かれ、座長と一緒にディスカッションに参加されました。
 ちょっとだけ私の発表の内容を申し上げると、当院独自の高濃度PRP注入療法ではPRPにFGFを混ぜなくても効果を出せる事、当院で行ったモニター半顔試験(顔の半分で違う方法を行って比較する試験)で、PRPの効果を左右する要因は一番がPRPの血小板濃度、その次に単位面積当の血小板数と注入ポイント数、次に血小板総数である事が明らかになった事などです。(ついでに輸入業者Bに「高濃度PRP作製用のキットを共同開発しよう」と持ちかけられて半顔試験をしたけど途中で開発が中止になり、ノウハウだけ持って行かれて、モニター試験ばかりしてたのでクリニックが赤字になりかけた裏話もして笑いを取っちゃいました。どっちかというと研究内容よりこの話のウケが一番良かったような気がするが・・・^^;)
 そんなこんなでディスカッションも無事終了。そして学会終了後に演者の懇親会があり、学会長のY先生から、私もT先生と共に招待されました。T先生に挨拶すると、
「先生、すごいなー! 先生の発表一番まともやったわ! 半顔試験なんかようやったねえ! あんなん
 大学では絶対できませんわ。よっぽど患者さんに信頼されてるんやねえ。さすがやわ! 先生、気に入
 ったわ!」
と、めっちゃ大阪弁で褒められました。え・・・そこが褒められるポイントなん?・・・って事は別にしても、こんな凄い研究者の先生から褒められるってのは純粋に嬉しいもんです。そして懇親会の会場でもT先生とY先生の間に座らされ、盛り上がってしまいました。

 

 

T先生:「僕、京大ですけど、大阪の京橋出身ですねん。先生は神
     戸でしょ?」
柴田 :「私も出身は大阪です。実家は池田ですけど、京橋も住ん
     でた事ありますよ」
T先生:「えーっ、ほんま?  池田やったら大教大附属池田

           (高校)?」

柴田 :「何で判るんですか?」
T先生:「そらあの辺やったら大教大でしょー。僕、大手前(高校)で
     すねん」
・・・とめちゃローカルな話題で盛り上がり。京橋と言えばあのグランシャトーがあるところですね。(なんか懐かしいCM思い出すなぁ・・・。『京橋は、ええとこだっせ! グランシャトーがおまっせ・・・♪』
一体あのCMは誰がOK出したんでしょうねえ。あれとパルナスのCMだけは心に刻まれ、一生忘れる事はありませんが・・・。あ、超関西ローカルなんで分からない人は無視してください・・・。)
Y先生:「へー、お二人とも大阪ですか。僕は熊本の出身でね」
T先生:「あ、今度講演で熊本行くんですけど、馬刺しの美味しい店ありません?」
Y先生:「あります、あります! ここ行ってみてください!」
Y先生はすかさず背広の内ポケットから馬刺し屋のパンフレットを取り出してT先生に渡しています。
T先生:「先生、なんでこんなパンフレット持ち歩いてるんですか??  馬刺し屋の回しもん?」
なんでタイミング良く馬刺し屋のパンフがあったのかの謎は解き明かされていませんが、とにかく二人とも教授とは思えない気さくな先生です。学会やそれ以外の話でも盛り上がり、あっという間に時間が経ってしまってT先生の帰りの新幹線の時間に。私は最終の新幹線で帰るつもりだったんですが、T先生に「先生も一緒に帰る? 僕の隣の席、空いてますよ!」と3回ぐらい言われて、勢いで一緒に帰って来てしまいました。そして新幹線の中でもいろいろと面白い話を聞く事に・・・。T先生はサイボーグを作りたいと思って工学部に入り、工学部の助手をしながら医学部へ。そして研究成果をビジネスへ展開し、商品化に結びつける方法を学ぶためにMITとハーバードへ・・・。すごくエネルギッシュな上に、実用化されてこその研究だから商売人の感覚で相手を立てて話をする・・・というところが普通の教授とは全然違ってて、感心してしまいました。詳しい内容はまた次の機会にお話させていただくとして、なぜかこの先生のお話から当院のホームページを改定する事なりました。

 

 

昔の諺に「風が吹けば桶屋が儲かる」というのがありますが、自分の中では何かそんな感じがするのです。何かをやり始める時ってきっかけがあるんですが、そのきっかけが全く因果関係なさそうなのに、偶然が偶然を呼んでそうなってしまった・・・ってありますよね。
この話が進む為にはT先生とは全く違うタイプの友人であるMが登場します。このMは私ともかなりタイプが違うのですが、不思議な事に全くタイプが違うからこそ話をしていても居心地が良い人っていますよね。考えてみれば二人の唯一の共通点はグルメ好きって事くらいしかないのですが、Mは確実に「自分の世界を持っている」って感じの不思議な魅力がある人間です。先のT先生からすごくエネルギーをもらったので、この話を数日後、Mに力説したところ・・・
M:  「へぇ。そんな人もおるんやね。ところでその馬刺し屋さんってどこなん? ぐるなび見てみようよ
    ・・・熊本まで行く機会はないかもしれんけど」
柴田:「はぁ? あんた人の話真面目に聞いてる? 馬刺し屋さんの話はここではどうでもええやん!」
・・・大体彼女はどんな話をしても結局はどこかの飲食店の話に持っていく癖があります。それは私も人の事を言えたもんではありませんが・・・。
M:  「ちゃんと聞いてたよ。凄い人やね。6年も待って役所になんかを認可させたんでしょ? ようそんな
    我慢続くよねぇ。私やったら諦めてまうな。大体待つの嫌いやしね。 あの神戸のKなんかも3ヶ月
    待ちや言うやん? いくら美味しくても3ヶ月前から予約して食べに行く気はせえへんわ。せっかく
    美味しいのに、あれどうにかしてくれんとねぇ」

 

 

 

 

・・・と、もう話が咬み合わないのは今に始まった事ではないのですが、彼女の言ってるKというのは神戸では有名な和食のお店で、ミシュランガイドで二ツ星を取ってから超予約が取りにくくなってしまったところです。私もクリニックの患者様(この方も超グルメ)に、Kがミシュランに掲載される前に「ここはすぐにミシュランに載って予約取れなくなるから、早く行った方がいいわよ!」と教えてもらって行ったのですが、確かに美味しいところです。(そんな事を予測できる人も凄いと思うのですが・・・。)しかし私も最後に予約をしようとして電話した時に「すいません・・・3ヶ月先位でないとお席をご用意できなくて・・・」と言われてからは全く行かなくなってしまいました。

柴田:「そやね。最後に行った時に大将は『ホントは当日キャンセル
     もあるし、日によってはそこまで混み合ってない事も結構あるんですよ。でも何度も電話くださいって
     言う事もできず、 困ったもんです』って頭かかえてたなぁ」
M:  「そやろ・・・。当日キャンセルあった時に連絡してくれたら喜んで行くのになぁ・・・」
柴田:「ま・・・大将の気持ちは解かるわ。うちのクリニックも結構予約一杯で断らなあかん事もあるけど、
     当日キャンセルもあるし、患者さんの希望が重なるとこは重なってばっかりで、その他の時間帯は
     ガラガラになったりするもんねぇ。あれって本当にうまくいかんもんやなぁ・・・って思うね」
M:  「そんなんやったら飛行機会社みたいに、席空いてたら空気運ぶよりマシって事で、空き枠をディス
    カウント価格で販売したらええんちゃう?」
柴田:「あんた何言うてんの? うちは飛行機会社と違うし、だいたいどうやって空き枠があるって患者さん
     に知ってもらうんよ?」
M:  「そんなんメルマガとかツイッターとか、どこの会社でもやってるやん」
柴田:「え・・・何? それ? どうやって?」
M:  「あんた知らんの?」

・・・とこんなやり取りがあり、最近話題のLCC(ピーチとかジェットスターと言ったディスカウント航空会社)が空き枠が出たらメールやホームページでお知らせしたり、ツイッターとかで告知している事を教えてもらいました。 ・・・。) 

 

う・・・む、そうか。最近はお陰様でクリニックにご来院いただける患者様も増え、予約が取りにくい状況が続いていました。その事を私の中ではどこかで「自己満足」に浸っていたように思います。恥ずかしながら、一生懸命やって予約の取りにくいクリニックになるのが良い事のように勘違いしていました。確かにKは美味しいし、値段もリーズナブルで良いお店だと思います。それは大将の努力の賜物だと思います。だからと言って、ご飯を食べるのに3ヶ月先の予約をしなきゃいけないのはどうなんでしょうね。現にそれで私も、もう1年くらいは行かなくなっています。そこで、すでに予約されている枠はどうしようもないとしても、空いている枠についてはもっと積極的に公開してお知らせすべきなのではないか・・・と思ったのです。それって押し付けがましい事のように思っていたのですが、逆に謙虚さに欠けていたのではないかと反省しました。だって私が逆だったらKのホームページに「この日とこの日は空いています」って書いてあれば絶対にもっと頻繁に行ってると思うし、なんでそんな事すらしないの?って思いますもん。(あ、是非Kの大将・・・この通信を読む機会があったら、ホームページ作って空き情報を公開してください!!) そんな反省から、当院ではホームページにリアルタイムに近い空き枠の情報を公開する事にしました。今後ツイッターとかを使って、当日のキャンセルがあった場合などは割安で治療を受ける事ができるような施策を初めようと思っています。勿論、これが最適な事なのかどうかはまだ自信がありません。でも、少なくとも何かを改善する可能性があるにもかかわらず何もしないのは、傲慢にしか過ぎないような気がしたのです。色々とやってみて最適な回答を見つければいいし、さらに改善を続けていくしかないと思うのです。

 

 

 

 

 

ところでこの事はT先生の話とは全く因果関係がないように見えますが、やっぱりこのホームページの改定はT先生に出遭わなかったらやってなかったような気がするのです。うまく説明できないんですが、全く同じ事でも違う人が言っていれば具体的な結果は出ないんだけど、ある人が言えば何かの結果となって現れる事があるとでも言うのでしょうか・・・。T先生が教授なのに絶対に偉そうにはしなくて、商売人の感覚で常に相手の求めている事を考える、という姿勢にも動かされたのかもしれません。T先生の話をせずにMが予約の取りにくい飲食店の話をしても、実際には小さな事でも行動はしなかったのではないか・・・って思うんです。何かそこにT先生→M、そして私へのエネルギーの連鎖があるように思えて仕方がないんですよね。エネルギッシュな人に出遭うと自分の中にある何かが啓発されて、何かを形にしたいという潜在意識が目覚めるのかもしれません。「風が吹けば桶屋が儲かる」の「風」って、結局は何かのエネルギーなんですよね。きっかけは何であるか分からない・・・。でも人を動かすような何らかのエネルギーがあれば、それがきっかけとなり、人生が動いていく。そして思っても見なかったようなところで誰かに影響を与えているんだなと思います。最初に吹く「風」はそのエネルギーが大きければ大きい程、どこかで何かの影響を与える可能性が大きいものなんですね。私自身も努力を続けてそよ風くらいにはならねば・・・と考える今日この頃です。