第118回  (2013年01月)  「スーパースター達の競争 」

  

あけましておめでとうございます! 昨年は大変お世話になり、誠にありがとうございました。皆様のお陰で開業10周年を迎える事ができ、感謝に堪えません。これからも皆様のご支持を得られるように研究に励みますので、今年も何卒宜しくお願い致します。  

お正月は寒いので、引き篭もりがちになった上に御節料理とかを食べては寝る・・・食べては寝る・・・を繰り返す方も多いと思いますので、運動不足にはお気をつけください。かく言う私ですが、去年の秋には開業後初の欧州での学会に参加。十数年ぶりにイタリアへ行き、久々の感動と共に体力の減退を実感・・・。私より100倍元気な70歳のI先生にI体操を教えてもらいましたが、スクワット80回とかあまりにもハードなので断念。その代わり夏の学会で整形外科の女医さんが講演していた、姿勢を良くする体操を始めました。そのせいか、恒例の卓球部のOB戦は好調で、10セットも試合ができて現役部員とほぼ互角(?)に戦え、「先生、大会に出てください!」と言われたし、その後の疲れもましでした。今年も若さを保つために体操と卓球は続けようと思っています。でも年を取ってからの運動って本当に億劫になってしまいますよね。若い頃のように運動したからといってメキメキ体が変わる訳ではないし、体力は増強するどころか維持できれば御の字・・・って感じです。本当に辛抱強く継続しなきゃ駄目だなぁ・・・って思います。

 

辛抱強くと言えば、ずっとこの通信で書き続けている私の研究も、なかなか目立った成果が出ない事も多く、いたずらに時間が過ぎて行きます。ようやくこの年になって「少年老い易く学成り難し」って言葉が身にしみるようになりました・・・ ^^;)。なかなか成果が出ない時なんか「このまま人生の時間切れが来てしまうんじゃないか・・・」って落ち込むこともあります。そんな時はもっぱら食べる事で気分転換って感じで、馴染みのイタリアンレストランで愚痴る事に・・・(結局それか・・・って感じですが。)
「確かにここも美味しいんだけど、この前に行ったベローナのレストランの美味しい事と言ったらもう・・・凄いんだから」・・・と、どう考えても嫌味を言いに来た、追い返したくなる客としか思えない悪態ぶりにも、流石は接客業一筋のマスターはにこやかに答えてくれます。
「そりゃね・・・そのレストランって創業200年以上なんでしょ。歴史が違いますよ、歴史が・・・。食文化ってそれこそ文化なんだから、一代や二代で本物になる訳ないじゃないですか。もう先生の好きなDNAが変化する位の時間が経たないと本物にはならないんですよ」ってたしなめられました。私も酔った勢いも手伝って

「神戸にも、もうちょっと美味しいイタリアンがあればいいのになぁ・・・」とイタリアンレストランである事を忘れて爆弾発言する始末。でもそこは大人のマスターです。「ですよね。でも、それだったら、和食に行ったらどうですか? 和食は日本の文化の原点ですし、歴史も何もかも違いますよ。それに洋食でも、海外の先生が行ったような特別なレストランのような存在にはかなわないけど、普通にその辺で食べるレストランの味は、日本は世界一でしょう」・・・と。
「先生もミシュランガイド買ったでしょ? 東京は世界で一番星付きレストランの多いところなんです。それにあの程度で星が取れるんだったら、いくらでも星付きレストラン予備軍があるって思いませんか?取材拒否の店なんか含めれば、日本は世界一美食の国である事は知ってる人の間では常識ですよ」

 

 

実際にそうなのかもしれませんね。ミシュランガイドの社長さんはフランス人ですが、以前に雑誌のインタビューで下記のように言ってたと思います。
「日本に来て最も驚いたのは、日本食は非常に細分化されてそれぞれが専門職として何世代もの間に引き継がれて来た文化だという事です。基本的にパリで食するフランス料理という形態は東京で食べるフランス料理と素材や内容は違っても同じカテゴリーのものです。それだけでも日本人の外国文化の吸収力に驚かされます。しかし日本以外で食べる日本食は殆どの場合、寿司・天ぷら・焼き鳥・刺身などすべてのカテゴリーの料理を一つのお店が出していて、それが日本食レストランと思っていたのですが、実際に日本に来てみるとそんなお店は大衆居酒屋位しかありません。殆どのレストランはお寿司であればお寿司、天ぷらであれば天ぷら、鰻であれば鰻しか出さない専門職の仕事だった事に驚きました。しかもその天ぷらのつゆや鰻のタレは、何世代にも渡ってその店で守られて改良を加えられた味であって、とても簡単に真似できるものではありません。日本の食文化の奥深さに感銘を受けました」というような内容でした。

なるほど・・・。なんかそう言われると嬉しくなってしまいますよね。さっきまではベローナのレストランの賛辞をしていたのが一変して、「外国の人もその辺の奥深さがようやく解ってきたかぁ・・・」なんて突然、上から目線で教えてあげたくなります・・・(^^)。そうなんですよね。日本って世界一繊細で細かい仕上げを要求されるのでレベルが非常に高いんですが、日本の中にいると周りが全部そうなんでなかなか成果が出ない・・・って悩むんです。でも海外から来たらそのレベルの高さに驚くって話はよく聞きます。

 

 

 

例えば美容の世界でも海外では単に「シワがなくなればいい」って発想が多いのですが、日本の皆さんがそんな事で満足する事は絶対にありません。いかに綺麗にシワが無くなっているか・・・であって、シワがなくなったけど他の部分に影響が出て微妙な顔のバランスが崩れたりしたら、それこそ大クレームもんです。シワの治療にはボトックスという薬剤が最もポピュラーで、こんな劇薬を開発しただけでなく、一般に使っていいよって認可を下ろすパイオニアはアメリカが中心ですが、それをどのように打てば最も綺麗に仕上がるかを研究して実際にうまく打てる医者が多いのは世界でも日本が一番なのではないでしょうか。(それでもまだまだ下手な医者もいるようですが。)

この通信の中でも何度も書いてきましたが、ボトックスは美容医療業界のスーパースターです。美容医療業界だけのノーベル賞があれば間違いなくボトックス開発者は受賞していると思うくらいです。普通、薬が効くか効かないかはかなりその人の体質に依存します。しかしながらボトックスに関しては私の経験から言っても9割以上の人に効きます。しかも特定の部分にしか打たないのでアレルギー以外の副作用は殆どありません。副作用と言えば、あまりにも効き過ぎるので、打つ量や部位を間違えると目がしっかり開きにくくなるとか、おでこが重たくなるとか、左右のバランスが崩れて「ブス」になるとか・・・(皆さんが怖がってしまうのでこの辺で止めときますね・・・)なんですが、普通はちゃんと経験を積んだ腕のある医師が打てばそんな問題は起きませんし、100歩譲って多少難点があっても数ヶ月で効能がなくなっていくので、自然な状態に戻ります。また、たいていの副作用は1ヶ月程度で落ち着く事がほとんどです。

 

 

実は、長期間効能が続くというのは非常に危険なのです。アートメイクなどで眉毛に刺青を入れる例がありますが、年とともに目尻が下がってくるにも関わらず若い頃に入れたラインはそのままです。結果としてかなり痛い思いをしてそのラインを消さねばなりませんし、完全に綺麗に消えるって事はないのです。その点、多少お金はかかっても、加齢とともに打つ部位を変化させる事ができるボトックスは優れものだと思います。そんなボトックスですが、実は一つの会社だけが開発しているのではなく、そこは自由競争社会の中でより良い製品を作ろうと、各社しのぎを削っているようです。

昨年の寒くなったある日、色白と色黒の2人の訪問者がありました。色黒のお兄さんが「A・ジャパンのWと申します。先生に折り入ってお願いがありまして・・・」A・ジャパンと言えばボトックスビスタを扱っている会社です。エセリスを入れた正直者のFさんと関係のある会社だったので、普段はアポイントなしで来る業者の話は聞かないんですが、少しだけ時間もあったので聞いてみると・・・

 

W君:「実は私共、きちんとした先生にもっとボトックスビスタを使って       いただきたくて、神戸では先生のクリニックを選んで訪問させ       ていただきました」
柴田:「えー、どうやって選んだんですか?」
W君:「ホームページを熟読したり、近畿一円の先生方にお噂を伺っ       たりしまして・・・」
柴田:「へー。そうなの。でもうちなんかより大手に売り込んだ方が売       り上げ上がるでしょう?」
W君:「それはそうなんですが、まだボトックスの使い方がまずくて副       作用が出たりすることもあって、患者様の不安要素になった        りしているようですので、まずはきちんとした技術をお持ちの                              先生に使っていただきたくて・・・」
柴田:「ふーん。でもビスタは高いもんねえ」
W君:「申し訳ありません。そこで価格もできるだけ下げさせていただいて、他にも先生にメリットのある        ご提案をさせていただきたいと・・・」

彼にもらった名刺を見ると、「ビジネス・ディベロップメント・マネージャー」と舌を噛みそうな役職名です。なんでも、クリニックのビジネスサポートをする係なんだとか。

柴田:「どんな提案?」
W君:「患者様の満足度を上げて、売上に繋がるようなご提案なんですが・・・例えば、患者様に問診票を      書いていただいてどんなお悩みかを聞いたり、施術後に診察に来ていただいて満足度を確認す       るとか・・・」
柴田:「え?? 何それ? そんな事今でもしてるけど?」
W君:「・・・(しばし沈黙)。そ、、、そうなんですか・・・。美容クリニックではされてないところが多いもの
         で・・・ 失礼いたしました」
柴田:「そんな事より、ビスタを使って欲しかったら、他の製剤より絶対これがいいよ、っていう事を学術        的に裏付けて欲しいねんけど。高くても絶対に使う価値がある、って納得させてくれないと・・・」

ボトックスビスタというのは、眉間のシワに厚生労働省から認可が下りている、いわばブランドもののボトックスです。しかし価格があまりにも高くて、効果は他のボツリヌス菌製剤もそれほど変わらないと思われていますし、眉間以外には認可は下りていないので、ほとんどの患者様はコスパの良いノンブランドのボツリヌス菌製剤を選ばれます。その日は時間がなかったので、学術的な話はまた次回・・・という事になりました。

 

 

 

 

そして次の訪問日。W君から電話があり、

「実は今日A(色白の方のお兄さん)もご一緒するはずだったんですが、親戚に不幸がありまして・・・もし先生お忙しいようでしたら、別のお日にちでも・・・」 

柴田:「いつも忙しいから今日でいいよ」 

私のそっけない返事に、仕方なく一人で来たW君は、めちゃくちゃ緊張している様子です。 

柴田:「今日はバッチリ決めてくれるんやろね。で、ビスタが他に       比べて絶対いい点は?」

W君:「は、はい・・・。今まで使われた量が他のボツリヌス菌製剤より圧倒的に多く、文献の数も多いと       いう事と、私共が、クリニックの経営サポートをできるという点と・・・」

柴田:「そういうのはええねんて。製剤的にいい点は?」

W君:「は、はい・・・。ディスポートに比べると、注入点からの薬剤の広がりが少ないという実験結果が        ありまして、そのため額に打った時に眉が下がるなどの副作用が少ないと言われております・・・」

実験結果のスライドを見ると、ディスポートの方が力価(一定の作用を示す量)が1/3なので、3倍量使ったと書いてあります。液量が多いと広がりも大きいのは当たり前なので、 

柴田:「これ、同じ液量で測ったんやろね?」 

W君:「う・・・。か、確認します・・・。す、すいません・・・!」 

柴田:「もう、頼りないなあ。他にいい点は?」 

W君:「ボツリヌス菌毒素の回りにアクセサリー蛋白があるので抗体ができにくく、分子量が900kDaと        揃っているので拡散が少ない点で・・・」

柴田:「アクセサリー蛋白があるとなんで抗体ができにくいの? 分子量が揃ってたら拡散が少な             い??」

矢継ぎ早の質問にW君はたじたじで汗ダラダラ。一生懸命答えようとしてくれるんですが、その度に突っ込まれて墓穴を掘っていきます。
W君:「す、すいません・・・!! 実は学術的な事はAの方が詳しく     て・・・」
柴田:「あー、それで日変えようとしたんやね? 来週もう一回来       る?」
W君:「も、申し訳ありません・・・!! ただ、私は本当に先生のお     力になりたいと考えておりまして・・・」

一応国立大学の理学部を出て製薬メーカーにもいたという話の割には学術的には穴だらけでちょっとドジだけど、笑わせるキャラで一生懸命だし、人はいい人みたいです。そして翌週、W君と一緒に来たAさんは結構的確な答を出してくれました。結局ビスタは毒素の回りを蛋白質で包んでいるので蛋白に抗体ができても毒素そのものには抗体ができにくいので、蛋白に抗体ができた場合は製剤を変えればまた効くようになるが、毒素を蛋白で包んでいない製剤は抗体ができると毒素そのものに抗体ができてしまうので製剤を変えても効かないのだとか。また、分子量が他の製剤より大きいので拡散が少ないらしい。ビスタをそっくり真似て作ったニューロノックスとは資料が少なすぎて比較ができないらしいですが、検査と運搬方法がきちんとしているので製剤にばらつきが少ない事などもあり、価格さえなんとかなれば製剤的に悪くはないし、累積使用量と抗体産生の関係など私のたくさんの質問にもある程度答えてくれたので、ちょっと使ってみようかなという気になりました。Aさんは実験が大好きみたいで私と同じ香りがしたし、W君もまだ若くて詰めは甘いけど素地はあるようだし・・・。美容の世界で学術的な話ができる人は極めて少ないので、こういう人達とボトックスについて語り合えば、新たな発展がありそうで面白い気がしたのです。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます!! 何とか先生のお力になれるように頑張ります!!」
W君の安心した笑顔とビッショリの汗が印象的でした。
表情筋を切って動きを止めるとシワがなくなって若返るという手術もあるくらいで、双子でボトックスを13年間使い続けた方と使っていなかった方はシワが全然違ったという報告もあり、ボトックスも、もっと活用されてもいいと思うんですよね。しかし世の中にはまだ下手な医者も多く、「効き過ぎて怖い顔になった」「ボトックスは表情がこわばるからいや」と患者様の不安の原因にもなっているようです。
その不安を少しでも緩和できて、若返りのお手伝いを出来ればと思っています。  

美容医療界は食文化などに比較すれば非常に歴史の浅い世界です。まだまだ分かってない事も多いですし、改良の余地も多く残っていると思います。いろいろな治療方法が出ては消えする状況もありますが、その中でも本当に良い物は残って長い歴史を作り、さらに洗練されていくのでしょうね。長い歴史の中で見ると自分のできる事は本当に点でしかないかもしれませんが、少しでも良くなる可能性があれば、それにはチャレンジしていきたいと思います。もしかすると100年後はシワはシワ専門家、シミはシミ専門家・・・って美容医療界も専門分業しているのが当たり前になっているかもしれないですね。

チャレンジに疲れた時は歴史ある食文化に触れて自分を癒しつつ・・・(^^)
今年も何卒、変わらぬご支援とご鞭撻をよろしくお願い致します。