第112回  (2012年07月)  「日食の輪 」

  

こんにちは! 柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。梅雨に入ってしまいましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか? ちょっとジメジメする天気ですが、気持ちだけはジメジメしないように心がけたいですね。
そうだ・・・先月号では金環日食の話を書きましたが、皆様は日食を観察されましたか? 私はというと、日食の日は一番苦手な早起きをして(と言っても前日に遅くまで色々と用事があったので、目を覚ました時はもう7時半でしたが・・・)何とか日食を見ようと、自宅マンションにある展望ルームに駆けつけました。しかし起き抜けで駆けつけたので、日食を観察するには日食グラスが要るのをすっかり忘れていて、展望ルームからはギラギラと眩しい太陽が見えるばかり。いくら目を細めても直接太陽を見ることはできません。「しまった!! せっかく早起きしたのに・・・」(天文ファンにあるまじき行為の連発です・・・)しかし渡る世間に鬼はなし。展望ルームには同じマンションの天文ファンの方がおられ、初対面なのに快く日食グラスを貸してくださったのです。お蔭様で300年に一度の日食を見逃すことなく、堪能できました。おまけにその後、お礼をしようと部屋番号をお聞きしたのですが、私がお礼をするより先に日食の写真を綺麗な葉書に印刷して贈ってくださったのです。とても恐縮すると共に感激してしまいました。本当に「好きな人達」は好きなんですよね。それが○○ファンとか○○マニアと呼ばれている人達なんですが、古き良き天文マニアの人達と会えて良かったです。

 


そう言えば昔はマニアって呼んでいた人達を最近はオタクと呼ぶようになって久しいですね。でも私の中のイメージするマニアとオタクは、何かに入れ込むということは同じでも、なんか印象が違うんです。ちょっと気になったのでオタクの語源を調べる事に。諸説あるんですが、「オタク」は「御宅」から来ている言葉で相手の事を名前で呼ばずに「オタクは・・・」って呼び合う事からこの手のマニア人種を「オタク」と命名したそうな。なるほど、私の理解が正しければ「オタク」の人達は自分の世界に没頭するあまり、周りの人達と社会的な繋がりを積極的に持とうとせず、同じ趣味の人がいても相手の名前を知るという初歩的なコミュニケーションさえ持たずに「オタクもこれに興味持ってるの?」というような聞き方をするんですね。それが古き良きマニアとの違いか・・・。なるほど・・・。って妙な事に感心しながら、同じマンションに住む天文オタクではない天文マニアの方からいただいた金環日食の絵葉書を眺めて、しばし優雅な一時を過ごすのでした。

 

 

ところで先月は、東京で開催された日本美容外科学会に出席しました。私達のように開業医をしていると、大学の医局にいた頃のようには色々な情報が入って来なくなってしまいがちです。医者の世界はかなり保守的なので、いい情報はネットとかではなく人づてで入って来ます。世界に目を向ければ美容医療業界もかなり開放的になったとは言え、一般的な世界からすればまだまだじゃないでしょうか。そんな訳で学会に定期的に出席するのは情報収集する上で欠かせないんですよね。学会出席の時はクリニックをお休みにするので皆様にはご迷惑をおかけしてしまいますが、何卒ご理解ください。そういう事で結構無理して参加しているのですが、残念ながら今回の学会は結論から言いますとあまり成果がありませんでした。最新美容情報としてはスレッドリフトやウルトラVリフトなどの糸が流行しているようで、それらの説明やワークショップが目立ちました。韓国発のウルトラVリフトは数十本も糸を入れてコラーゲンを増やすらしいのですが、糸は異物なので感染するとなかなか治らないというリスクが高いので、私的にはあまり賛成できないですねぇ。又、マイクロカニューレという先の丸い針で、内出血しないし麻酔なしでも痛くない!と宣伝していたものがあったので、早速サンプルを取り寄せて研究中の「腫れないPRP」で試してみたんですがダメでした。麻酔なしでは全然痛いし、今までの針で注射した時より腫れてしまった。うまくいかないもんだなぁ・・・。

 
 

 

そんな訳で今回の学会はあんまり目立った出席の成果はなかったのですが、別の意味で面白い人に出会いました。横浜で美容外科を開業したA先生と企業展示の会場を歩いていた時、やたらはしゃいでいろいろな先生と一緒に写真を撮っている賑やかな業者のお兄さんがいました。企業展示会場というのは、薬品や化粧品・美容医療機器などを扱っている企業がブースと呼ばれる小さく間仕切りされた場所に商品を並べ、企業の社員が学会に来ているドクターを捕まえて商品の紹介や説明をする場所です。ほとんどの学会では企業展示があり、私も何か新しいものや面白そうなものがないかとよく探しに行きます。A先生が賑やかなお兄さんの事を「S先生の息子さんですよ・・・」と教えてくれました。S先生と言えば美容外科の重鎮と呼ばれている、知らない人はいないくらい有名な先生です。え?ほんと?あの厳格そうなS先生の息子とは思えない軽い乗り。ありゃ・・・ちょっとホストっぽくない?






ブースの前を通ると「先生!先生! 活性型EGFの化粧品はいかがですか?」(まるで八百屋さんのノリです。)とその人に声をかけられました。当院ではFGF(線維芽細胞増殖因子)は使っていますがEGF(上皮細胞増殖因子)は使っておらず、「活性型EGF」というのは初めて聞いたので、「活性型ってどういう事?」などといろいろ質問しました。(私はこの手の事はかなり突っ込んだ理論的な回答を要求してしまいます。)すると彼は張り切って「説明させていただきます!」とパンフレットを取り出しました。後で調べると、活性型EGFというのは上皮細胞を増殖させる力(生物学的活性度)の高いEGFの事を指すようで、通常EGFは非病原性大腸菌か酵母菌から抽出して作られますが、高温で抽出するとEGFの生物学的活性度が落ちてしまい、低温で抽出するとその活性度が落ちずに活性度の高いEGF=活性型EGFを抽出できるようです。彼が売っている化粧品は低温で抽出した活性度の高いEGFを配合している・・・という事を説明したかったらしいのですが、彼は説明の初っ端に「抽出」という漢字が読めず、詰まってしまいました。そこからあせってしまってしどろもどろになり、最後は自分で突っ込みを入れて「説明になってませんね(汗)。これは宿題にします!・・・これも宿題にします!」と連発し、周りの人を大笑いさせて完結してしまいました。普通だったらカンペ用意しておきながら、「抽出」の字が読めないなんてありえないんですが、これがなぜか憎めないキャラなんです。



翌日また彼のブースの前を通ると、「す、すみません先生・・・」と声をかけられました。「先生、昨日いただいた質問って何でしたっけ? 実は先生にいただいたお名刺の裏に『宿題』とは書いてたんですが、肝心の質問の内容を書いてなくて・・・。『抽出』が読めなくて真っ白になり、すべて忘れてしまいました!(汗)」ブースにいたほかの社員も周りの先生も大笑い。(実は彼はこの会社の社長だった事が後で判明したのだが。)質問の内容を伝えると、「ありがとうございます! 先生、僕の事はこれから『抽出君』と呼んでください!」底抜けに明るい抽出君と話した時が、学会期間中で一番笑った時でした。(まあ、学会中にあんまり大笑いする事ってないですからね。) 
抽出君はその後メールで宿題の答を送ってくれたんですが、そのメールの書き方も普通の業者さんや学術担当の人とは全然違って、笑いの要素がたっぷりなんです。
「今晩は。Mr.抽出です。先生からの宿題「活性化の定義は?」と言う内容、ラボに問い合わせ、返事を添付ファイルにいたしました。活性化と、不活性化てなんやねん!?と、言う事ですが、お答えはズバリこれです! まとめますと、従来の商品に入っているEGFの抽出の仕方は、大腸菌から取り出すときに 90度以上の熱を使って取り出しております。EGFは、40℃以上の熱を与えると 元気がなくなってしまいます。私たちの使っているEGFはというと、ななななななんと。。。15℃以下で抽出を可能にしたEGFを見つけてしまいました。15℃以下で、と言う事は、40度以下で抽出されたため、元気もりもりなEGFがたんまりと出てきます。この元気なEGFを使う事によって100%EGFの効果を生かした、活性されたEGF美容液を作る事が出来たという事です。よけいわかりにくかったでしょうか?? またおい!これじゃわからないぞと、いうのがございましたら、何なりとご質問くださいませ。 」




そして抽出君は、宿題の答の後、プロフィールも教えてくれました。 「わたし、小学校まで神戸の学校に行っておりました。と、いっても住吉なのですが・・・王子動物園や六甲山遠足などよく神戸に行っておりました。なので未だにやっぱり神戸が大好なんです。神戸に行った際には是非先生のクリニックに遊びに行かせて下さいませ。
その後は、と言いますと・・・中学1年生のときから海外にいってそれから高校2年生で戻って来ました。だから漢字に弱く、「抽出」という日本語がよめないんです・・・(こりゃ完全な言い訳だな・・・^^;)
17歳のとき高校に通いながら親とは全く関係ない携帯電話屋さんの会社を起業し、 それから23歳まで大学なんて関係ね~~~と、思い受験等したことすら記憶にございません。。23歳ごろからなんか大学行っていない事がコンプレックスになり、大学受験をしようかな~~と志すものの勉強の仕方がわからず無駄に時間をすごし、起業した会社を売って26歳のときに地方に出ようと考え大阪に行きました。そして大学に入学。それからなぜか大学在学中に犬の調教師を目指し 大学行きながら犬の訓練所で6年修行し、訓練士になってついでに大学卒業し、帰京したというなんてアウトローな人生なんでしょう・・・・・・という事で今は医療業者になっております」




なんとまあ、いろんな人生があるもんですね。しかし、いろんな事をして来た抽出君の一番の才能は、周りの人を楽しませる事ができる事ではないかと思います。勿論、彼は私のようなマニア人種ではないんですが、底抜けに明るい性格とコミュニケーション能力は凄いな・・・と感心してしまいます。 彼のような社会性の高い人とオタク人種が手を組めば、本来は最高のチームになるんでしょうね。人間って一人では大したことはできないけど、お互いに補いあう人が集まってチームを作れば本当に凄いことができてしまうって事がありますものね。
そう言えば金環日食の写真が色々なWEBサイトにあがっていましたが、その中で一枚、綺麗な日食の輪を指輪に見立ててうまくそれを指で掴んで、彼女にエンゲージリングとしてプレゼントしようとしているような写真がありました。もうその映像の綺麗な事と言ったら・・・なんて素敵!!彼女羨ましい!って思うんですが、実際には天文マニア達は逆立ちしてもこんなロマンティックな事を考えつく人種ではありませんよね。(天文マニアの方ごめんなさい・・・。)きっと、天文マニアから情報を得たロマンチスト写真家のアイデアなんでしょう。 東北の震災以降は「絆」という漢字がやたら目に付きますが、人の「絆」や美しく輝く「輪」は一人の力では完成できないし、それ故に人の心を動かすものなんですね。

 

 

ところで、当クリニックもお陰様でこの7月に開業10周年を迎える事ができました。本当に皆様に支えていただいたお陰と感謝に堪えません。私のような者が10年間もどうにか自分のクリニックを運営できてきた事は奇跡に思えますし、その間に色々な面で支えて下さった皆様にはもうどのような感謝の言葉が適切なのかも分かりません。一人では本当に何も出来なかったと思うので、人の輪って本当に大切で、ありがたいものだなあとしみじみ感じています。これからも私ができない部分は誰かに補っていただきながら人の輪を継続し、より良い治療ができるように精進しようと決意を新たにする次第です。皆様にお支えいただいた事を重ねて感謝申し上げます。今月は本当にささやかですが10周年の記念企画も考えてみました。今後共、よろしくお願いいたします。