第102回  (2011年09月)  「潜入捜査」

  

こんにちは。柴田美容皮膚科クリニックの柴田です。とても暑い日が続いていましたが、この原稿を書いている2日間程はかなり過ごしやすい気温になりました。しかし、このまま秋に突入・・・って事はなさそうですよね。例年9月くらいまでは夏日が続く事がありますので、皆様も体調にはお気をつけください。  
夏・・・と言えば私にとって最大の楽しみは神戸の花火大会です。子供の頃は夏休みはイベント目白押しで人間が最もアクティブになる季節・・・だと思っていましたが、この年になると「夏は暑くて体調を崩しやすく、生産性が上がらないので休みを多くして体調管理をしましょう」という夏休み本来の意図が良く分かるようになりますね。そんな訳で、暑い夏でも涼しくなった夜に、色とりどりの大輪の花を咲かせる夏の風物詩・・・花火大会は、私にとって最大の楽しみです。昨年、一昨年となぜか学会がこの花火大会に重なってしまって見る事ができなかったのですが、今年はそれもなく3年ぶりのお楽しみとなりました。幸い私の住んでいるマンションの屋上からは非常によく花火が見えます。年に一回だけ住人特権を利用して屋上で花火を見る事ができるのですが、目の前に広がるきらびやかな神戸の夜景に大輪の花火が映え、とても綺麗な夜空の宴に大満足でした。やっぱり花火はライブに限りますねぇ。写真とかテレビではあの「ドン!」とお腹を揺らすような地響きが伝わらないし、大玉が綺麗に咲いた時に見ている皆で 「わぁ!素敵!綺麗!!」と叫んで拍手をし、大人も子供も一緒に盛り上がるって機会はなかなかないもんです。そんな久しぶりの花火大会に大満足でした。

実は私の住んでいるマンションは、花火が綺麗に見える穴場スポットのため、当日は外部の人は勿論住人であっても、屋上に上るのには警備員が立って入場制限がかけられてしまいます。当日は早くから申し込みをした上で、入場許可証をもらうために並ばなければなりません。(この21世紀にあってなぜか未だに並ばされて早い者勝ち・・・なんですねぇ。もう少しスマートに抽選とかしたらいいのに・・・って思いますが。)ま、それはともかくここの屋上には、住人だけが集う事ができるちょっとしたパブリックスペースがあります。最近はマンションでもロビーにパブリックスペースがあるところが増えてきましたが、それが最上階にあるのです。そして、そこで金曜と土曜の夜だけバーテンダーらしき人が来て「その時だけバー」みたいな感じで営業されます。ただ、バーと言ってもそこの住人だけを対象としているため、お客さんはとても少なく、私も数回行きましたが土曜日でも他のお客さんに一組会えば多い方・・・ってな感じです。まぁ・・・ゆったりできるって意味ではいいのですが、商売ベースでの営業ではないため、お酒もおつまみもマトモなものはほとんどなく、ワインやチーズは自分で持って行った方がいいという不思議なバーです。(本来はバー営業の時は持ち込みはダメなんだそうですが、もうそんな事は身内の世界なんで誰も気にしてないようです。) 私も住人になりたての頃は珍しかったので何回か足を運びましたが、自分の部屋の方が酔っ払った後もすぐに眠れる事もあってか、最近は全く行ってませんでした。ただ、花火大会の時にはそのバーもどき(?)も営業するので、久しぶりにそのバーテンダーさんとお会いする事になり、花火の終わった後、色々なお話で盛り上がる事になったのです。

 

 

このバーもどきは暇な事もあって、バーテンダーさんの仕事のほとんどはお酒を作る事ではなく、お客さんのお話相手って感じなんですね。このバーテンダー氏はとっても人が良く、親切で好印象の方です。お年は50歳前・・・ってところで礼儀正しいM○タクシーのドライバーさんって感じの方でしょうか。私は通常バーに行くとバーテンダーにお酒の話を聞くのが好きな方です。やっぱりどの世界でもプロはプロとして私達には知らないウンチクを教えてくれるもので、私は「オタク」と言われるようなのめり込み方をしている人のお店が大好きです。お寿司屋さんだったら魚オタクの主人がいいし、バーだったらお酒オタクの店が一番です。北野坂にあるスコッチオタクの主人の店なんか、年に一回自分でアイルランドやイギリスのスコッチの醸造元を回って最高のものを直接仕入れてくるというマニアぶりで、そのために毎年10日程営業を休んでいます。そんな人はスコッチの事を話しだすと嬉しくて止まらない・・・って感じで、私はハードリカーはあんまり飲めない方なので、そのバーでの最高の肴はオタク主人のウンチク話だと思っています。そんな訳で例にもれず、この即席バーのマスターにも色々とお酒の話を聞くのですが、もう一つパッとしない・・・。正確に言うとパッとしないどころか、ほとんど知らないって感じなんですね。じゃ・・・どうしてここのバーテンダーをしているのかと聞くと、このマンションの管理会社が委託している飲食関係会社の社員さんだそうで、週末だけ派遣されてバーテンダーをしているのだとか。そりゃ・・・お酒のウンチクがなくても仕方がないねぇ・・・と思ったのですが、意外にも料理の話になると結構生き生きと話をするのです。詳しく聞くと、数年前までは自分でイタリアンレストランを経営していたが、営業不振からやむ無く閉店。そして出店の時に抱えた借金だけが残り、サラリーマンとして飲食関係会社で働きながらバーでバイトをして、コツコツと借金を返している・・・そうなのです。

 

 

 

なんかお話聞いていると大変ですねぇ。ただ、この方のいい点はそんな人生の失敗談であっても非常に明るくポジティブに語ってくれる事で、私もつい突っ込んだ事情なんかを聞いてしまいます。そう言えばお店に行って主人と話する時って、どうしても人気店に行くからか、繁盛している店の主人と話はしても、店が上手くいかず閉店した上に借金だけ残って今は地道にそれを返しています・・・って人の話を聞く機会なんてほとんどないんですよね。でも実際に話を聞くと成功談よりも失敗談の方が私にとっては勉強になる(身につまされる?)事が多く、結構ためになる話だな・・・って思いました。そんな訳でちょっと変わった話題を肴に花火の後の余韻を楽しむ事になったのです。バーテンダー氏曰く、開店当初はそこそこお客さんも入ってそれなりにやっていける状態だったのが、2年程経過した頃からお客さんが減り始めて、何をやっても増える事がなく、そのまま売上が減っていき、とうとう閉店を決意せざるを得ないところまで追い込まれたそうです。それだけであればよくある話なのですが、彼の素晴らしいところは、閉店した後になぜ自分のお店がダメになったのかをきちんと反省して検証した事なんです。曰く「私がお店を始めた頃は近所にイタリアンも少なく穴場的な事もあって、結構お客さんが来てくれてたんです。しかし数年の間に近所にはイタリアンのお店はどんどん増えていき、新しい料理のスタイルや味、雰囲気共に時代の流れに合わせて変化していったのに、自分の店はその流れから完全に取り残されてたんですね。その間に自分がやった事と言えば、お店の営業時間をひたすら長くして売上を補おうとしたんですが、今思えばそれも大きな失敗だったと思います。ほとんど休みを取る事もなかったので、他のお店がどんな事をしているかという事を偵察する事もせず、自分の古い殻に閉じこもってしまい、新しい事を取り入れなかったな・・・って、お店を辞めてサラリーマンに戻って初めて分かるようになりました」

 

 

 

う・・・ん。この話はどこかで聞いた事があるなぁ。そうだ、私の好きなレストラン評論家の友里征耶の「グルメの嘘」って本にもほぼ同じ事が書いてありました。(友里さんは以前のクリニック通信でも紹介した「ガチミシェラン」って本を書いた人で、本当の事をズバズバ言っちゃうので大好きな評論家です。ただあんまり本当の事を書きすぎて、相当その業界からは嫌われているようなんですが・・・)氏曰く、一般の人は料理人は最もグルメ事情に詳しいと思ってしまうが現実は反対で、お店を休めない事もあってほとんどの料理人は他人の料理を食べた事がない。しかもたまの休みにはフレンチのシェフは自分のフレンチに飽きているのでつい和食などの店に行ってしまう。しかし、いい店の条件は店の主人が他の料理店に頻繁に通って新しいものを吸収し、絶えず勉強して自分の殻に閉じこもらない事であるという趣旨の事が書かれていました。そう言えば今はなき伝説の神戸の名フレンチ店「ジャン・ムーラン」のシェフも、お店を辞める時に雑誌のインタビューで「その店が美味しいかどうかはシェフが休みの時にどれだけ他のお店を食べ歩いたかで決まる」って話をしていたのを覚えています。その雑誌の記事を読んだ時は「そんなもんなのかなぁ・・・」って位にしか思わなかったんですが、自分でクリニックを経営するようになると本当に身につまされる思いがします。正直に告白すれば、私自身は他の美容系のクリニックに患者として行った経験は数回しかありません。新しい治療方法の情報は学会で仕入れますし、雑誌などの情報については医者仲間に聞いたり製薬会社の学術の人に聞いてその真偽を確認したり、文献を調べたりします。勿論、新しい治療方法などは真っ先に自分で試しますし、改良した治療方法もまず知り合いの治験者に協力してもらい、その上でモニター募集をして効果や安全性を確かめます。自分なりに新しい事へのチャレンジは忘れていないつもりなんですが、それでも患者として他のクリニックへ行った事が少ないという事は、何か決定的に重要な事を忘れているような気がしました。「そんな事で本当に患者さんの気持ちになる事ができるのだろうか?」って自問自答した訳です。色々と考え、やっぱり実験室に閉じこもってばかりじゃダメで、自分も患者として他のクリニックで治療を受けてみるべきだな・・・って思うようになりました。

 

何でも反省すればすぐに行動・・・という事で早速、Iクリニックに行ってみました。Iクリニックはホームページを見る限りでは、レーザー治療より注射治療に力を入れているようでした。独自の注射などがある点が当院と似ています。電話で予約を入れて、アポイントの日にでかけました。待合室では初診ですので色々と問診票に記載します。(これは私のクリニックでも同じですね。)そこで過去に行った事のある施術という欄があったので深く考える事もなく「PRP」って記載してしまいました。そうするとスタッフの人がやってきて「どこのクリニックでされたのか?」とか「その時の効果の具合は?」とか「副作用は?」とか根掘り葉掘り聞かれてしまい、ちょっとタジタジです。あ・・・いらん事書かなければよかった・・・と内心思ったのですが、もう時既に遅し。なんとか適当な事を言ってごまかし、問診票記入を終えると今度は診察が開始されるまで待合室で待つ事1時間。

 

 

 

ここでまた反省する事しばし。クリニックで診察が始まるまで待つ時間がこんなに長く感じるとは思っていませんでした。当院では待ち時間が長くならないように努めてはいるものの、混み合っている時はやはりお待たせしてしまう事もあるので、本当に申し訳ないと深く反省した次第です。同じ待つのでも、興味のある美容系の情報がたくさんあればそれを見て過ごす事もできますが、それも見尽くして何もせずに待っているのって退屈してしまいますよねぇ。当院も同じような事をしていたかと思うと忙しい皆様に申し訳なく、待ち時間を短くしたり待ち時間を潰せる工夫をもっとせねばと思うと同時に、これだけでもやっぱり他のクリニックに患者として行ってみるべきだな・・・と思いました。 そして、名前を呼ばれて診察室に・・・。
I先生は非常に気さくな雰囲気の方で、ちょっと安心しました。そこで、何とか普通の患者さんのフリをして自分なりにお肌の悩みを話そうとしたんですが、
I先生:「やっぱり・・・柴田先生ですよね?」・・・と一言。
柴田: 「え・・・あ・・・。 あれ? やっぱりバレてました?」
I先生:「そりゃ・・・入って来られた時に判りましたよ。先生のホームページはよく拝見してますし、先生の顔
          写真は沢山出てますからね・・・(^-^)」
柴田: 「はぁ・・・」
I先生:「私も開業する際にはご挨拶にと思っていたのですが、機会を失ってしまって、失礼致しました」
柴田: 「いえいえとんでもない・・・。でも、今日は患者として来たんですけど・・・」
I先生:「そんな神戸みたいな狭いところで・・・。柴田先生だと、どこに行ってもすぐに分かりますよ」
柴田: 「あ・・・。バレちゃったら仕方がないんですが、決して何か偵察に来たとかそんなつもりじゃないの
          で、先生の注射治療で自信のものを一つお願いできませんか?」
I先生:「あはは・・・。それは勘弁してくださいよ」

・・・ってな感じで、第一回目の潜入捜査は見事に失敗。I先生も妙に恐縮されてしまい、結局治療を実際に受ける事はできなかったのですが、それでも非常におおらかで前向きな方であるようで、色々な情報交換で1時間近くお話させていただく事ができ、お礼を言ってIクリニックを後にしました。私にとっては非常に有意義だったのですが、やはり先に出た友里氏に言わせると失敗だった事には違いない。友里氏曰く「正確な批評をしようとすれば必ず覆面で来店すべきである。昨今はお店の店主と知り合いである事を自慢する勘違い甚だしいフードライターがいるが、知り合いであったり批評家であると判れば、必ずその店主はその日に最も良いものを提供しようとしたり、サービスでも普段にはない力を入れるはずである。プロが最高の力をそのお客だけに出せば非常に良いものが出て来るのは当たり前である。しかしながら、本当に読者が望んでいるお店の批評とは特別な待遇をされる一部のお客に出される料理ではなく、名もない一般の人が普通に来店した際に出される料理やサービスへの批評であるはずなのだ」ってありました。 本当に同感です。私もレストランに行く客だったら本当にそう思います。だとしたら、私も他のクリニックに行く場合は覆面で行かないといけないんですが、料理店と違ってクリニックは保険証とかを出さねばならないのでかなり難しいですね。でもなんとか知恵を絞ってこれをクリアし、勉強を続けたいと思っています。そんな事で美容クリニックへ患者さんとして行く事はまた後日チャレンジしますが、クリニックだけが美容に求められるものではなく、美容院やメイクアップ、ネイルサロンなど、美を追求するプロの職場に行ってみるという事は比較的簡単なので、今でもチャレンジしています。それらの訪問は本当に凄く勉強になっているので、また機会があればそのようなお店の来訪記などを書きたいと思っています。

 

 

そんなこんなで・・・。花火大会も引けて、久しぶりに住人で賑わっていたパブリックラウンジも静まり、すっかり元の静かなバーに戻ってしまいました。
柴田:「また機会があれば、自分でお店しようと思います?」
バーテンダー氏:「う~ん。どうでしょうね。サラリーマンに戻ってみると自分が自分のお店を経営するってのに向いていないんだな・・・ってよくわかるんですよね。これはこれで今の生き方でいいような気がしています。昔は何か特別な事をしようと思って焦っていたんだけど、今となると普通の事を淡々とやっていくって事も大事な事なんだなぁ・・・って思うんですよね。ま・・・何を言っても上手くやれなかった奴の言い訳みたいに聞こえるでしょうけど」 
花火大会という特別なイベンドは確かに沢山の人を魅了して感動を与えてくれたんですけど、そのイベントが終わった後の静かな神戸の夜景も相変わらず素敵です。また、お楽しみは来年まで取っておかないと・・・。明日から普通の日常に戻ります。この神戸の夜景のような日常であればいいですね。