第4回 (2003年07月) 「手術の進歩 ~ダーマボンドの登場~」

  

4_1.jpg

こんにちは!異人館通クリニック院長の柴田です。
緑がまぶしい季節となり、夏もすぐそこですが、皆様いかがお過ごしでしょうか?クリニックも1周年がすぎ、新しい治療法をどんどん研究開発する余裕も出てきました。これから毎月新製品をご紹介できるようにと、日々奮闘中です。
自分でよりよい製品を開発するのはもちろんですが、医療の世界もどんどん進歩していますから、常にアンテナをはりめぐらせ、よいものはどんどん取り入れようと思っています。
今回は手術用製品のお話です。

4_2.jpg

「こんにちは・・・先生いますか?」
おそるおそるクリニックを訪ねてきたのは、従姉の息子で17歳になるK君です。 柴田 「あれ?どーしたん?」
K君は素朴な野球少年で、おしゃれや美容に興味がありそうには見えません。およそうちのクリニックに似合うはずもなく、待合室で待つのもまわりが女性ばかりなので、恥ずかしそうにしています。K君はクリニックに来るのは初めてでした。

K君 「ここってほんとに病院?すごいとこやねー・・・」
柴田 「うーん。あんたの来るとことは違うかも。今日は何しに来たん?」
K君 「実はホクロを取ってほしくて・・・」
柴田 「え?ホクロ?」

K君は野球部のキャッチャ-をしていて、スポーツ刈りで体格もごつく、およそホクロを気にするようなタイプには見えないのですが、やはり年頃なのかなーと笑ってしまいました。
(しかしこの野球部というのが、後日問題の原因となるのですが・・・)

柴田 「取るのは簡単やけど・・・。麻酔の注射は痛いよ」
K君 「え・・・!ど、どれくらい・・・?」
柄にもなくK君はびびっています。
柴田 「うーん。キャッチャ-フライ取り損ねてあたった時より痛いかなー」
K君 「え・・・!!」
柴田 「それに抜糸まで1週間はテープ貼ったままで、傷は濡らされへんよ」
K君 「え、シャワーも浴びられへんの??」
柴田 「うーん、うまいこと濡らさへんようにしたらいいけど・・・。でも、汗かいたら傷が化膿しやすいから、
   野球はでけへんね」

K君はガックリ肩をおとしてしまいました。K君から野球を取ると何も残らないようです。また、傷が濡らせないということもK君には大問題でした。K君は汗かきなので、朝晩頭からシャワーを浴びないと気がすまないらしいのです。
ホクロは母斑細胞という細胞が真皮まで深く根をはっているので、再発しないように完全に切除するには皮下組織まで深く切らなければなりません。皮膚表面を削るだけではないので、濡らすと化膿しやすく、細菌が皮下まで入ると大変なことになります。そのためホクロの手術のあとは、抜糸まで傷を濡らさないよう、厳重に注意しなければならないのです。傷を濡らせないのは不自由ですが、そういう理由でホクロの手術のあとは1週間ガマンしてもらいます。また、化膿しないように抜糸までは消毒に通わなければいけません。それもK君には大変なことだったようです。
「こんな女の人ばっかりのところに何回も来なあかんの??」
意外な事に、K君はテープを貼るということにもかなり抵抗があるらしく、「それやったらもうちょっと考える・・・」とガッカリして帰っていきました。

4_3.jpg

それからしばらくして形成外科の学会があり、器械展示の会場で「何か新しくていいものはないかな・・・」と捜していた時です。
ふと目にとまったのが「ダーマボンド」。皮膚の接着剤があるではありませんか!手術後の傷に塗ると固まって透明なフィルムとなり、水に濡れても大丈夫、という代物。透明なので目立たないし、傷が治ると勝手にはがれ落ちるといいます。これならシャワーも浴びれるし、テープもいらず、何回も消毒に来る必要もありません。
「これって、K君にぴったりやん!」
同時に見つけたのが「麻酔パッチ(貼る麻酔)」です。テープに麻酔薬がついていて、1~2時間貼ると注射の痛みがずっと楽になるという便利なもの。さっそく試してみようとサンプルを手に入れ、帰路につきました。

まず自分の腕に貼って点滴をしてみると、
「アレ!?全然痛くない!これ、いいやんー!」
次はK君で実験だ!
「もしもしK君?いいもの見つけたよ!」
電話でダーマボンドと麻酔パッチの話をすると、K君は飛んできました。やはりホクロはずっと気になっていたようです。さっそくK君のホクロで麻酔パッチとダーマボンドを試してみることに。

しかしダーマボンドにも難点がありました。出血した上から塗ると血液が外に出ないので皮下血腫になり、傷が治りにくくなることと、ダーマボンドが合わせた皮膚の間に入ってしまうと皮膚がつきにくくなることです。それをどうやってクリアするか?
「そうだ!手術の翌日に塗ればいいんだ!」
ホクロの手術ではたいてい出血も当日でおさまるし、翌日になれば合わせた皮膚の間にダーマボンドが入る隙間もなくなります。1日だけ縫合して次の日に抜糸し、ダーマボンドを塗る。これで難点は解決だ!

一日だけテープを貼るのを我慢するようK君に言いきかせ、さっそく麻酔を貼ります。
「そろそろ効いたかなー?」
1~2時間貼って、パッチを剥がす感覚が鈍くなればOKです。麻酔パッチは表面麻酔なので、念のため麻酔の注射を追加します。
柴田 「大丈夫?」
K君 「うん。ちょっとチクッとするくらい。キャッチャーフライより痛くない!」
K君は無事手術を終えることができました。

翌日、抜糸をしてダーマボンドを塗ります。一日で抜糸すると糸の跡はほとんど残らず、傷はとっても綺麗です。テープも貼らなくていいし、シャワーも浴びれるとなってK君は大喜び。
柴田 「あんまり長くお風呂入っちゃダメよ。ちょっと濡れるくらいならいいけど・・・ 。
   それと、傷口をかいたり、野球して汗かいたりしちゃダメよ」
注意を聞くか聞かないかで、「うん、大丈夫!」K君はいそいそ帰っていきました。

ところが2日後!念のため傷を見せに来るように言っていたので来院したK君を見て、スタッフはビックリ!
スタッフ 「先生・・・!フィルムが取れたみたいなんですけど・・・」
柴田 「え゛!!なんやて!」
おそるおそる診察室に入ってきたK君に院長のカミナリが。
柴田 「あんた、何したん!!」
K君 「・・・実は昨日、OB戦に人数が足らん、って急に呼び出されて・・・」
野球部というのは先輩には絶対に逆らえないらしい。キャッチャ-に借り出されたK君は、運悪くチップがキャッチャーマスクにあたり、マスクがずれて傷をこすったようで、ダーマボンドが剥がれてしまったのです。
柴田 「もー、あれだけ野球したらあかんって言うたのに!バイ菌入ったらどーすんの!」
怒りながらダーマボンドの付け直し。幸い抗生物質やプラセンタの点滴で化膿には至りませんでしたが・・・。

数日後、受診したK君はなぜかビクビクしています。
診察室に入るなり、「今度は野球してへんよ!何もしてへんのに、フィルムが剥がれてきて・・・」と必死の言い訳。傷を見ると綺麗に治っていて、フィルムも剥がれかけています。
柴田 「何あわててんの。これは傷が治ったら自然にはがれおちるって言うたやん。」
K君 「え・・・!そうやったん?僕また怒られると思って・・・」
スタッフ 「よっぽど先生、恐かってんねー」
みんなで大笑い、となりました。

K君のおかげでダーマボンドと麻酔パッチの有用性もわかり、この2品は現在クリニックで大活躍。
麻酔パッチは他の注射にも使えますから、痛いのがいやな方は、ぜひ試してみて下さいね。